2007/5/16-27

Woosuk Award
(最優秀劇映画)

 SUSA (グルジア) Rusudan Pirveli監督
JB Bank Award
(審査員特別賞)

 Red Dragonflies (シンガポール)  Liao Jiekai監督
JJ-Star Award
(
韓国映画長編部門
コンペティション・最優秀賞)
 Passerby#3      Shin Su-won監督
Easter Jet Award
(
韓国映画短編部門
コンペティション・最優秀賞)
 Frozen Land    Kim Tae-yong監督
NETPAC  Clash (フィリピン)    Pepe Diokno監督
観客賞  The Boy from Ipanema (韓国)  Kim Kih-hoon監督
*日本からの出品作品はこちらから



韓屋村内に掲げられたチョンジュ映画祭バナー

概観 
 11回を数えたチョンジュ国際映画祭(英語ではJeonju International Film Festival=JIFFと表記される)。チョンジュ市の最大の文化イベントに数えられるまでに、また韓国内において釜山に次ぐ総合国際映画祭として認知されるまでに成長を遂げた映画祭である。同市は全羅北道県の県都で人口62万人、ソウルから高速バスで南に約3-4時間の旅を経て到着する。後百済王朝の首都、韓国でも有数の歴史的建造物をはじめ、古い伝統的民家が良い状態で保存されており、歴史・伝統文化をつぶさに見聞できる。フィルムコミッションの活動も活発で、伝統的な韓屋が800戸以上残る韓屋村においては映画やドラマの撮影もたびたび行われるという。またグルメの町としても知られる(特に全州ビビンバともやしクッパが有名)。

 チョンジュ映画祭は「自由、独立、疎通」をテーマに2000年にスタートした。すでに韓国最大の国際映画祭として釜山映画祭が確固とした立場を確立していたことから、チョンジュ映画祭の独自性を出すべくインディペンデント映画やデジタルシネマの振興に積極的に取り組んできた。その姿勢は一貫しており、現在活躍中のインディペンデント作家を早い時期から紹介しているなど一定の成果を出している。同映画祭に参加して最大の驚きは商業的・大衆的な作品とは対極にあるようなインディペンデント映画をメインとしたプログラミングに、観客がしっかりついてきていることである。よくこれが、と思うような難解な作品がほぼ満員になっていたりするのである。たとえば今回のマスタークラスの講師のひとりでもあったペドロ・コスタ監督作品の計11作品が一挙上映されたが、いずれも芸術性高く、非常に示唆に富んだ通好みの作品で近づきやすいとは到底言い難い。が、驚いたことに午前11時の回もほぼ満員になり、そして途中退席者もほぼ見られなかった。観客は(特に映画マニアというのではない)ごく一般の市民、なかでも学生が圧倒的に多いが中年以上の人々の姿も散見した。チーフ・プログラマーで日本語も堪能なチョン・スーワン氏(今回を最後に勇退)によると、ポリシーを終始貫いてきたから観客も育ってくれた、とのこと。芯のあるプログラミングを継続することの重要性を認識させられる。その一方で家族向け・子ども向け作品ももちろん提供している。特に国民の祝日・子どもの日(日本同様、55日)にはそれに合わせたプログラムを用意、屋外上映にいたっては無料である。


映画祭ポスター
中央は今年のチョンジュ映画祭広報大使、
ソン・ジュンギとパク・シネ



シネマストリートにあるゲストサービス施設
非常に助かる・・

 映画祭開会式・閉会式には会場のソリ文化センター前にレッド・カーペットが敷かれ、韓国メディアも予想以上に詰めかけた。開会式の式典中、司会者や登壇者は口々に海軍哨戒艦「天安」の犠牲者への哀悼の意を示し、祝祭モードも抑えた中でのスタートとなった。韓国の若者に騒がれるアイドルたちの姿は多くはなかったものの、国内外に韓国映画界の重鎮として知られる監督・俳優が多数出席した(アン・ソンギ氏、イム・グォンテク監督など)。開会式・閉会式ともに韓国芸能のパフォーマンスが盛り込まれ、外国人にはうれしいサービスであった。
 限りなく市民参加型の映画祭である。プレスセンターに隣り合わせた場所に市民の集えるスペースを開放、そこでは休憩も取れる上に映画祭へのコメントが自由に書けるボードなど(お茶やお菓子まで)が備えられている。市民の移動向けに市内各所とシネマストリートを結ぶシャトルバスも映画祭期間中頻繁に運行(われわれゲストはそれとは別のシャトルがホテルとの間で稼働)。開会式・閉会式後のパーティは誰もが参加可能で、市民が楽しめるようにとの配慮が随所に感じられる。複数の上映会場やプレスセンター、JIFFスクエア(イベント会場)が集中するシネマストリートと呼ばれる通りとその周辺の賑わいはたいへんなもの。ストリートパフォーマンスが行われたり、フリーマーケットが開かれたりと活気に溢れている。映画祭のパスを首にかけてお店に入ったりすると気軽に声を掛けてくれ、またパスを提示すると割引になる店もある。町全体で映画祭をサポートしている空気が漂っており、フレンドリーで気持ちが良い。今年から設置しているというゲスト向けのJIFF ビジターラウンジ(休憩所。コーヒーなどソフトドリンクも提供される)もありがたい。300人を超すボランティア(ほとんどが大学生)も皆、親切でなかなか優秀。彼ら自身も映画祭への参加を楽しんでいることがうかがえる。温かく活気ある雰囲気の中、海外からのゲスト同士も気軽に交流を深めていた。




メイン会場、メガボックス前で並ぶ若者たち

上映作品
 今年は世界48カ国の長編・短編映画208作品。国際、韓国長編、韓国短編に分けられたコンペティション部門、チョンジュ映画祭が製作を支援した国内外短編映画を上映するJIFFプロジェクト、一般映画館ではなかなか見る機会のない実験的作品を集めたストレンジャー・ザン・シネマ、同時代の世界の映画の流れを見せるシネマスケープ、新しい映画美学を提示する作品を集めたフォーカスなどで構成されている。また前述のとおり、子どもやファミリー向けの大衆的な作品を適宜プログラミングすることで、さらに客層を広げることに成功している。
 子ども・ファミリー向け部門以外は作家性を重んじた粒揃いの作品群で見応えがあるが、あえて言うなら国際コンペティション部門のラインナップがやや弱い。長編第1、2作目の監督の作品のみ、等の条件が作品選定を難しくさせているのだろうか。
 チョンジュ映画祭独自の企画として毎年特に注目を集めているのは『デジタル33色』部門である。チョンジュ映画祭側で選定した3人の監督に同映画祭でのプレミア上映を前提に、5000万ウォンの制作費を提供し、それぞれ30分のデジタル映画の製作を依頼するプログラムで、今年はJames Benning(米国)Denis Cote(カナダ)Matias Pinneiro(アルゼンチン)3人が手掛けた。日本からは過去に諏訪敦彦・青山真治・塚本晋也・石井聰亙・河瀬直美監督らが参加している。このプログラムで制作された作品は個性あふれる秀作が多いことから、チョンジュで上映後に他の映画祭に招待されることも少なくない。


日本映画
 日本映画の人気は非常に高いという。隣国という利点もあり、例年上映作品のある監督のほとんどが来韓し、その反応の熱さと歓迎ぶりに感激し再訪を望む監督も多いそうだ。韓国の観客(特に若者)の日本文化への関心と愛着をうかがえる質問が多い(日本語で質問をする観客もいる)。日本映画に限らず質疑応答にはかなり時間を取っているのだが、終了後にも監督を囲んでさらに話が盛り上がっている光景も何度も目にした。


マスタークラス
 映画祭期間中に開催される数々の教育的プログラムの中でも特筆すべきは『マスタークラス』であろう。毎年ひとつの職種に絞り、その分野の専門家が講師となり講義形式で進める。今年は‘監督’に焦点を当て、地元韓国のポン・ジュノ監督とポルトガルのペドロ・コスタ監督が講師を務めた。両監督ともに世界の主要映画祭での出品・受賞の多い、映画界も注目する監督であり、またどちらもチョンジュ映画祭とは縁が深い。専門知識豊富なモデレーターとともに自作の抜粋の上映後、それらの作品について分析、制作秘話など興味深い話も次々に披露、質疑応答にも熱く、積極的に対応した。休憩を挟んで約5時間にも及んだが濃い内容なだけに飽きさせず、満員の聴衆も一様に満足の面持ちであった。両監督ともにこのクラスには入念な準備をしてのぞんだと伝え聞いたが、その真摯な姿勢にも敬意を表したい。





      
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