ベルリン国際映画祭
Internationale Filmfestspiele Berlin
2005/2/10-20

Asian DV Competition Winners
 Co-Winners
  
『ある朝スウプは』高橋泉監督
  Oxhide (『牛皮』) by Liu Jiayin 
Humanitarian Awards for Documentaries 
 Best Documentary
  
Before the Flood by Li Yi-fan, Yan Yu

 Outstanding Documentary
  
Asshak, Tales from the Sahara by Ulrike Koch 

 Special Mention
  Shape of the Moon by Leonard Retel Helmrich 
FIPRESCI Award
 Lost in Wu Song by Lu Yi-tong
The SIGNS Award
 Turtles Can Fly by Bahman Ghobadi
SKY VODKA Short Film Competition  A Fish with a smile by C. Jay Shih

*日本からの出品作品はこちらから

「映画祭は私たちの生活の一部。みんなで努力して成し遂げた成果を分け合うこと、
 人と人との交流でありそれを分け合うこと。」
       クリストファー・ドイル (映画祭ブックレットより)
      

 この言葉通り、今回の映画祭では「映画作品そのものを通じて映画人が交流する」、
「お互いの作品を尊重し合う」、映画祭本来の力を見た思いがしました。

 復活祭の香港は、曇りがちで時折小雨が降っていたが、映画祭会場は人で溢れていた。第29回香港国際映画祭は、今年もまた、たくさんの交流の場を生み出した。16日間の会期中、上映作品は長編だけでも200を超え、11の会場で上映された。オープニング作品に選ばれたのは、ベルリン国際映画祭で審査員グランプリに輝いた『孔雀』(顧長衛(クー・チャンウェイ)監督)と、2003年の『たそがれ清兵衛』に続いての香港への出品となった山田洋次監督の『隠し剣 鬼の爪』。『たそがれ清兵衛』もオープニング作品だったが、当時SARSの影響で急遽参加を断念した山田監督が今回は主演の永瀬正敏と共に来港し、オープニングを飾った。『隠し剣…』のイベントを含め、映画祭開幕から数日間レッドカーペットが敷かれ、多数のゲストを招いたイベントが催された。今年は、初の試みとして「エンタティメント・エキスポ香港」として、実に8つの映画・映像・音楽に関連するイベントが同時期に開催され、例年以上の盛り上がりをみせた。
(写真:「電影節」〔映画祭〕の文字が街中に溢れる)

中国映画生誕100周年
 世界各地から作品が集まる中で、中国映画生誕100周年にあたる今年は、多数の中国映画が取り上げられた。「中国電影新天地」は、正に中国映画の今に焦点をあてた10本で、田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)の『徳拉姆』(Delamu)や、『山の郵便配達』の霍建起(フォ・ジェンチイ)の『情人節』(A Time to Love)など、第五・六世代監督の最新作が並んだ。また、香港電影資料館(HK Film Archive)が主催する2つの特集も、中国映画100周年に因んだ企画で、「電影詩人孫」(Sun Yu: Poet of Cinema)では、孫監督(1900-1990)の『小玩意』や『天明』『野邇ォ瑰』、『體育皇后』など中国映画第一次黄金時代の11作品が並び、「珠三角 電影・文化・生活」(Pearl River Delta Movie・Culture・Life)のセクションでは、香港と廣洲の密接な関わりに焦点を当て、粤劇(廣東オペラ)を題材にした映画や、何度も映画化される黄飛鴻伝記作品の第一作、そして、19世紀末からの香港と廣洲の様子を撮った記録フィルムから現代の廣洲で製作されたビデオ作品までがラインアップされた。

 また、Gala Premieresでは、關錦鵬(スタンリー・クワン)監督の『阮玲玉』のデジタルリマスター・ディレクターズカット版がワールドプレミアとして上映された。

 その他、「香港パノラマ2004-2005」では『旺角黒夜』(One Nite in Mongkok)他の11本が、選ばれた。『餃子』(Three...Extremes: Dumplings)は、ピーター・チャン(陳可辛)製作のオムニバス・ホラー『THREE』(Three)のパート2内のフルーツ・チャン(陳果)監督の作品。香港で好評を博した長いバージョンを上映した。今回の映画祭では、中国映画に押され気味の香港映画だが、パン・ホーチョン(彭浩翔)やイー・トンシン(爾冬陛)など、これから活躍を期待させる監督作品や香港映画に久々に戻ってきたジャッキー・チェン(成龍)、香港での興行は振るわなかったが話題作としてははずせない『2046』など、今の香港映画の縮図をうまく現したラインナップ。ショートフィルム部門で審査員も務めた、スティーブン・フォン(馮德倫)監督の『精武家族』(House of Fury)も話題になった。(Opening Night Galaでの上映)。香港映画人の特集上映にはアンディ・ラウ(劉徳華)が選ばれ、彼の100を超える出演作から11作が厳選され上映された。
(写真:「香港国際電影節」の文字は、達筆で有名なアンディ・ラウの手によるもの。広告として街頭にも掲げられた)


日本映画
 メジャー製作からインディーズ、また、時代劇から若者文化を代表する作品まで、今の日本映画を様々な角度から見ることができるセレクションだった。一般チケットが売切れる作品も出、映画ファンの日本映画への興味の高さを伺わせた。数多くのゲストが参加し、ティーチ・インを盛り上げた。中でも『恋の門』の松田龍平は熱狂的な歓迎を受けた。また、上映に伴うイベントも企画された。『下妻物語』のガラ上映の際には、ロリータファッションコンテストが開かれ、60人を超す少女たちが集まった。作品上映、イベントの他にも、SKYY VODKA Sort Film Competition審査員に荒木啓子氏(ぴあフィルムフェスティバル)が、Humanitarian Awards審査員には矢野和之氏(山形国際ドキュメンタリー映画祭)が選ばれた。日本映画界への信頼と強い結びつきを感じさせる。

 アジアDVコンペティションでは、高橋泉監督の『ある朝スウプは』が上映され、金賞をOxhide (『牛皮』)と共に受賞した。季節の移り変わりに沿って、現代日本の人間関係を新興宗教の問題をからめながら丁寧に描いた作品である。

 映画祭開幕式典では、「海外への日本映画の紹介に貢献した」として、松竹(株)に貢献賞が贈られた。長い間香港映画祭と関わってきたことと、小津安二郎監督回顧上映と清水宏監督回顧上映を成功させ、また今年木下恵介特集を海外で初めて実現させたことを評価されての受賞となった。その松竹110周年記念として今回上映される木下作品は、18本。その内の6本を映画祭期間に上映し、残りの作品を含め、5月2日までのマンスリー・プログラムとして上映される。ベルリン国際映画祭で『二十四の瞳』が上映されたが、これだけの規模で木下作品が海外で上映されるのは初めてのこと。山田洋次監督と木下作品の脚本を手がけた山田太一氏のセミナーも開かれた。

 映画祭運営母体の変化や、予算の減少、メインスポンサーが降りたことなど、不安材料が聞こえていたが、実際に目にしたのは、様々な可能性を模索しようと懸命になっている姿。“今年度初”という試みがいくつもあった。レッドカーペットを敷いたのも史上初とのことだが、アジア最大級の巨大スクリーン(24m×12m)が屋外の会場(タマール広場)に設置され、『功夫(邦題:カンフー・ハッスル)』やブルース・リーの『精武門(邦題:ドラゴン怒りの鉄)』、レスリー・チャン(張國栄)やアニタ・ムイ(梅艶芳)が出演する『ルージュ』が上映された。手塚治虫のアニメもこのスクリーンで上映された。〔si〕@hkiffも今年新設されたセクションで、若い世代にもっと映画祭に目を向けてもらおうとアイドルを起用したり、若者にアピールする作品を揃えた部門。『インストール』と『下妻物語』もこの部門で上映された。
(写真:メイン会場入り口。レッド・カーペットをイメージした、クリストファー・ドイルによるデザイン)

 オープニング作品に先立ち上映されたのが、〔si〕@hkiff の『自行我路』(Open the Road)(杜琪峰(ジョニー・トー)監督)。この部門のスポンサーであるペプシコーラのために作った作品で、文字通り映画祭への道を切って落とした。SARSや鳥インフルエンザの脅威は薄れたとは言え、香港には、市民の言論の自由を制限する国家安全条例の施行への不安や行政長官の交代などまだまだ不安材料が残っている。この映画のタイトルのように、自由への道を切り開いていってほしいと願う。


今回の香港国際映画祭に出席された日本人の方々の中から、
映画祭について振り返っていただきました。

高橋泉さん 
([『ある朝スウプは』監督:Asian DV Competitionで上映・受賞)

 海外へ行く前には体調管理に気を付けていたのですが、香港出発当日は午前中に病院へ行く程の風邪をこじらせてしまいました。そのせいで鼻がずっと詰まったままで、香港の匂いと言う物を鮮明に記憶出来なかったのが残念です。
 香港国際映画祭は他の映画祭と違い、上映時の舞台挨拶とセレモニーへの参加のみで、連日事務局に顔を出す必要も無く、取材、撮影等のスケジュール管理も無かった為、映画祭の中に居ると言う気がしなかったのが正直な感想です。上映後のQ&A時は欧米に比べて手が上がらず、「あれ?つまらなかったかな?」とも思ったのですが、会場の外に出てから声を掛けてくる方が多く、日本人の僕から見たら大雑把に見える香港の方も、同じシャイなアジア人気質なのかなとも思いました。
 この映画でバンクーバー、ロッテルダム、香港と廻っている内に、同じ部門に招待されている他国の監督とも顔見知りになり、英語は出来ないまでも、簡単な挨拶を交わす程度になったことは、一つの映画が持つ力、結びつける力を強く痛感させられました。今回はグランプリと言う最高の形で終わりましたが、壇上でスポットライトを浴びる事と、客席からそれを見上げる事。その分け隔てが付いて回るのも事実です。その意識から上手く回避しないと変な方向で映画を造ってしまいそうだなと、香港最後の夜に少し考えました。
 香港で一番楽しかった事。何よりも反骨精神を持った監督、フルーツ・チャンと食事が出来た事ですかね。



高橋泉監督(中央)
上映後のロビーで



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