公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇釜山国際映画祭 2018/10/4-13
  Busan International Film Festival

 

**受賞結果**
New Currents Award
(最優秀新人作品賞)
Clean up(韓国) KEON Man-ki
Savage(中国) CUI Si Wei
Kim Jiseok Award
Rona, Azim’s Mother(アフガニスタン・イラン) Jamshid MAHMOUDI
The Rib(中国) Zhang Wei  
BIFF メセナ賞
(最優秀ドキュメンタリー)
韓国: Army Kelvin Kyungkun Park
Asia: Opening Closing Forgetting(台湾) James T.Hong
Sonje 賞(短編)
韓国: Cat Day Afternoon  KWON Sungmo
Asia: NOOREH(インド) Ashish PANDEY
KNN観客賞
(*ニューカレンツ部門観客賞)
House of Hummingbird (韓国) KIM Bora
Busan Bank 賞
<*Flash Forward部門の観客賞>
The Little Comrade(エストニア) Moonika SIIMETS
CGV Art House 賞 Maggie (韓国) YI Okseop
NETPAC 賞 House of Hummingbird (韓国) KIM Bora
国際批評家連盟賞 The Red Phallus(ブータン、ドイツ、ネパール)   
Tashi GYEL TSHEN
Asian Filmmaker of the Year賞 坂本龍一(日本)
Korean Cinema賞 Martine & Jean-Marc THEROUANNE,
Founders of Vesoul International FilmFestival of Asian Cinemas(フランス)

(映画タイトルは英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**


今年の映画祭ポスター。
4枚セットで’BUSAN’ になる。

 第23回釜山国際映画祭は「通常モード」に戻るべく、大きく前進した回であった。2014年にセウォル号沈没事件を追ったドキュメンタリー映画『ダイビング・ベル セウォル号の真実』の上映を巡り、釜山市と対立したことに端を発した釜山映画祭の騒動は記憶に新しい。釜山市による上映取り消し要請を無視して上映を強行した映画祭に対し、釜山市は使途不明金を指摘し当時のイ・ヨングァン映画祭ディレクターらを刑事告発し解任に追い込んだ。代表者などがめまぐるしく変わる中、2017年には映画祭の要ともいうべきキム・ジソク氏の不慮の死による混乱等々、落ち着かない状態が続いていた釜山映画祭。釜山市の取った措置は政治介入であり、表現の自由を阻害するものだとして韓国の映画団体や映画人の一部は映画祭参加をボイコットしたり、世界の映画人へ映画祭への支持を呼び掛けるなどの運動を展開していた。が、昨年就任した文在寅(ムン・ジェイン)大統領は映画祭を訪れ、映画祭の独立性の保証とサポートを表明し、釜山市長も交代。前釜山市長によって映画祭を追われたイ・ヨングァン氏がチェアマンに、ディレクターにはやはりプログラマーを解任されたジェイ・ジョン氏が復帰したしたことが決定打となり、再び映画祭参加に踏み切った人々が多くみられた。いわゆる韓国人スターたちの参加も増え、韓国の映画会社や団体の主催するパーティーも復活し、ここ数年の緊張が緩和され、賑わいを取り戻した10日間となった。

夜の釜山シネマセンター。
幻想的にライトアップされる。

今回の映画祭への来場者数は195,081人、昨年を2000人上回り、79 ヶ国から計324本の作品を上映したとのことである。併設して開催されているアジアン・フィルムマーケット(AFM)も54か国から911社、1,737人の参加者を数え、前年比38%増という好ましい結果であった。マーケット参加者からは昨年までの停滞感が薄れ、活気が戻ってきているという声も聞こえてきた。新体制でのスタートが春先で、映画祭までの準備期間は半年足らずの状態であったことから順調な運営が不安視されていた向きもあったが、オーガニゼーションの不手際はやや見られたものの、さしたる混乱ではなかった。しかし、台風には悩まされた。映画祭開始直後に台風が釜山を直撃し、映画祭ゲストと市民の交流の場として賑わうはずのビーチに沿った「BIFFヴィレッジ」は設備のほとんどを撤去せざるを得なくなったため、予定されていた屋外イベントの多くが中止となったり、屋内に会場を移しての決行となったりした。また飛行機が欠航や遅延し、特に中国や日本からの参加者の足が数日間大きく乱れる結果にもなってしまった。このところ釜山映画祭は2年に一度くらいの割合で台風の大きな影響を受けてしまっている。時期的に仕方がないといえばそうなのだが悩ましいところである。作品のプログラミングを担うメンバーも大きく変化したため、こちらについても危惧されていた面もあったが、前回までと比べ大きな変化はみられなかった。「釜山クラシック」というセクションが新設されたことは注目に値する。これまでもレトロスペクティブ部門はあったものの、独立した部門となったのは今回からである。リストア作品や古典的作品を紹介する部門として、今回はアジアの名作(『さらば、わが愛/覇王別姫』など)を中心に10作品が上映された。昨年スタートした釜山シネマセンター(=映画の殿堂)におけるバーチャルリアリティ(VR)プログラムは今年も大盛況。常に順番を待つ長蛇の列ができていた。

大盛況のVR会場。





**日本映画**


釜山映画祭がアジアの映画産業や文化の発展に大きく寄与してきた映画関係者に贈る「今年のアジア映画人賞」を今回は音楽家・坂本龍一氏が受賞した。この受賞に伴い釜山を訪れた坂本氏は、オープニングセレモニーに登場しこれまでに手がけてきた映画音楽で構成された約10分の演奏を行った。アレンジが加わった『戦場のメリークリスマス』や、今回の映画祭に出品されているアニメーション作品『ずっとずっといっしょだよ』(日中韓合作)の曲などが次々と披露され、超満員となった釜山シネマセンター・屋外会場の観客を魅了した。また、釜山シネマセンター一階の展示スペースにおいては坂本氏の受賞を記念して、坂本氏が東日本大震災の被災地を訪問中に偶然出会い、その音色を自身のアルバムにも使用した「津波を生き延びたピアノ」が展示されていた。このピアノは現在は鍵盤にセンサーが取り付けられ、コンピューターと接続、地震波の動きを音に変換する装置に生まれ変わっているとのことである。

今年の「アジア映画人賞」は
坂本龍一氏が選ばれた。
  
‘津波を生き延びたピアノ’。
釜山シネマセンターにて展示。
  

華やかなオープニングセレモニーには『寝ても覚めても』の東出昌大氏と唐田えりか氏、『愛しのアイリーン』の安田顕氏、『止められるか俺たちを』の井浦新氏と白石和彌監督、『夜明け』の柳楽優弥氏、ニュー・カレント部門の審査員を務めた國村隼氏らが登場した。國村氏は韓国映画『哭声(コクソン)』をはじめテレビ番組へも出演しており、韓国でも人気も知名度も高い。釜山映画祭初参加となる東出氏も現地メディアにも大きく取り上げられていた。その容姿とともに『寝ても覚めても』での演技を現地の記者たちに絶賛され、会期中に開催された「マリ・クレール・アジア・スター・アワード」では、共演の唐田氏と共に‘アジアの顔’賞に選ばれた。
日本映画は昨年には及ばないものの、今年も<A Window on Asian Cinema(アジアの窓)部門>を中心に、他部門にわたって数多く出品され、そして今回も多数の日本関係者が現地を訪れた。質疑応答に登壇したり、写真撮影に応じたり、と現地の観客との交流やプロモーションに励んでおり、各所で喝さいを浴びていた。『斬、』主演俳優の池松壮亮氏、蒼井優氏は<ガラ・スクリーニング>部門に選出され、レッドカーペットへの登場や質疑応答への参加を期待されていたが、台風のため予定通りに現地入り出来ず、塚本晋也監督が1人で舞台挨拶を行うことになってしまった。自然現象ゆえに仕方がないのだが、<ガラ・スクリーニング>になかなか日本作品が入りにくいことを考えても、残念な一幕であった。


『母さんがどんなに僕を嫌いでも』
質疑応答。










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