2007/5/16-27

金熊賞
 THE ELITE SQUAD by Jose Padilha
銀熊賞
 審査員賞
  STANDARD OPERATING PROCEDURE
  by Errol Morris

 
最優秀監督賞
  Paul Thomas Anderson
  ('THERE WILL BE BLOOD'のディレクションに対して)

 最優秀女優賞
  
Sally Hawkins
  
('HAPPY-GO-LUCKY'中での演技に対して

 最優秀男優賞
  
Reza Najie

  
('THE SONG OF SPARROWS'
中での演技に対して
アルフレッド・バウアー賞  LAKE TAHOE by Fernando Eimbcke
最優秀初監督作品賞  「パーク・アンド・ラブホテル」 熊坂出監督
名誉金熊賞  Francesco Rosi (director, Italy)
国際批評家連盟賞  (コンペ部門) LAKE TAHOE by Fernando Eimbcke

 (パノラマ部門) MERMAID by Anna Melikian

 (フォーラム部門)SHAHIDA---Brides of Allah by Natalie Assouline
マンフレード・ザルツゲーバー賞  「めがね」 荻上直子監督
NETPAC賞  「実録・連合赤軍-あさま山荘への道程-」 若松孝二監督
*日本からの出品作品はこちらから



フォーラム部門の公式上映会場
“DELPHI”

概観
 58回ベルリン映画祭は例年通りポツダム広場周辺をメインにベルリン市内各所で380本以上の作品を上映、11日間に渡って繰り広げられた。マーティン・スコセッシ監督によるローリング・ストーンズのドキュメンタリー映画で幕を開け、スコセッシ監督及びストーンズのメンバーも登場するかなり派手なオープニングだったといえるだろう。他にマドンナも初監督作品とともに来場、パティ・スミスは自身を題材にしたドキュメンタリー映画の上映に際してパフォーマンスをするサービスぶりだった。地元のベルリン・フィルハーモニーについてのドキュメンタリーも好評を博し、総じて音楽色の強い回であったといえる。(個人的には著名なミュージシャンの登場は多すぎない方が良いと思う) 前回のカンヌ映画祭でのU2の登場も記憶に新しい。映画祭も音楽界等他分野との新たな‘コラボレーション’構築を模索しているのだろうか?


上映作品のポスター(「母べえ」)が
飾られたベルリンの街中

 映画祭の柱であるコンペティション部門は残念ながらレベルの高い回だったとは言い難い。コンペティション部門でとび抜けた作品の有無は映画祭を盛り上げる大きな力となるだけに痛かった。ハリウッドを中心にいわゆるスター俳優たちの来訪は例年同様、またはそれ以上に多かったが。
 注目の金熊賞は下馬評とは異なり(ベルリンの場合、異なる場合が特に多いような気がする)、ブラジル映画『エリート・スクワッド(The Elite SquadTropa de Elite)』。スラムの麻薬密売のグループとそれと戦う警察のエリート部隊の深刻な問題を描いたドキュメンタリーで、暴力シーンの多さや警察の描き方など賛否がかなり分かれていた作品であった。

 レトロスペクティブ部門は今回はルイス・ブニュエル監督の全作品を網羅。かなり楽しみにしていたのだが、フランス語やドイツ語のみしか字幕のない作品も多かったのが残念であった。オマージュ上映は今年の名誉金熊賞受賞者・フランシスコ・ロジ監督の特集。これらクラシック部門はベルリンも相当毎年力を入れているため、固定ファンを確保している。客層も多岐にわたっていて興味深い。
 昨年新設された‘料理映画部門’はお祭り的色彩が強く選考の基準も不明瞭なため賛否が分かれたが、引き続き今年も開催され、日本作品も一本上映された。ディナー付きで100ユーロを越える高額な回もあるという話だが、果たしてこのまま定着してゆくのだろうか。
 とにかく近年のベルリンは映画上映以外の提携イヴェントがあまりにも盛りだくさんで、肥大化の傾向が著しいように思える。会場も点在しているといってよく、全体像を把握するのは到底無理だと感じてしまう。大規模映画祭とはそういうものだと言ってしまえばそれまでなのだが・・・・・。

日本映画


「母べえ」の山田洋次監督と
主演の吉永小百合さん

 今年の映画祭にあっては日本映画関係の話題が目白押しであった。また日本のマスコミも例年以上にベルリン映画祭関連記事を報じていた。まず明るいニュースとして、2年ぶりに日本映画コンペ部門出品作があった。ベルリンに馴染みの深い山田洋次監督の『母べえ』である。この作品に関しては日本国内で受賞の期待を語る声ばかりが多く聞かれてきて、監督や俳優の方々のプレッシャーを思うと多少お気の毒な感じを禁じ得なかった。映画祭での受賞はできればそれに越したことはないが、運に左右される部分がかなり多いのだから・・・。現地での評判も上々、さらなる国際展開の弾みをつけるに良い機会となったのではと思われる。
 パノラマ・フォーラムそれぞれの部門にはいくつもの個性溢れる日本映画が顔を揃えた。ベルリン映画祭全部門の中から卓越したデビュー映画に贈られる最優秀新人賞受賞を『パーク・アンド・ラブホテル』が獲得したのは特筆すべき快挙である。また荻上直子監督は『バーバー吉野』に続く2回目のベルリン出品作となった『めがね』でマンフレート・ザルツゲーバー賞を受賞、新鮮味溢れる芸術表現を評価された。それらに加えてネットパック賞(優れたアジア映画に贈られる)等を受賞した『実録・連合赤軍-あさま山荘への道程-』などが日本のマスコミでは大きく取り上げられていたが、現地ではそれらのみにとどまらず、粒揃いの日本映画の快進撃がみられた。


「実録・連合赤軍」の若松孝二監督

 作品の半分ほどを日本で撮影、日本が大きなモチーフとなっているドイツ人監督、ドリス・ドーリエ氏による『花見』は日本映画ではないとはいえ、また日本人がみると多少の違和感を覚える箇所もなくはないのだが、監督自身が小津安二郎監督の名作『東京物語』に多くの着想を得ていることを公言しているこの作品、日本に対する興味をかき立てる一助にはなりえたのではと思う。若松孝二監督の小特集も話題を呼んだ。43年前にベルリン映画祭コンペ部門に出品されて論議が起こったという『天使の恍惚』を含む4作品が上映され、新鮮な驚きを持って迎えられた。結果的には昨年、一昨年に引き続きフォーラム部門で日本映画の特集が組まれたことになる。『実録・連合赤軍』上映後の質疑応答は数回行われたが、どの回もかなり濃い内容で大いに盛り上がりをみせ、時間が足りなくなるほど。若松監督も大満足の面持ちであった。

マーケット
 メイン会場のマーケットブースは今回も早々と埋まってしまったという。また映画祭機能が密集したビル内の1フロアも第二会場として使用された。ユニ・ジャパンは例年同様にメイン会場の中の好位置にブースを構え、日本映画の情報を求めて訪れる人々への対応・また各プロダクションの共同ブースとしての役割も果たしていた。ユニ・ジャパンとは別に独自のブースを持ったのは2社のみ。新規にマーケット内に拠点を確保するのは至難の業であることから日本以外の国の会社の中では隣接するホテルの一室をブースとして使用している例が増加傾向にあり、カンヌの状況を思い出した。今回は特にコンペティションに出品された作品のほとんどは興行ベースにのせるのが難しそうな作品か、もしくはすでに売買済みの作品であったりしたことから、マーケット参加者の人々の関心も薄かった様子である。マーケット参加者の間では現在製作中・製作予定中の作品が関心の中心で、スティーヴン・ソダーバーグ監督が描くチェ・ゲバラの伝記映画等に注目が集まったとのことである。各会場間の移動はシャトルバスが頻繁に運行することから何の苦もないのだが、年々マーケットと映画祭本体との乖離が顕著になってきているように思えてならない。



      
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