カンヌ映画祭
 Festival de Cannes
  2007/5/16-27

金豹賞  SHE, A CHINESE  by Xiaolu GUO,
            United Kingdom/Germany/France

審査員賞  BUBEN.BARABAN  by Alexei Mizgirev, Russia
最優秀監督賞

 BUBEN.BARABAN  by Alexei Mizgirev, Russia

最優秀女優賞  Lotte Verbeek in NOTHING PERSONAL by Urszula Antoniak,
            Netherlands/Ireland
最優秀男優賞  Antonis Kafetzopoulos in AKADIMIA PLATONOS
            
by Filippos Tsitos, Greece/Germany
観客賞  GIULIAS VERSCHWINDEN  by Christoph Schaub,
            Switzerland
新人監督賞  NOTHING PERSONAL by Urszula Antoniak,
            Netherlands/Ireland
名誉金豹賞  高畑勲監督
 冨野由悠季監督
*日本からの出品作品はこちらから



映画の上映を待つ人々


「マンガ・インパクト」のシンポジウムにて
左端に立っているのが、フレデリック・メール氏

概観
 スイス南部・ロカルノ市での夏の大イベントといえば映画祭である。今回知ったことだが、ロカルノ映画祭は‘スイスの7大カルチャーイベント’に数えられているほどの催しだそうで、スイスの他地域もしくは近隣諸国からの来訪者が多いのも頷ける。とはいえ映画祭の公式発表によると観客の総入場者数(前年比12.7%減)、業界関係者の来訪者数(同・12%減)共に減少した。ヨーロッパ最大を誇る屋外スクリーン上映のピアッツァ・グランデ部門だけは2.5 %増とのことだが、折からの不況によって生じている世界的傾向ということでそれほど問題視もしていないようだ。
 開会式・閉会式もこのロカルノ名物のピアッツァ・グランデにて行われるが、8000人が集う様子はいつ見ても壮観である。映画祭期間中はこの広場で連日夜になると2作品の上映が行われる。山の天気の典型でロカルノは天候の変化が激しく、日中は晴れていてもピアッツァ・グランデでの上映の時間になるとなぜか雨が降り出すことが多い。今年も例に洩れず、上映が始まるや否や雨が降り出すこともたびたびであった。
 今回の映画祭の目玉のひとつは日本のアニメーションに焦点を絞ったプロジェクト、「マンガ・インパクト」。映画祭の日刊新聞「パルド・ニュース」にもほぼ毎日何らかの形で取り上げられていた。この特集に関して訪れた日本人は70人以上を数えたという。ロカルノの町にここまで日本人が集まったのは初めてに違いない。企画マーケットOpen Doorが今年特集したのは中国語圏の国々(中国本土、香港、台湾)だったことから、選出されたプロジェクトを携えて来訪した中華圏の監督・プロデューサーたちの姿も合わせ、東洋色が強い回であった。そしてコンペティション部門で最高賞である金豹賞は中国人女性監督の手にわたった。
 日本人としてはどうしても「マンガ・インパクト」が非常に気になってしまったが、もちろん通常通りのセクションは健在で、常連の来訪者たちは芸術性、実験性に富んでいることで定評のあるロカルノ映画祭の従来通りのラインナップを満喫していた。
 2004年からアーティスティックディレクターを務めたフレデリック・メール氏は今回限りでシネマテーク・スイスへと活動の場を移し、来年度からはフランス人であるオリヴィエ・ペール氏が指揮を執ることが決定している。カンヌ・監督週間で6年間、またシネマテーク・フランセーズのプログラマーとして長年にわたって手腕を奮ったペール氏のもと、どのようにロカルノ映画祭が展開されてゆくのか注目してゆきたい。



「マンガ・インパクト」の展示コーナー


名誉金豹賞を受賞した富野由悠季監督

日本映画 
 「マンガ・インパクト」は日本のアニメーションの歴史を回顧するイベントとして、セクションをまたいで約200本もの上映が繰り広げられた。このプロジェクトを担当したキュレーターによると、70年代半ばに日本アニメーションがヨーロッパ(特にフランス、イタリア、スペイン)に与え、その後世界に広まっていった衝撃を辿って見せることを目的にしていることのことであった。東京国立近代美術館フィルムセンターの協力を得て上映が可能となった戦前の貴重な作品から商業性の高い最新作品まで、短編・長編からテレビ作品まで網羅し、包括的に日本アニメーションの歴史を振り返ろうとの意気込みが十分感じられる内容となっていた。上映としてとりわけ話題となったのはピアッツァ・グランデでの『平成狸合戦ぽんぽこ』の回及び、「マンガ・ナイト」と銘打った夜の『つみきのいえ』の上映であったが、それ以外にもオープニングから閉幕日まで日本のアニメーションづくしであった。ピアッツァ以外で観客数を伸ばしたのは傑作として広く認知されている『火垂の墓』、『AKIRA』、『攻殻機動隊』など。日本のアニメが海外に‘インパクト’を与えた例として『キル・ビル』が紹介されていたのも印象的だった。
 欧州、特にイタリア・フランスでは宮崎監督作品をはじめとした日本のアニメーションのファンが多い。イタリア語圏であるロカルノがこのプロジェクトを立ち上げたのにはそんな背景があった。他会場で連日行われていたテレビ作品上映は日本語のみであったにもかかわらず、オリジナルな味わいを求めてやってくるファンが後を絶たなかったという。加えてこれまで日本の漫画になじみのなかった、いわゆるアニメファンではない人々も熱心に足を運んでいた。
 別会場を使って簡単な展示、書籍の販売コーナー、テレビアニメ番組の原語でのスライド上映。近隣の小学校の児童たちが社会科見学(?)として訪れ、映画祭キュレーターが説明をしている姿もみられた。
 今回のロカルノには名だたるアニメクリエーター、プロデューサーも大挙してロカルノ入りした。来訪した高畑勲・富野由悠季両監督には名誉金豹賞が授与され、この両監督以外にも約20人のクリエーターたちが数回行われた座談会や会見に参加した。それぞれ偉業を成し遂げた才能溢れる人たちだけに、大勢で一同に会するよりは少人数でじっくり話を聞く場を設けた方が良かったのでは、、、等いくつか気になったところも見受けられたが、このプロジェクトがアニメーション映画祭ではない、大映画祭において日本のアニメーションを包括的に取り上げたという点で画期的なイベントとして評価できるのは間違いない。
 「マンガ・インパクト」はロカルノ映画祭後、9月半ばより来年1月までイタリア・トリノの映画博物館にてプログラムを微調整しつつ上映、展示や出版物により力を入れてプロジェクトとして「完成」した形になる予定だそうだ。
 今回は「マンガ・インパクト」以外にもコンペ部門に日本映画が二本選出された。一昨年に金豹賞を受賞、昨年は審査員としてロカルノを訪れた小林政広監督の『ワカラナイ』と日本のアニメーションとしてロカルノのコンペ入りははじめての『サマー・ウォーズ』。前者は映画祭初日に、後者は最終日に上映され、受賞こそ逃したものの、それぞれ好評を博した。




      
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