公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇釜山国際映画祭 2016/10/6-15
  Busan International Film Festival

 

**受賞結果**
New Currents賞
(最優秀新人作品賞)
「The Knife In The Clear Water」  Wang Xuebo(China)
「The Donor」 Zang Qiwu (China)
New Currents Special Mention
「Parting」 Navid Mahmoudi (Afghanistan)
BIFF メセナ賞
(最優秀ドキュメンタリー)
(Korea)
「Neighborhood」 Sung Seungtaek

(Asia)
「The Crescent Rising」 Sheron Dayoc (フィリピン)
国際批評家連盟賞
「Immortal」 Hadi MOHAGHEGH (イラン)
BIFF メセナ賞
(最優秀ドキュメンタリー)
「Boys Run」 KANG Seokpil (韓国)  
「Look Love」 YE Yun (中国)
Sonje 賞(短編) (Korea) 「Viewer」 Kim Soyoun
(Asia)「Off-season」 Yelzat Eskendir (カザフスタン)
KNN観客賞
(*ニューカレンツ部門観客賞)
「In Between Seasons」 (Korea) Lee Dong-eun  
Busan Bank 賞
<*Flash Forward部門の観客賞>
「Night Of A 1000 Hours」 Virgil Widrich (ドイツ)
CGV Art House 賞 「Jane」 Cho Hyunhoon (韓国)
NETPAC 賞 「Merry Christmas Mr. Mo」 Lim Dae Hyung (韓国)
国際批評家連盟賞 「White Ant」 Chu Hsien-Che (台湾)
Asian Filmmaker of the Year賞 Abbas KIASTAMI(イラン)
Korean Cinema 賞 LaurenceHerszberg
(France, director of ‘Forum des Images’)

(映画タイトルは英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**


 一昨年から続く、多くの困難の中での開催となった第21回釜山国際映画祭。映画祭の開催が正式に決定されたのが5月、半年に満たない準備期間で形を整えた関係者の努力がたいへんなものであったことは想像に難くない。が、開催に至ったとはいえ、「諸問題がすべてすっきり解決」というわけではなかった。韓国内の映画団体のうち、監督組合はじめ四団体が「映画祭の独立性が保証されるに至っていない」「(会計に不正があったとして起訴された)イ・ヨンガン前映画祭ディレクターの名誉回復がなされていない」等の理由から今回の映画祭参加ボイコットに踏み切った。もっとも個人としての参加は個々の監督の意思に任されており、参加した監督の姿もちらほら見受けられた。韓国の大手映画会社は新作の出品を渋り、例年盛大に行われていた映画会社やスポンサー企業主催のパーティも今回は影をひそめ、パーティといえばほぼ釜山映画祭や各国の大使館が主催する公式なもののみであった。同映画祭の開幕式のレッドカーペットは例年、いわゆるスターたちで華々しいことで知られているが、(海外での活躍もめざましいイ・ビョンホン氏などの出席は例外として)大物韓流俳優たちの参加も控えめであった。

 映画祭のオープニング前日には台風が釜山を直撃し、海雲台ビーチに設けられていた施設がすべて壊滅状態となり、長年にわたり名物となっていたビーチでのイベントはすべて中止された。その多くは釜山シネマセンターの内外での開催に振り替えられた。が、オープニング当日はなんとか天気も持ち直し、予定どおり釜山シネマセンターでの開幕となった。オープニングセレモニーの中で「アジアン・フィルムメイカー・オブ・ジ・イヤー」の表彰式も行われ、今回は今年7月に亡くなったイラン映画界の巨匠アッバス・キアロスタミ氏に贈られた(故人に替わってご子息が受け取った)。この受賞を記念して企画されたキアロスタミ追悼特集では9本が上映されたが、名作の数々にこの巨匠の逝去が改めて惜しまれた。

毎夜華やかにライトアップされる
釜山シネマセンター
  
観客で賑わうシネマセンター内
  

 今回の映画祭の来場者数は165,149 人(前年比27%減)、69 ヶ国から計299本の作品を上映したとのことである。公式登録者は40%減の5,759 人。昨年の上映本数302本とほとんど変わらないことにまず驚きと感嘆を覚える。予算大幅減の中、「何を削り、何を残すか」を釜山映画祭が苦渋の末に取捨選択した結果、映画祭の基本ともいえる「映画の上映」が最重要と判断されたことの表れであろう。もちろんこのような選択は迫られないに越したことはないのだが、映画祭の在り方を改めて熟慮する機会になったのは事実であろう。そして削られたのは華々しいイベントなどの部分であった。祭典である以上ある程度の祝祭感は欠かせないが、予算が潤沢でない場合、この部分の削減は致し方ないだろう。

 おそらく映画祭の根幹部分である「映画の上映」が昨年までとそれほど変わらず執り行われたためと思われるが、個人的には今回の映画祭が極端に寂しいという感じは受けなかった。少々地味かな、といった程度で。日本をはじめ、インド、フィリピンなどアジア各国の見応えのある作品が相変わらず盛りだくさんであった。これも長年、映画祭が関係各国、各社と地道に信頼関係を築いてきた結果であろう。アジア諸地域の著名監督たちも今年も変わらず進んで来訪していた。かつ、釜山映画祭は「ワールドシネマ」部門も毎回非常に充実している。今年10月までに名だたる映画祭で上映された話題作が「アジアプレミア」などの形を取って、釜山で上映されている。欧米やラテンアメリカなどアジア以外の映画に興味を持つ釜山市民に好評を博しているという。実際、上映に参加してみると場内はかなり混みあっている。


アジアン・フィルム・マーケット会場。
ヨーロッパ勢の参加が目立った。

  アジアン・フィルムマーケットの出展者招待枠は激減したときく。この状況下、無理もないだろう。が、財政難の今回も、アジアン・フィルムマーケット(AFM)、アジアン・プロジェクトマーケット(APM)、アジアン・シネマファンド(ACF)など、人材育成や企画開発の部門は例年通りきっちりと行われていた。危機下にあって、同映画祭が重要と位置付けている部分がここにも浮き彫りになったといえそうだ。アジアン・フィルムマーケットにおいては中国からの参加者がほぼ姿を消していたが、フランスをはじめヨーロッパの会社の参加が増え、マーケットでの成果も上々とのことであった。ヨーロピアン・フィルムプロモーションと長きにわたって協力関係を築いてきていることも大きいのではと思われる。



 是枝裕和監督、イ・チャンドン監督、ホウ・シャウシェン監督の三者が出席した「特別対談:アジア映画の連帯を語る」と題した座談会は、今回の映画祭のメインイベントのひとつであった。各国を代表する作家性に富んだ映画監督として、世界でも認知度の高い三人である。彼らはそれぞれ釜山映画祭への出品歴も多く、この映画祭の危機に際してかなり早い段階から映画祭側の主張を支持し、サポートを表明していた。釜山シネマセンター(「映画の殿堂」)1階においては、釜山映画祭サポートのために立ち上がった世界中の人々の写真が’’I Support BIFF Photo Gallery’’と銘打たれたコーナーに飾られており、この一年近くにわたって世界各国でサポートの和が広がっていたことが改めて見て取れた。前述のとおり映画祭は開催されたとはいえ、映画業界と映画祭、釜山市と映画祭との溝は依然として完全には埋められてはいない。映画界・行政が一丸となって支え、世界でも類を見ないペースで発展してきた釜山映画祭であったが、ここにきて足並みが乱れてしまったのは痛い。次回の映画祭に向けて改善されてゆくことを願ってやまない。

ホウ・シャオシェン監督、イ・チャンドン監督、
是枝裕和監督による座談会。
  
 "I Support BIFF" 写真展。
釜山映画祭のサポートに立ち上がった
世界中の人々の写真が飾られていた。
  


**日本映画**


 地元・韓国映画の最新作、話題作の出品が限られていたこともあり、今回は日本映画の存在感が突出していた感があった。日本でのヒット作も多数出品されたのに伴い、監督や出演者も続々来訪した。今年大きな話題となった作品を取り上げ、ひときわ注目を集める「ガラ・プレゼンテーション」部門に日本映画が三作品も選出されたのは異例のことであった。日本でも空前のヒットとなったアニメーション作品『君の名は。』、『シン・ゴジラ』、今回釜山に‘ハンドプリンティング’(*)を残した黒沢清監督の『ダゲレオタイプの女』という豪華なラインナップ。特に『君の名は。』のチケット確保は至難の業であったという。(*釜山映画祭では映画界に多大な貢献をしてきた映画人を毎年数名招待して、手形を取るというセレモニーを行っている。今回の黒沢監督は日本人監督としては、北野武、今村昌平、鈴木清順、若松孝二に続いて5人目。手形はBIFF広場に埋め込まれる)その他の部門にも韓国でも人気・知名度の高いオダギリ・ジョー氏や蒼井優氏の登場に会場が湧いた。また、今回<Korean Cinema Today>部門で上映されたナ・ホンジン監督作『哭声(こくそん)』の出演者として参加した國村隼氏の現地での人気ぶりには驚きを禁じ得なかった。同作は韓国ですでに公開済みで、大ヒットを記録したという。今年は少々微妙な空気であったとはいえ、参加した日本人ゲストが一様に映画祭へのサポートを宣言したり、再訪を希望したりと釜山映画祭の居心地の良さは変わらなかったと思われる。








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