釜山国際映画祭
10th PUSAN International Film Festival
2006/1/25-2/5

 Palme d’Or
(パルムドール)
 The Wind that Shakes the Barley  by Ken LOACH
 (仮邦題:「麦の穂を揺らす風」)
グランプリ
 Flanders by Bruno DUMONT
最優秀監督賞
 Alejandro Gonzalez INARRITU
 Babelのディレクションに対して)
最優秀女優賞  Carmen Maura, Penelope Cruz, Lora Duenas,
 Blanca Portillo, Yohana Cobo, Chus Lampreave
 (‘Volver’中での演技に対して)
最優秀男優賞  Rachid Bouchareh, Jamel Debbouze,Samy Naceri,
 Sami Bouaiila, Roschdy Zem, Bernard Blancan Marri
 (‘Indegenes’中での演技に対して)
最優秀脚本賞  Pedro ALMODOVAR (Volver)
審査員賞  The Red Road by Andrea ARNOLD
カメラドール
(新人監督賞)
 ‘L’EST de Bucharest’  by Corneliu PORUMBOIU
*日本からの出品作品はこちらから



スターを一目見ようと沿道に集まる人々

概観
 映画祭の盛り上がりを決定するのは初日;ゆえにオープニング作品はたいへん重要、ということを映画祭関係者たちはよく口にする。初めに沈滞してしまうと、そのムードを変えるのは至難の技である、と。この説でゆくと今年のカンヌの出足は手痛いものであったといえそうだ。オープニング作品「ダ・ヴィンチ・コード」。大ベストセラー小説の映画化であって、カンヌ映画祭オープニングの直後には世界同時公開となることが決定していた大注目作品が、プレス試写で不評を買ってしまった、とのニュースが世界中に発信された。もっともその後の公式上映ではまあまあの反応。賛否が分かれ、話題になる方が及第点で埋没するよりは良いといえなくもない。その直後の世界公開も総じて好成績だった。いずれにせよ注目を浴びたスタートであった。


上映会場への入口
チケットの種別によって入口が異なる

 カンヌ映画祭に集う人々は興味も目的も多様であるが、それでも話題の中心は今年のコンペティション作品である。今回コンペティションに選ばれた作品は戦争、社会問題に題をとったものが目立った(「麦の穂を揺らす風」「フランダース」「INDEGENES」等)。そしてそれらがウォン・カーウァイ監督率いる審査員団の高い評価を得た。地味な印象ではあるが、ある意味カンヌらしい気骨が感じられた受賞結果ともいえる。例年に較べてもひときわ華やかな審査員団が選出したのがこの受賞結果、というのが興味深い。(ただ今回は主演男優・女優ともに‘団体賞’であったが、この選び方はいかがなものなのだろうか、と思わないこともなかった・・・。)
 会場周辺の盛り上がり、連日連夜放映されるカンヌニュースなどを見るに、フランスにおける同映画祭の存在の大きさが実感できる。オフィシャルグッズも年々増加(ただし割高)、お祭りとしての華やかさは相変わらずである。だが、業者の人々の撤収は年を追うごとに早まっている感が濃厚。最初の週末をピークに、翌水曜頃には帰り支度に着く人が目立ち始めていた。実際、数日間だけの滞在という人も多く、その人々のために「ワンデーパス」も導入されている。日数のみならず、また参加者の業種も多様。後述する「プロモーション」のための、あるいは随時催される高級ブランドのパーティへの出席のためだけにやってくるセレブリティ、、、さまざまな参加の形が見られる、まさに映画の祭典・カンヌ映画祭である。


カンヌ・クラシックス
 映画祭に参加すると、新作(あるいは出来上がる以前の段階の‘作品’)を追いかけるのがどうしてもメインになりがちであるが、そんな中にあって「カンヌ・クラシックス」は独自のポジションにある。この部門が創設された2004年以前にも旧作が上映されることはあったが、独立した部門として体系付けられたのは3年前、2004年のこと。年毎に多少の変化はあるものの、セクションの骨子は以下のとおりである。

−ニュープリントあるいは復元されたプリント:
各プロダクションや、各国のフィルムアーカイヴ、フィルムミュージアム等から申し出のあった作品から10本程度を選出。

 (今年は「風の谷のナウシカ」宮崎駿監督、「捜索者」ジョン・フォード監督等)

−ある映画人へのトリビュート:
 監督の生誕百年など、節目の年であることが多い。

(同:キャロル・リード、ノーマン・マックラーレン、セルゲイ・エイゼンスタイン等)

−ドキュメンタリー(映画or映画人をテーマにした)

(同:マルチェロ・マストロヤンニ、ロベルト・ロッセリーニについて)


映画のチケット“インヴィテーション”


 カンヌ映画祭における‘名画座’的な位置付けで、サル・ブニュエルにて初日から閉幕前日まで日に2−4本ほどの名作を提供する。従来のプリントでは映像の状態が良好ではない場合が多い名作を、クリアな映像で落ち着いて観られる贅沢。批評家たちのみならず、新作の探索に疲れた人たちにもさりげなく好評である。日本の旧作への評価が国際的に高まっている中、今回は「風の谷のナウシカ」が上映されたが、来年以降も継続的に紹介されてほしいと思う。




カンヌ映画祭アーティスティック・
ディレクターのティエリー・フレモー氏


日本からの出品作品
 今年のオフィシャルセクション(「ある視点」「アウト・オブ・コンペティション」「コンペティション」)には日本映画は皆無であった。残念な結果とはいえ、仕方がない。例年どおり多くの応募があったにはあったが、選考委員たちの意に沿う作品がなかった――それだけのことである。とはいえ、日本映画及び東アジア映画の極端な少なさはジャーナリストたちの間での話題になってはいた。そんな中唯一、日本の長編作品で上映されたのが監督週間での「ゆれる」。西川美和監督の第2作目の作品で、骨太な完成度の高さで注目を浴びた。主演のオダギリジョーは昨年に続いてのカンヌであったが、監督週間のアットホームな雰囲気とダイレクトな反応に感慨深げであった。もう一本、批評家週間で中野裕之氏の短編「IRON」。こちらはヤング批評家賞を受賞した。また、コンペティション作品「バベル」の一エピソードは東京が舞台で全員日本人俳優(東京の街の切り取り方が新鮮であった)ということで、役所広司氏らが登壇、大規模な共同制作作品に日本の顔が見えたのは心強いことであった。


日本映画セールス
 今回の「日本映画界におけるカンヌ映画祭」という点からの注目されるのは‘プロモーションの場としてのカンヌ’が大々的にフィーチャーされたことであろう。各作品の出演者を含む大デリゲーションを編成して「UDON」及び「西遊記」の製作発表、それにともなうパーティを催したフジテレビはその筆頭である。他社に関してもカンヌでマーケット試写を行うことがニュースとなって次々と配信され、それなりに話題となった。今回は日本からの公式上映作品がわずかしかなかったことも起因しているにちがいないが、この手のニュースが大半を占め、カンヌ映画祭の位置付けが今後映画祭としてよりもセールスの場としてばかりに重点が置かれるようになってゆくのでは、と少々危惧される。

経済産業省とユニジャパンは今回から日本の映画プロデューサーを対象に国際共同製作映画の実現を促進することを目的とし、J−PITCHを立ち上げ、その一環としての‘ネットワーク支援‘をカンヌ映画祭にて始動させた。企画を持って臨んだした各プロデューサーにとって世界各国から主だったプロデューサー・製作会社・セールスエージェントなどが一堂に会するカンヌはまさに格好の場であろう。メイン会場(パレ)内と隣接する国際映画村内のジャパンパビリオンの存在も3年目となり、すでに定着した感がある。また昨年に引き続いて『ホテル・マジェスティック』にて、国内外の日本映画関係者を集めたパーティを開催。今回は入場をやや厳しくしたせいもあって、空間的にゆとりも感じられ、雰囲気も良好。情報交換の場として十分に機能していた。


Special
今回のカンヌ国際映画祭に作品を出品された監督に、
映画祭について振り返っていただきました。

西川美和監督(監督週間出品作品「ゆれる」)


監督週間事務局への入口
カンヌに到着したのは夜の8時を回っていましたが、まだ夕暮れの明るさを残していて、その光のやわらかさと美しさにほうっとため息をつきました。
街は深夜に及んでも映画を求める人々にごった返していました。
公式上映当日、監督週間の会場である「ノガヒルトンホテル」のシアターに入ると、客席はすでにたくさんのお客さんで埋められていました。
上映前の舞台挨拶に上がる時、私とオダギリジョーさんに客席からはとても大きな、長い長い拍手が送られました。
お客さんたちはまだ作品も観る前で、この作品に満足するかどうかもわからないのに、その拍手はとても温かく、そして私たち「映画の作り手」への歓迎と敬意に満ちていました。
ああ、映画を作っていてもいいのだ。
そんな風に私は思い、胸が熱くなりました。

「ゆれる」記者会見の模様
壇上右端が西川監督、その隣がオダギリジョー氏
本編の上映前には「監督週間が見出してきた多くの監督たち」の名前と、その作品群の一コマがずらずらと流されるのです。
オダギリさんは何度も監督週間の作品の上映にも来られていたのでそれをご存知でしたが、私は全くの初めてだったので、これは痛烈でした。
ロベール・ブレッソン、大島渚、アトム・エゴヤン、スパイク・リー、侯孝賢、ジム・ジャームッシュ、マーティン・スコセッシ、北野武、ケン・ローチ・・・(すみません、敬称略)その名前の並びを見るだけで全身に鳥肌が立ちましたし、ずっと尊敬してきた錚々たる監督たちの作品の後に自分の作品が続くと思うと戦慄が走りました。
「こんなに誇らしいことはない」と思うと同時に「これはやばいことになった」と・・・(笑)。

上映が始まっても、私はあまり物語に集中することが出来ませんでした。
とにかく共にこの映画を作ってくれた俳優のオダギリジョーさんと一緒に、カンヌの監督週間のスクリーンを眺められていることが感無量でした。そして一緒に苦労してくれたスタッフのことを想いました。
とてもいい時間だったと思います。
美味しいものも頂きましたし、作品を皆さんに褒めていただいたりもしましたが、やはりカンヌに行って一番嬉しかったのは、「人は映画を求めている」ということを熱く感じられたことかもしれません。
私もまた、自分のペースでゆっくりと、映画を作るということに冷静に向き合うことが出来そうです。
監督週間に出品させてくださった人たちに心から感謝をいたします。どうもありがとうございました。


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