公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇釜山国際映画祭 2017/10/12-21
  Busan International Film Festival

 

**受賞結果**
New Currents賞
(最優秀新人作品賞)
After My Death(韓国)    Kim Uiseok
Blockage(イラン)      Mohsen Gharaei
Kim Jiseok Award
Malila: The Farewell Flower(タイ)
              Anucha Boonyawatana
羊の木(日本)            吉田大八監督  
BIFF メセナ賞
(最優秀ドキュメンタリー)
韓国: Soseongri, Park Baeil
Asia: ニッポン国 VS 泉南石渡村(日本)  原一男監督
Sonje 賞(短編)
韓国: A Hand-written Poster   Kwak Eunmi
Asia: Madonna(インドネシア)  Sinung Winahyoko
KNN観客賞
(*ニューカレンツ部門観客賞)
End of Summer (中国)     Zhou Quan
Busan Bank 賞
<*Flash Forward部門の観客賞>
Pulse (オーストラリア) dir. Stevie Cruz-Martin
CGV Art House 賞 Microhabitat (韓国)    Jeon Gowoon
NETPAC 賞 February (韓国)     Kim Joonghyun
国際批評家連盟賞 Last Child (韓国)    Shin Dongseok
Asian Filmmaker of the Year賞 鈴木清順(日本)
Korean Cinema賞 Christoph Terhechte, head of Berlin International Film Festival Forum (ドイツ)

(映画タイトルは英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**


釜山シネマセンター正面入口。
レッドカーペットが敷かれている

 第22回釜山国際映画祭は昨年、一昨年に続いて波乱の末の幕開けであった。映画祭にとって良い結果をもたらすであろう政権交代がなされ、ようやく映画祭にも追い風が吹き始めた5月、同映画祭の創設メンバーのひとりであり副ディレクター、そして映画祭の要ともいうべき存在であったキム・ジソク氏の突然の逝去という悲劇に見舞われた。その後の大混乱の中、映画祭上層部と現場スタッフの間の亀裂が顕在化し、多くのスタッフが辞任するに至ってしまった。この責任を取って今回の映画祭終了後にチェアマンのキム・ドンホ氏とディレクターのカン・スヨン氏がともに職を辞すると発表。夏から秋のはじめにかけてめまぐるしく状況が変わり、釜山映画祭の関係者たちも刻々と変化する事態に翻弄されている様子であった。それでもとにかく10月の映画祭に向けた準備は進めなくてはならず、相当困難な状況であったであろうことは想像に難くない。


今回はオープニング、クロージング、どちらも女性監督の作品であった。韓国のシン・スウォン監督の『ガラスの庭園』で幕を開け、香港で女優・監督として活躍する台湾出身のシルヴィア・チャン監督の『ラブ・エデュケーション』で幕を閉じた。開会式の司会は過去に何度か韓国人に加えて他のアジアの国からひとり、という体制を試みていたが、今回はチャン・ドンゴン氏と少女時代のユナ氏という韓国のスター二名を起用。ユナ氏は当初決まっていた司会者の代役に急遽抜擢されたとのことであったが、安定した進行で好評を得た。


VR会場。
釜山シネマセンター一階に設けられた
  
VR会場目に列をなす人々
  

例年行われる各種上映やイベントに加え、新しい試みもいくつか組み込まれた。その中でも特筆に値するのはバーチャルリアリティ(VR)作品の上映プログラムであった。韓国におけるVR業界を牽引している存在であるBaruson社と共同で、「VR Cinema in BIFF」と銘打って繰り広げられた。釜山シネマセンターの一階にて複数の個人ブースを擁した専用会場を設け、世界で話題となった30本以上にのぼるVR作品を期間中上映し続け、VR体験を希望する観客たちが常に列をなしていた。また、関連のシンポジウムも盛況であった。

チケットブース


今回の映画祭への来場者数は192,991人(前年比17%増)、76 ヶ国から計300本の作品を上映したとのことである。併設して開催されているフィルムマーケット(AFM)も45か国から658社、1,583人の参加者を数え、前年比14%増という結果であった。釜山市民(特に若者)の多くは映画祭をめぐる騒動に関してはそれはそれとして、鑑賞機会の少ない作品や、国内外の映画関係者と直に触れ合う場を求めており、映画祭から足が遠のいているわけではないことが証明されたといえそうである。


映画祭を電撃訪問した文在寅大統領

映画祭中盤に文在寅(ムン・ジェイン)大統領が釜山映画祭を電撃訪問した。近年の釜山映画祭の混迷のそもそもの原因となったキュメンタリー映画「ダイビング・ベル」問題が発生した時の政権とは別の党出身の大統領である。若者が大多数を占める映画祭の観客は現職大統領の訪問に沸いた。文大統領はとある会場にて韓国映画を鑑賞後、映画祭チェアマンのキム・ドンホ氏、ディレクターのカン・スヨン氏、ト・ジョンファン文化体育観光部長官と共に釜山シネマセンター内に設けられた会見スペースに登場し、釜山映画祭への支援と(上映作品等への)不干渉の姿勢を明言し喝采を浴びた。


前述のとおり困難な状況下でも映画祭はつつがなく開催された。そして数字としてもきちんとした結果を出していることに今回運営に携わった人々に敬意を払いたい。運営責任者のチェアマン、ディレクター両者が第22回目の映画祭終了をもって辞任した今、誰が新しくその任に就くのかに目下注目が集まっているが、誰が任じられたところで舵取りが容易でないことは明らかである。昨年よりは緩和されているとはいえ、韓国内の映画会社・団体との関係は改善されたとは言い難い。今回をもって映画祭創設メンバーの全員が釜山映画祭の運営から姿を消した。再スタートともいうべき次回がどのようなものとなるのか注視してゆきたい。



**故・キム・ジソク氏**


故キムジソク氏の追悼式にて
スピーチをする是枝監督

 映画祭半ばには故・キム・ジソク氏の追悼式が行われた。5月末に執り行われた葬儀には参加できなかった国内外の映画関係者が改めてキム氏を偲ぶことのできるように、と設けられた機会であった。在りし日のキム・ジソク氏の姿を集めたビデオ、キム・ジソク氏と親交の深かったアジアの3人の監督(イランのモフセン・マフマルバフ氏、マレーシアのタン・チュイ・ムイ氏、日本の是枝裕和監督)の心のこもったスピーチ等で構成された温かい式であった。追悼式のみならず、そこかしこにキム・ジソク氏の存在を強く感じられる回でもあった。若手アジアの監督を迎え、アジア映画の成長をサポートすることに情熱を注いでいたキム氏を敬い、キム・ジソク賞が新設された。この賞は「A Window on Asian Cinema」の出品作の中から10作品がまず候補作品として選ばれ、3名の国際審査員により2作品が決定される(それぞれ10,000ドルが授与される)。初年度の今回は吉田大八監督の『羊の木』とAnucha Boonyawatana監督の『The Scythilian』に贈られた。また、キム・ジソク氏がアジアの独立映画関係者のネットワーク構築の場となることを願って設立準備を進めていた、「プラットフォーム釜山」が始動した。今年は10月14日〜18日までの5日間、アジア各地の独立系映画人たちのトークや、すでに大御所ともいうべき監督たちのレクチャーなど、充実のプログラムが釜山シネマセンター敷地内の専用会場にて展開された。19か国から150人以上の関係者が詰めかけたとのことである。アジア映画の振興に情熱を注いでいたキム・ジソク氏の遺志がしかるべく形で継承されることを願ってやまない。





充実のミュージアムショップ。
映画祭グッズも販売されている

**日本映画**


 昨年に引き続き、日本映画は本数も存在感も際立っていた。総出品映画300本のうち、日本映画(合作を含む)は41本にものぼった。日本映画の出品数は他国に比べ常に多いのだが、この本数は史上最高とのことである。ここまで日本映画が増えた要因としては昨年同様、韓国の映画会社や映画人によるボイコットの結果、地元・韓国の最新作や話題作の出品が限られていたことがまず考えられる。また中国との関係悪化のあおりで、中国映画の招聘も難航したことも影響しているのであろう。「ガラ・プレゼンテーション」部門に昨年に続き日本映画が三作品も選出された。レッドカーペットに監督やキャストが現れ、際立って華やかな部門である。韓国での知名度も人気も高い日本人俳優たちの来訪は映画祭の集客にも有効とのことであるが、これらゲストの多くは上映後の質疑応答はもちろんのこと、観客と距離の近い海辺でのトークイベントなどにも積極的に参加。期待に違わず映画祭の盛り上げにひと役買ったといえそうである。15年振りに再集結した人気ロックバンド、ザ・イエロー・モンキーの2016年のツアーに密着したドキュメンタリー『オトトキ』がワイド・アングル部門に正式出品され、オープニングセレモニーには松永大司監督とともにバンドメンバーが参加、日本人ロックバンドとして初めてレッドカーペットを飾った。日本公開済みの作品も今回はかなり多かったが、その中には韓国での興行を控えている作品も含まれており、宣伝効果を期待した向きもある。アニメーションでは湯浅政明監督の4作品のミニ特集も注目を集めた。そして今年2月に亡くなった鈴木清順監督が今回の「The Asian Filmmaker of the year」賞を受賞した。この賞を記念して、鈴木監督の7作品の上映や識者によるパネルディスカッションなどが行われ、鈴木監督特集としてその偉業を讃えた。
日本でのいわゆる韓流ブームが去って久しいが(固定ファンは確保されているようだが)、釜山映画祭にて韓流スターを中心にスターたちを見ようと駆けつける日本人女性たちは未だに健在である。彼らにとっては年中行事と化しているのだろうか。映画祭メインホテルのエレベーター前などで‘張っている’人々の情熱にはひたすら驚かされる。









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