公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇ニッポン・コネクション 2017/5/23-28
  Nippon Connection

 

**受賞結果**
ニッポン・シネマ賞(観客賞)  『永い言い訳』 西川美和監督
ニッポン・ヴィジョンズ審査員賞

     *スペシャルメンション
『プールサイドマン』 渡辺紘史監督

『かぞくへ』 春本雄二郎監督
ニッポン・ヴィジョンズ観客賞 『スタート・ライン』 今村彩子監督
ニッポン・名誉賞 役所広司氏

 *日本からの出品作品はこちらから



**概観**


メイン会場前


ドイツ・フランクフルトのニッポン・コネクションは現在、世界最大の「日本映画」祭である。2000年に誕生し、今回17回目を数えた。映画学を専攻し、日本文化にも強い関心を持っていた学生たちが大学での日本映画上映を計画したことに端を発する。第一回開催時には予想を大幅に上回る1万人以上の観客を動員し、以来毎年欠かさず行われており、現在ではドイツ国内のみならず世界各地から1万6千人以上の入場者数を誇るに至っている。創設当初から現在に至るまでほぼすべてがボランティアの力で運営されている点も驚くべきことである。現在スタッフは70名近くにのぼるが、1名の有償の専従スタッフを除き、皆別の仕事と掛け持ちをしており、ニッポン・コネクションに関しては「ボランティア」での勤務だという。2013年には日独の文化交流に多大なる貢献を果たしたとして、創設メンバーのひとりで現在もフェスティバル・ディレクターを務めているマリオン・クロムファス代表に日本の外務省より外務大臣表彰が贈られた。   


現在は「ニッポン・シネマ」、「ニッポン・ヴィジョンズ」、「ニッポン・アニメーション」、「ニッポン・レトロ」、「ニッポン・キッズ」、「ニッポン・カルチャー」の6部門で構成され、例年100本〜120本の長編・短編作品が英語字幕付き(一部はドイツ語字幕付き)で上映されている。新作に関しては規模もジャンルも多岐に亘っており、いわゆるメジャー系からかなりインディペンデントな作品まで幅広く集められている。

パネルディスカッション風景

埼玉のスキップシティフェスティバルや東京芸術大学といった日本の各種機関と提携した短編プログラムなど、日本国内でも観る機会の少ない作品を一気に観られる貴重な場でもあるため、ヨーロッパ在住の日本映画研究者も足しげく通っている。新作は映画祭の前年や前々年に日本で発表された作品が中心で、ほとんどがドイツ初上映である。新作がメインではあるが、毎年テーマを設けてクラシック作品の特集を行う「ニッポン・レトロ」や、日本映画専門家によるレクチャーやディスカッションも充実している。今回のレトロ部門では70年代のピンク映画特集が組まれた。各種トークショーは映画保存に関するパネルディスカッションをはじめ盛り上がりをみせていた。




**賞**
創設当初はあくまでも日本映画のショーケースであったが、現在ではスポンサーに恵まれ、いくつかの賞が導入されている。「ニッポン・シネマ部門」には観客の投票による‘観客賞’があり(2005年に開始)、同賞受賞者には協賛のフランクフルト・メッツラー銀行より2000ユーロの賞金が授与される。今回は西川美和監督の『永い言い訳』が受賞を果たした。「ニッポン・ヴィジョンズ部門」には観客賞に加えて、日本国内外からの審査員3人によって選出される<ニッポン・ヴィジョンズ審査員賞>が設けられている(10周年の2010年に開始)。同賞に選ばれた作品の受賞監督には、協賛の日本映像翻訳アカデミー(JVTA)より次回作の字幕翻訳サービスが提供される。今回は渡辺紘文監督の『プールサイドマン』が栄誉に輝いた。「ニッポン・ヴィジョンズ」部門の観客賞を受賞したのは今村彩子監督によるドキュメンタリー作品、『スタート・ライン』。フランクフルトの日本文化言語センターの協賛により副賞1000ユーロが贈られた。
2015年より新たに加わった<ニッポン名誉賞>は長年にわたる日本映画界への多大な貢献が認められた映画人に贈呈される賞で、第三回目の今回は俳優・役所広司氏に贈呈された。今回の協賛は日本航空。この機に来独した役所氏は映画祭をあげても非常に厚い歓待ぶりに満足の面持ちであった。受賞の記念上映としては役所氏の一昨年の主演作『日本のいちばん長い日』(原田眞人監督)が上映された。



**多彩な文化プログラム**
 ニッポン・コネクションはもちろん日本映画の上映を主としているが、多彩な日本文化紹介プログラムも大きな魅力となっている。日本映画にそれほど関心のない観客にもニッポン・コネクションに興味を持ってもらうために、日本文化に関する様々なプログラムを第一回目から提供し続けており、こちらを主目的に映画祭会場を訪れる人も少なくないとのことである。「ニッポン・シネマ部門」作品を上映する会場、アーティストハウス『ムゾーン塔』内は映画祭期間中はちょっとした日本の縁日、または‘学園祭’の様相を呈している。館内には小規模ながらもゲームセンター、和菓子や日本のパンを売るショップ、指圧マッサージ所などが常設されており、ロビー階では折り紙に興じている人がたくさん見受けられた。本格的な日本のラーメンを出す店も日本人ゲストや現地の観客の方々に人気であった。


おにぎりなど日本の軽食を売る店
  
 折り紙ワークショップ
  

「ニッポン・ヴィジョンズ部門」の作品を主に上映するヴィリー・ブラムル劇場を擁する会場『ナクソスホール』においては、ロビー階で和小物や映画祭のグッズを販売する店の前に人だかりができていたり、真剣にまたは楽しそうに将棋を指す人たちで賑わっていたりと「異国の中の日本」な空間となっていた。日本舞踊、空手、太鼓といったワークショップも人気を博していた。日本のラジオ体操に励む人々を海外で見るのはとても新鮮であった。


将棋に興じる人々





**日本人ゲストなど**

『かぞくへ』Q&A

多くの監督や俳優が上映に併せて来訪し、上映後の質疑応答やトークショーに積極的に参加しているのもニッポン・コネクションの魅力のひとつである。ニッポン・コネクションの観客やスタッフの熱意や作り手への敬意、そして居心地の良さに惹かれて再訪する監督や映画人が後を絶たない。他の映画祭との明確な違いは同映画祭に参加する監督はほぼ全員が日本人であるという点である。日本映画を専門とする研究者などの日本人以外の参加はもちろんあるものの、「ゲスト」の9割方は日本人である。とはいえ、日本国内であっても監督同士が会うことはそう多くはなく、同じ映画祭に参加することによって気軽に、かつじっくり話ができるメリットを挙げる監督は多い。実際、至近距離に位置するメインの二会場にほぼすべての機能が集約されているので、数日間滞在すれば来訪しているほとんどの参加者と交流ができる。それぞれのゲストには1〜2名の担当ボランティアが付き、食券や飲み物クーポンも支給されるので、滞在中食費はまずかからない(スポンサーの厚意だそうだ)といったようにゲストへのケアはかなり手厚い。フランクフルト市をめぐるツアーなどを通してゲストがドイツ文化に触れられる機会も設けられている。日本人ボランティアや日本語を解するドイツ人ボランティアが常に気を配ってくれ、言葉の心配が皆無という状態は他の映画祭では考えにくい。監督として初めて参加する海外映画祭がニッポン・コネクションだった場合、このケアの良さ、快適さを基準にしてしまうのは少々危険と思われるほどである。おそらくその点だけが要注意なのではないだろうか。そのくらいニッポン・コネクションの温かさ、居心地の良さは格別である。


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