公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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パノラマ

コラム


◇我が心のアメリカ映画  2012年3月14日掲載 <<コラム一覧へ戻る

  岡田晋吉


2012年
4月1日(日)〜7月1日(日)

 
映画の都 ハリウッド
〜華やかなるスターの世界〜
詳しくは、
鎌倉市川喜多
映画記念館ホームページ

 
本文でとりあげられた映画作品
 
4月27日(金)〜29日(日・祝)
「卒業」
(1967年/106分)

監督:マイク・ニコルズ
原作:チャールズ・ウェッブ
出演:ダスティン・ホフマン
キャサリン・ロス
アン・バンクロフト
 
 
5月4日(金・祝)〜6日(日)
「ローマの休日」
(1953年/118分)

監督:ウィリアム・ワイラー
脚本:イアン・マクレラン・ハンター
(ダルトン・トランボ)
出演:オードリー・ヘプバーン
グレゴリー・ペック
 
 
6月19日(火)〜21日(木)
「夜の大捜査線」
(1967年/110分)

監督:ノーマン・ジュイソン
原作:ジョン・ボール
脚本:スターリング・シリファント
出演:シドニー・ポワチエ
ロッド・スタイガー
 
他全14作品上映します。
 
執筆者紹介
岡田晋吉
 1935年、「鎌倉」生まれ、慶応義塾大学文学部仏文学科1957年卒業。
 石原裕次郎とは慶応義塾大学の同期である。
 1957年、日本テレビ放送網株式会社に入社。アメリカ製テレビ映画の吹き替え担当を経て、1964年から日本製テレビ映画のプロデューサーとなる。
 作品は、アメリカ製テレビ映画:「世にも不思議な物語」「幌馬車隊」など、テレビ映画としては、「青春とはなんだ!」「飛び出せ青春」「太陽にほえろ!」「傷だらけの天使」「俺たちの旅」「俺たちの朝」「あぶない刑事」「いろはの“い”」「俺たちは天使だ!」「忠臣蔵」「白虎隊」「警視K」など多数。
 竜雷太を初めとして、松田優作、中村雅俊、勝野洋などを育てた。
 現在は「公益財団法人川喜多記念映画文化財団」の業務執行理事。

 私どもが企画制作に携わっている「鎌倉市川喜多映画記念館」に於いて、4月1日から3ヶ月間「映画の都ハリウッド〜華やかなるスターの世界」というテーマで、展示と上映、講演を行います。振り返ってみますと、私の青春はアメリカ映画と共にありました。戦争に負けて、ろくな食べ物も、楽しめる娯楽もなく、希望の無い生活をおくっていたとき、アメリカ映画は私の気持ちを明るく盛り立て、将来このような映画を作ってみたいと夢をふくらませてくれました。私たちを敗戦の不幸に追い込んだアメリカ製の映画に、わずか数年であこがれてしまうとは節操のないことですが、こんな素晴らしい映画を作る国なら負けても仕方がないと、アメリカ映画の迫力に圧倒されてしまったのです。

 私が初めてみた映画は、「打撃王」でした。まだ中学3年生でしたが、2130試合連続出場の記録を持つヤンキーズの鉄人ルー・ゲーリックの半生を描いたこの映画には強い感銘を受けました。監督はサム・ウッド、演じるはゲーリー・クーパー。私は未だにクーパーのファンで、今回の企画にも職権を乱用して(?)クーパーの主演する「昼下がりの情事」を加えてしまいました。

 「打撃王」の話に戻りますが、この映画でもっとも感動したのはラストシーンでした。さしもの鉄人も病には勝てず球界を引退していくゲーリックの背中に掛かる「プレイボール!」という声には涙が止まりませんでした。その声には「ゲーリックは去るが、また新しいスターが生まれますよ」ということを暗示していました。映画館を出てからも、この「プレイボール」という声がいつまでも頭の中に残りました。この言葉には、将来に対する夢を感じるからです。私も、大人になってテレビ映画のプロデューサーとして1000本近くの企画を立案しましたが、何回もこの「打撃王」のラストシーンの精神を、私なりに生かしました。「太陽にほえろ!」のときも、「俺たちの旅」に始まる「俺たちシリーズ」のときも、この「打撃王」のラストシーンを思い出し、「END」という言葉は書かずに、ドラマの主人公たちの将来に夢を持たせる形で終わりました。アメリカ映画はいつも、最後のセリフ、最後のシーンに魅力があります。

 今回の「映画の都ハリウッド」企画の上映作品にもこんな素晴らしいラストシーンが見られます。まず「卒業」です。抑えていた感情を一気に爆発させて、およそ常識では考えられないような思い切った行動をとる主人公は英雄にみえます。結婚式に乗り込んで、花嫁を奪っていくのですから、実際にこんな人が現れたら結構迷惑な話かも知れませんが、ドラマの上だと感動が生まれます。私は、この手に触発され、主人公の「愛」の強さをえがくときに、このような非常識とも思える「行動」をあえて描きました。一つ間違うと、観客をしらけさせてしまいますが、シナリオ上、綿密に計算して使えば、感動を生む非常に有難い設定でした。

 次は「ローマの休日」です。ウィリアム・ワイラー監督、オードリー・ヘップバーン、グレゴリー・ペック主演のこの映画は、テレビで何回放映しても、必ず20%をとる貴重なコンテンツです。初めて見たとき、ヘップバーンの魅力は、それまでのグラマラスな女優さんたちの魅力と違う、全く新しいものとして、驚きを感じ魅了されてしまいました。ストーリーも王女の奇抜な冒険ものがたりで、日本の皇室のあり方とも比較して、ありえないものだが、あって欲しいものとして日本人の心を打ったものと思います。日本人の好みに合った映画なのでしょう。私は、この映画のラストシーンに感動しました。グレゴリー・ペック扮する新聞記者がせっかく掴んだ「王女による秘密のローマ探検記」という特種を王女のために放棄するところでした。私は、「いろはのい」という竹脇無我、寺尾聡、藤岡琢也などが主演する新聞記者を扱ったテレビ映画の中で、その記事を発表すると、被害者が迷惑するという事件を設定し、若い記者が悩みに悩んだ末に、その特種を没にしてしまうというストーリーを展開させました。更に、部下が記事を没にしたことを感じた上司(藤岡琢也)がわざとしらぬふりをする芝居も付け加え、感動を倍加させました。

 最後にもう一つ、「夜の大捜査線」。ノーマン・ジュイソン監督で、黒人俳優が初めて主演をした映画として有名です。主役を演じたシドニー・ポアチエはこの一本で、ハリウッド・スターとなりました。これもラストシーンが秀逸で、忘れられない感動的なシーンとして、私の頭に残っています。黒人が大嫌いで軽蔑さえしている地元の田舎町の警察署長(ロッド・スタイガー)と、たまたま旅行中にこの町を訪れた黒人のフィラデルフィア市の刑事が、その地で起きた事件を解決するという話ですが、黒人刑事が地元の警察官からいろいろと邪魔されながらも、我慢強く捜査を続ける様はサスペンスに富み、感動的でさえありました。私は、この設定を松田優作と中村雅俊が共演した「俺たちの勲章」という作品で、他県の警察署管内に乗り込んでいく設定の中で、刑事同士の「摩擦と和解のドラマ」を作りました。特に、事件解決後、黒人刑事の荷物をさりげなく持つ署長の動作で、二人の間に友情が芽生えたことを示すシークェンスも、第一話のラストシーンで、地元の刑事が横浜から来た刑事に地元の特産ラーメンを差し入れて、両者の間に友情が芽生えたことを分らせるシーンを作り、成功を納めました。

 私だけでなく、私と同年輩の日本の脚本家やプロデューサーは、しばしばアメリカ映画のエピソードを参考にしています。ある脚本家に、打ち合わせで、「今度の話はどの映画でいきますか?」といわれて驚いたこともあります。それほどアメリカ映画は日本の作品に大きな影響を与えてくれています。そんな意味でも、今回上映される往年のアメリカ映画をぜひ見ていただきたいと思います。

 特に、そのラストシーンの魅力を堪能して下さい。


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