公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇釜山国際映画祭 2012/10/4-13
  Busan International Film Festival

 
 
メイン会場周辺。道路にもレッドカーペットが敷かれている。
 

受賞結果概観アジア映画支援日本映画・日本人ゲスト
釜山シネマフォーラム&アジアン・フィルムマーケット



**受賞結果**
New Currents賞  『36』 NawapolThamrongrattanarit監督(タイ)
     Kayan Maryam Najafi監督(カナダ/レバノン)
Flash Forward賞  『Flower Buds』 Matteo Zdenek Jirasky監督(チェコ)
NETPAC賞  『Jiseul』 Muel O監督(韓国)
国際批評家連盟賞  『36』 NawapolThamrongrattanarit監督(タイ)
PIFF メセナ賞(最優秀ドキュメンタリー)   『Embers』 Tamara Stepanyan監督(レバノン/カタール/アルメニア)
 『Anxiety』 Hwan-ki MIN監督(韓国)
Sonje 賞(短編)   『A Little Father』 Nikan Nezami監督(イラン)
 『The Night of the Witness』 Buem PARK監督(韓国)
 *スペシャルメンション> 『転校生』   金井純一監督(日本)
KNN観客賞   『Touch of the Light』 Chang Jung-Chi監督(台湾)
Asian Filmmaker of the Year賞   若松孝二監督(日本)
Korean Cinema Award   林加奈子(日本)
(『』内は英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**

高層ビルの建設が
進む海雲台(ヘウンデ)
 

 第17回釜山映画祭は会期中を通して好天に恵まれ、和やかな雰囲気の中で繰り広げられた。どの映画祭においても天候は映画祭の盛り上がりを左右しかねない重要な要素であるが、海雲台(ヘウンデ)ビーチでのゲストを迎えての数々のイベントや、ビーチ沿いに設けた[BIFF VILLAGE]の多種多様な出店を映画祭名物としている釜山映画祭においてはなおさらである。

 今年は開催期間が例年の9日間から10日間へと一日増え、土曜日が最終日となっていた。映画祭側の発表によると、より多くの市民に映画祭に親しんで欲しいという思いからの決断で、来年は日曜日まで延長することも考案中とのことである。とにかく市民目線の映画祭である。300本あまりの作品を市内数か所で上映し、20万人以上の集客に成功するという「規模感」、釜山市を挙げて盛り上げよう、盛り上がろうとしている「祝祭感」など、そこかしこにベルリン映画祭やトロント映画祭との類似性を感じたりもする。そしてもちろん釜山市のローカルイベントにとどまっているわけではない。韓国国内最大の映画の祭典ということで、期間中は毎日多くの韓国メディアに大きく取り上げられている、韓国を代表する文化行事である。

 釜山映画祭には日本及び香港、中国をはじめとするアジア諸国、さらには欧米・南米からも俳優・映画関係者が意気揚々として訪れる。韓国の芸能人に関して言えば映画俳優のみならず、ミュージシャンやタレントなどがソウルから大挙して押し寄せて宴を盛り上げるため、彼らを追って相当数のファンが各地からやって来る。その中にはもれなく日本からの観光客も含まれていて、メインホテルまわりで「出待ち」をしている日本女性たちはもうすっかり風物詩化している。さらに今年は例年よりもはるかにパーティの数が多かったように思える。各国の公的機関が主催するパーティに加えて、特に韓国の会社単位での会が増えている。一晩に複数のイベントが開催され、賑わっていた。

 国際色が(といってもアジアにこだわる姿勢は変わらないが)より増した感があった。オープニングセレモニーの司会には韓国の国民的俳優、アン・ソンギ氏とともに中国人女優、タン・ウェイ氏を配し、オープニング作品に香港映画(中国との合作)、クロージングにバングラディシュ(ドイツとの合作)、今年の大きな目玉としてアフガニスタン映画の特集上映を組んだ。

釜山シネマセンター前広場にて
 

 メイン会場である釜山シネマセンターは昨年、なんとか映画祭で使用できる状態にはなっていたとはいえ、完成とは言い難かったが、今回は万全の体制での使用となった。その他の上映会場もシネマセンター近辺にかなり集中しており、そのエリア内では道路にもレッドカーペットが敷き詰められたり、上映作品たちのバナー(旗)がはためいたりして映画祭モードに溢れていた。Lee Yong Kwan氏の単独ディレクター体制も2年目になり、新たに常設の牙城も完備しての開催ということも手伝ってか、今年の釜山映画祭からは例年以上に抜群の安定感が感じられた。

 それにしても訪れるたびに釜山(というより海雲台地区が、かもしれない)はめまぐるしい変貌を遂げている。気づいたら高層マンションが林立しており、地元の人たちはシンガポールになぞらえたりしているそうだ。映画祭発祥の地である南浦洞など、昔ながらの地区とのギャップは相当なものがある・・。

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**アジア映画支援**

 釜山映画祭が主催するアジアン・シネマ・ファンド(ACF)は、独立系アジア映画の製作支援において存在感を増しつつある。2007年にスタートし、アジア映画を対象に脚本ディベロップメント、制作、ポストプロダクションという三つのカテゴリーに対しての助成を行っている。世界の映画祭等でこの種の助成をしている基金は少なくはないのだが、そのほとんどは助成対象を発展途上国の作品に限っており、日本作品は対象外であることが多い。が、ACFはいわゆる‘先進国’であるか否かにはこだわっていない。関係者によると「インディペンデント作家が製作資金において直面している問題はほぼ万国共通」という現実を踏まえ、それに即した緩やかな対応を心掛けている、とのことである。先進国である日本でも独立系映画製作者が資金難に苦しんでいるのは周知の事実として捉えている、とも。同映画祭で今年プレミア上映が行われた、船橋淳監督の『桜並木の満開の下に』はACFの‘ポストプロダクションに対しての支援作’に選出され、韓国でのポストプロダクションを経て、完成した作品である。この基金によって救われる日本映画はこれからも出てくるであろうと思われる。

 ACFや数々の賞を通じての新人映画人への支援(賞の多くは新人監督作品を対象にしており、映画を専攻している大学生を審査員にしている賞もある)、アジアン・フィルム・アカデミーを通じての映画人育成と並んで、韓国映画のプロモーションの場としての機能を一貫して果たしてもいる。総上映本数の多い映画祭だからできることではあるが、「コリアンシネマトゥディ」部門をはじめ、長編新作だけでも30作品以上が上映され、韓国映画を見ることを主目的に釜山を訪れる関係者たちのニーズに応えている。ホン・サンス、キム・ギドク、ポン・ジュノ、パク・チャヌクなど今では世界的にも評価の定まっている監督たちを初期の段階からサポートし続けてもいる。

 また韓国映画やすでに映画文化の発達している東アジア圏の作品のみならず、それまで注目度の低かったアジアの国の映画の紹介を果敢に続けている。今年はアフガニスタン国立フィルムアーカイブがタリバン政権からなんとか守り抜いた6本を上映し、話題を呼んだ。

 釜山映画祭がアジアでの映画祭の中で中心となるまで成長した背景には、国を挙げての資金面でのサポート、韓流ブームの恩恵に浴しただけではなく、このような地道な活動に裏打ちされていることをまのあたりにするに、映画祭の長期的ヴィジョンを持った運営の大切さについて考えさせられる。

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**日本映画・日本人ゲスト**

釜山映画祭の誇る
屋外シアター
 

 日本映画の上映作品数は昨年より微減したとはいえ、オープンシネマ部門選出の『るろうに剣心』が4000人収容の屋外シアターで華々しく上映されたり、数々の日本人監督・俳優たちゲストが上映前後のQ&Aに応じたりといった姿は例年どおりであった。監督デビュー作を対象にした長編コンペティション部門である「ニューカレンツ」部門には鶴岡慧子監督の『くじらのまち』が出品され、惜しくも受賞には至らなかったが、高評価を得ていた。同作は今年9月に開催された’ぴあフィルムフェスティバル’のグランプリ受賞作でもある。ここ数年、ぴあフェスティバル入賞作品がこのニューカレンツ部門の常連となっている。インディペンデント系新人監督の発掘・育成を映画祭のメインテーマに据えている点、選出する作品の傾向という点においても釜山とぴあ、両映画祭は親和性が高いといえるだろう。今年は5人のニューカレンツ部門審査員のひとりに河瀬直美監督が入っていた。これで3年連続で日本人審査員が含まれていたことになる。かつては日本人審査員を招聘するのは難儀だとのことであったが、状況は確実に好転している。

 今年、際立った活躍をみせた監督を顕彰する’アジアン・フィルムメーカー・オブ・ザ・イヤー’は、2011年からの一年間に3本の作品を作り上げ、そのうち2本がカンヌ映画祭、ヴェネチア映画祭で公式上映されるという快挙を成し遂げたベテラン、若松孝二監督に授与された。3作品の上映及びハンド・プリンティングもこなし、貫録を示すとともにご自身も釜山映画祭を満喫していた様子であった。ここ数年、目覚ましい快進撃を続けていた若松監督。釜山映画祭参加の直後に不慮の事故で亡くなってしまったのが残念でならない。

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**釜山シネマフォーラム&アジアン・フィルムマーケット**

アジアン・フィルム・マーケット会場
 

 華やかさ、賑やかさにどうしても目が行きがちな釜山映画祭であるが、昨年から始まった釜山シネマフォーラムではアカデミックなセミナーが3日間にわたって開催された。会場はマーケット(AFM=Asian Film Market)と同じ、見本市会場BEXCO内。日本、フランスなどのフィルムアーカイブのキュレーターたちがデジタル化時代の映画保存、という万国共通で直面しているテーマについて活発な討議を繰り広げた。またシネマフォーラムの最終日にはニューカレンツ部門の審査員として来訪していたフランス人ノーベル文学賞受賞者、ジャン=マリー・ル・クレジオ氏の特別講義も行われ、渋くも充実のプログラムとなった。

 そしてマーケットは今年もBEXCO内において映画祭中盤〜後半の4日間、行われた。昨年に引き続きオープンスペースを仕切って、それぞれの会社・団体がブースを持つスタイルが基本であるが、会場内には(ブースではなく)誰でも軽くお茶を飲みつつ話ができる場があり、なかなか重宝した。マーケットにビデオライブラリーがあるのも機能的でありがたかった。東京のTIFFCOMやアメリカンフィルムマーケットを直後に控えていたりで、少々苦戦しているAFMではあるが、同マーケット関係者によると参加者の満足度、実績どちらも及第点とのことであった。


受賞結果概観アジア映画支援日本映画・日本人ゲスト
釜山シネマフォーラム・アジアン・フィルムマーケット




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