2007/5/16-27

ニュー・カレンツ賞
 「無防備」 市井昌秀監督
 Land of Scarecrows ROH Gyeondg-tae
NETPAC賞
 Members of the Funeral BAEK Seung-bin
 Treeless Mountain KIM So Yong
国際批評家連盟賞  Jalainur Ye ZHAO
PIFF メセナ賞
(最優秀ドキュメンタリー)
 「精神」 想田和弘監督
 Old Partner LEE Chung Ryoul
観客賞  100 Chris MARTINEZ
*日本からの出品作品はこちらから



新たな上映会場として加わった
シネコンを擁する、ロッテデパート



ホテル・上映会場などを巡回するシャトルバス


街に飾られた映画祭の大型ポスター

概観
 102日に幕を開けた13回目の釜山映画祭。60カ国からの315作品が上映され、アジア随一の規模を誇る。とはいえ韓国映画界の不振の影響を受け、出席する映画関係者には数年前ほどの熱気は感じられないのが正直なところだが、市民の間での盛り上がりは健在で過去最高の観客動員数を記録した。関係者向けに各国大使館や団体主催のレセプションがほぼ毎夜繰り広げられる一方、PIFFセンターにおいては市民参加のイベントが開催され、同映画祭の特色のひとつである祝祭感が随所に漲っていた。まさに国を挙げての一大イベントの様相。そんな釜山の市民の熱い反応は参加する製作者には大きな刺激になるとの声も多く、日本の監督たちも積極的に出掛けてゆく。韓国でもよく知られた日本の俳優・監督を呼ぶことにも熱心であることから、日本のメディアでも大々的に報道される作品も数多く、出品者側にとっても宣伝効果大の映画祭といえるだろう。
 来韓するゲストから(もちろん市民からも)チケットの入手が困難との苦情が絶えない例年の問題を緩和すべく、上映に使うシネマコンプレックスを従来の二館から三館に増やし、同一映画を同一時刻に二館以上で上映するなどの努力は感じられた。
 今回からアジアン・フィルムマーケット(AFM)のメイン会場をPIFFセンター正面のシークラウド・ホテルに移し、同ホテルをマーケット関係者(または至近のパラダイスホテル)の宿泊ホテルともしたため、メイン会場エリアからやや遠くのベクスコ地区のホテルに宿泊をしたゲストも多数。また同地区の高級デパート内にあるシネコンも上映館の仲間入りを果たし、映画祭の二分化が進んだ。正確には下町・ナンポドン地区を入れれば三分化である。ベクスコ地区はそれなりの繁華街ではあるが、映画祭メイン地区に徒歩で通うのは無理な距離。対策として映画祭は主要ホテル・映画館間のシャトルバス(外見・内装ともになかなかのインパクト・・・)を運行させたりの配慮をみせていた。ただ最終が21時前なので帰りは結局タクシーを使うことになったが。
 大雑把に言って映画祭には規模の拡張を希求するタイプと、一定の規模を維持し、細部まで目が行き届くような運営スタイルを保とうとする映画祭とに分かれるが、釜山は明らかに前者である。そのことにもちろん異論はないが、ここまで拡大した今、細かい点の改善・整備に取り組んでも良いのではないだろうか。たとえば例年不評極まりない「時間厳守を徹底するにもほどがある」ボランティアの対応。上映開始後はたとえ数十秒遅れただけだとしても、決して入れてくれないのはいかがなものか・・。職務に熱心なのは結構なのだが、多少の融通を利かせる方向に向かって欲しい。


日本からの出品作品
 韓国国内では興行的には難しいとされている日本映画であるが、映画祭での人気は相変わらず上々である。今年も各部門にまたがって多数選出。ゲストの来韓や舞台挨拶で盛り上げる娯楽作品に話題が集まる一方で、創造性に重きを置く新人のコンペティション部門、ニューカレンツ部門においては日本作品が最高賞を受賞。またドキュメンタリー部門の最優秀作品も想田監督『精神』が選出され、日本の若手映画作家のポテンシャルを示す形となった。


顕彰
 
第5回アジアン・フィルムメーカー賞(顕著な功績を残しているアジアの映画作家に贈られる)は映画プロデューサーであり、ユーラシア映画祭のディレクターも務めるカザフスタンのGulnara Sarsenova氏。6回目にして初の女性の受賞者となった。今年はオープニング作品にカザフスタン映画「The Gift to Stalin」を選出したり、ヨルダン・パキスタン・モンゴルなどの作品も上映されるなど、釜山も中央アジアとのつながりを深めているのが見て取れる。
 また韓国映画の海外での普及に大きな貢献を果たしたとして、ニューヨーク映画祭ディレクター、リチャード・ペーニャ氏にコリアン・シネマ・アワードを授与。またいわゆる賞とは性格が異なるが、毎年恒例のハンドプリンティング(手形)を納める映画人として、イタリアのタヴィアーニ監督(弟・パオロ氏のみ出席)並びにフランスの女優・アンナ・カリーナ氏、そして香港出身のツィ・ハーク監督の3人。これに伴い彼らの監督、または出演した作品の特集上映も組まれた。世界の映画人の顕彰に積極的な姿勢は、数々のアカデミックなシンポジウムやワークショップの開催と併せて、映画祭が大衆に受けることだけに主眼を置いていないという意志の表れとも取れ頼もしい。


アジアン・フィルム・マーケット&PPP
 103日〜5日まで開催。昨年までのグランド・ホテルから会場をシークラウド・ホテルに移転し、それまでの会場グランド・ホテルでの最大の難問といわれていたエレベーター問題(*エレベーターの台数が圧倒的に足りず、待ち時間の長さが大問題であった)は解消されたものの、主催者側の期待ほどの成果は挙がらなかった。欧米からの参加者を募るのに苦心している様子だが、まさに世界的な経済不況の渦中であり、また二週間後に控えている東京のTIFCOM11月のAFMとの兼ね合いという状況に加え、韓国映画の不振が響いての結果だったといえるだろう。秋のフィルムマーケットといえば数年前まではイタリアのミフェドが求心力を持っていたが、現在はトロント、釜山、東京、ローマ、そしてAFMといった形で各地に分散している。そんな中、釜山も東京もそれぞれの立ち位置を固めようと試行錯誤中のようだ。
 釜山映画祭の目玉のひとつであるPPP(プサン・プロモーション・プラン)は今年で11回目を迎え、企画マーケットとして順調に機能している。今回は日本からは3本の企画が選ばれていた。またドキュメンタリー映画支援のアジアン・ネットワーク・オブ・ドキュメンタリー(AND)の存在も含め、さまざまな形でインディペンデント映画作家への支援を推し進めている点は世界的にみても高く評価できる。






      
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