釜山国際映画祭
10th PUSAN International Film Festival
2006/1/25-2/5

金熊賞
 GRBAVICA by Jasmila Zbanic
銀熊賞
(審査員賞)
 EN SOAP (A SOAP) by Pernille Christensen
 OFF SIDE by Jafar Panahi
銀熊賞
(最優秀監督賞)
 Micheal Winterbottom & Mat Whitecross
  ('THE ROAD TO GUANTANAMO'のディレクションに対して
銀熊賞
(最優秀女優賞)

 Sandra Huller
  ('REQUIEM'中での演技に対して)

銀熊賞
(最優秀男優賞)

 Moritz Bleibtreu
  ('THE ELEMENTARY PARTICLES'中での演技に対して)

アルフレッド・バウアー賞  EL CUSTODIO by Rodrigo Moreno
最優秀初監督作品賞  EN SOAP (A SOAP) by Pernille Christensen
名誉金熊賞  Andrzei Waida (director, POLAND)
 Sir Ian McKellen (actor, GREAT BRITAIN)
国際批評家連盟賞
(コンペ部門)
  REQUIEM by Hans-Christian Schmid
(パノラマ部門)
  KNALLHART (Tough Enough) by Detlev Buck
(フォーラム部門)
  IN BETWEEN DAYS by So Yong Kim
NETPAC賞  DEAR PYONGYANG by 梁英姫
キンダー部門 14plus
スペシャルメンション
 「窯焚 KAMATAKI」 by クロード・ガニオン
ベルリン新聞・読者審査賞
The Berliner Zeitung" Reader's Jury Award)
 「奇妙なサーカス」 by 園 子温
*日本からの出品作品はこちらから

概観
 第56回ベルリン映画祭は新マーケットオープンに沸いていた。とはいえ、映画祭のメインはそこで上映される映画である。今回のベルリン映画祭事務局は出品作品選びにも余念がなかったことが証明されていた。
 映画祭の柱・コンペティション部門には19本が選出された。地元・ドイツ映画が4本含まれていたのもちょっとした話題であったが、ドイツ映画の振興を映画祭のテーマのひとつに挙げているベルリン映画祭の姿勢がここにも窺える。そしてコンペ外作品が7本あり、主に約ひと月後に控えるアカデミー賞候補作であった。前ディレクターがこれらハリウッド映画をコンペ作品にしがちだったこととは対照的である。コンペティションのみならずパノラマ・フォーラム部門も含め、昨年に引き続き、全体的に政治色の強い社会派作品が目立った。なかでもMicheal Winterbottom とMat Whitecrossの共同監督作品、「THE ROAD TO GUANTANAMO」の上映時にはテロリストとの疑いをもたれ、アメリカ軍に拘束された英国在住パキスタン人3名がレッド・カーペットに登壇、記者会見でも積極的に発言するなど、異例のプレゼンテーションがなされた。また金熊賞受賞作「GRBAVICA」はボスニア紛争時のレイプ被害問題を正面から取り上げ、いまだ未解決のこの問題への注目を促した。この「GRBAVICA」に加え「En Soap」等、新人に近い監督作品の秀作も組み入れられており、批評家たちからも総じて好評であった。
 パノラマ、フォーラムともにそれぞれの特徴を強く押し出したセレクションであり、特にフォーラムのドキュメンタリー作品には秀作が目立った(「My country, My Country」「Dear Pyongyang」など)。
 ベルリン映画祭名物といっても過言ではないレトロスペクティヴの今回のテーマは「50年代の女優たち」。スターが最もスターとして輝いていた50年代に活躍した世界の女優たちを特集。広く一般的に知られている作品から比較的渋いものまで散りばめられた華やかな特集であった。‘日本の50年代の女優’として取り上げられたのは高峰秀子と原節子(「浮雲」「喜びも悲しみも幾年月」・「麦秋」)。もうひとつの特集上映はフォーラム部門枠で行われた中川信夫監督作品9本。熱心な観客が連日足を運び、傑作「東海道四谷怪談」はもちろんのこと、ホラーテイストの作品たちとは対照的な「かあちゃん」も好評であった。
レトロスペクティヴのポスターが貼られたベルリン映画博物館



ヨーロピアン・フィルム・マーケット


EFM会場のマーティン・グロピウス・バウ

 今年のベルリン映画祭の話題の筆頭は、なんといっても新マーケット会場のオープンであった。連日、日刊の「VARIETY」や「SCREEN」の紙面の多くを占めた。メルケル・ドイツ首相も新会場を訪問し、参加者に感想を尋ねるなどする姿も見受けられた。新会場マーティン・グロピウス・バウのスペースは昨秋までに早々に予約でいっぱいになり、急遽ポツダム広場の映画祭事務局の1フロアに場所を追加確保、計250社以上が参加するに至った。映画祭メイン会場ベルリナーレ・パラストから新会場までの徒歩10分ほどの移動をどうするのかが懸案でもあったが、街のタクシー乗り場のように、EFMシャトルが間隔をあけずに常に待機、ひとりでも乗車すれば即新会場に向けて発進するというシステムを取り入れたことによって、解決させた。車やドライバーの確保にかなりのコストをかけたに違いないが、それだけの価値は十分にあったはずである。マーケットブースは来年分の予約もかなり埋まっているというが、スペースレンタル料も高コストなことから、グランド・ハイアットなど近隣のホテルの部屋を商談用に借りることを検討している業者も少なくない模様。成果に関しては意見が分かれたが、11月のアメリカンフィルムマーケットと5月のカンヌの間のマーケットとしての重要性は確か。移転第一回目の今回はいろいろな意味で試験的であったといえそうだ。ヨーロピアン・フィルム・マーケットの今後の発展ぶりを注視していきたい。

映画祭会場とEFM会場を往復するEFMシャトル



日本からの出品作品
 残念ながら日本からはコンペティション出品作品はなかった。ベルリンに縁の深いサブ監督の最新作「疾走」は重松清の小説の映画化。小説の持つ重厚感を保った、丹念な仕上がりにベルリンの観客は進化し続けるサブ監督を確認したことだろう。もう一本のパノラマ作品は三池崇史監督「46億年の恋」。強烈なヴィジュアルイメージと斬新なストーリー展開に三池監督の本領が発揮されている。(尚、同監督はカンヌ、ベネチアに続きこれで三大映画祭すべてに正式出品を果たしたことになる。)
写真右:EFM会場内に設置されたユニ・ジャパンのブース
 フォーラム部門へはディレクター、クリストフ・テルヘヒテ氏が惚れ込んで選んだ作品ばかりヴァラエティに富んだ4本が選ばれた。梁英姫監督の「DEAR PYONGYANG」は‘東西分断’の歴史を持つドイツ人には遠いアジアの国とはいえ、入り込みやすいテーマだったようだ。とはいえ、北朝鮮の驚愕の内情には興味が尽きなかったとみえ、上映後のQ&Aは梁監督の丁寧な受け答えも手伝って大いに盛り上がった。「Big River」の船橋淳監督は2年前のタレント・キャンパス参加者であり、同作品はキャンパスから生まれたといっても良い作品、‘監督’としてベルリンに戻ってきた船橋監督の作品に惜しみない拍手が捧げられた。藤原敏史監督の「ぼくらはもう帰れない」、園子温監督「奇妙なサーカス」はフォーラムならではの実験性・独自性がいかんなく発揮されたセレクション、特に後者は賛否のはっきり分かれる作品であるが、衝撃的な内容を高度な芸術性をもって描いた点が評価され、ベルリン新聞・読者審査賞(The Berliner Zeitung Reader's Jury Award)を獲得した。
 近年、充実ぶりが語られるようになったキンダー部門には日本から2作品が出品。PFF(ぴあフィルムフェスティバル)スカラシップ作品「水の花」、カナダとの合作「KAMATAKI窯焚」、後者は昨年のモントリオール映画祭での数々の賞を授与されたが、今回はスペシャルメンションを受賞した。


Special
今回のベルリン映画祭に出席された日本人の方々の中から、
映画祭について振り返っていただきました。

-ベルリン雑記-  木下雄介監督(キンダー部門出品作「水の花」)

 ベルリンに着いて何よりも驚いたのが、町中至るところに映画館があること。映画祭のチケットも1000円弱と安く、(普段は毎週映画の日があるそうだ)「水の花」が出品されていたキンダー部門は子供が多く来るということもあって、500円かからない。小さな頃からさまざまな映画、海外の映画を映画館で触れることができる環境である。
 十日間の滞在中、「水の花」の上映は後半に集中していたので、前半は映画三昧であった。特にベルリンで観る小津安二郎の「麦秋」は格別であった。観客は、素敵なリズムを刻む日本語に心踊らされ、子供達と一緒に戯れ、ラスト、原節子の背中に涙していた。映画の持つエネルギーの普遍性、共有可能性に改めて気付かされた。
 観光。映画の合間合間にだったので、じっくりまわることは出来なかったが、個人的には新ナショナルギャラリーでやっていた「メランコリー」をテーマにした展覧会がとても良かった。
 「ベルリン、天使の詩」に出てくる国立図書館を見るのを楽しみにしていたが、案の定、舞台となっている2階部分には入れず、残念。が、後々、遠巻きながらヴェンダーズを見ることができたので大満足であった。
 ベルリンでは「水の花」は三回上映されるとのことで、帰国後にある最後の上映以外の二回、舞台挨拶とQ&Aに向かうことになっていた。
観客の子供からサインを求められる木下監督

©Max Kullumann

 初めての海外映画祭であり、キンダー部門の観客の多くが子供だと言う事を聞いていたので、正直不安もあった。「水の花」は、観客は子供、と限定して作ったわけでなく、静かな映画である。どういった反応になるか全く予想がつかなかった。しかし、その不安は映画が始まると同時にすぐに消し飛んだ。観客は皆、映画に真面目に観入り、素直に大きく感応し、本編終了後、大きな拍手を送ってくれた。Q&Aは「美奈子役、優役の子はどうやって決まったのか?普段はどんな生活をしているのか?」と子供らしい素朴な疑問や、映画で描かれるラストに関する鋭い質問があったりと、日本では味わえない雰囲気の中行われた。Q&A、二回目の上映では大人も多かったが、子供のパワーに圧倒されていたように感じる。終了後、サインを沢山頼まれた。もちろん普段サインを書く機会がない私は「木下雄介」とただ書くしかなかったが、漢字が思いのほか珍しいらしく喜んでくれた。
 そんなこんなで、ベルリンの非日常的生活にすっかり夢うつつだった私は、帰りの飛行機にまんまと乗り遅れてしまった。空港の人に呆れた顔をされながらも、三回目の上映の舞台挨拶に行けることになったので、急いで向かった。


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