2007/5/16-27

Grand prix des Amerique
 HASTA LA VISTA (COME AS YOU ARE) by Geoffrey Enthoven
Special Grand-prize of the Jury
 「わが母の記」 原田眞人監督
Best Director  DER BRAND (THE FIRE) by Brigitte Maria Bertele
Best Actress  FATEHMEH MOTAMED-ARYA
   for the film HERE WITHOUT ME by Bahram Tavakoli
Best Actor ex-aequo  BORYS SZYC
   for the film KRET (THE MOLE) by Rafael Lewandowski
 DANNY HUSTON
   for the film PLAYOFF by Eran Riklis
Best Screenplay  L'ART D'AIMER (THE ART OF LOVE) by Emmanuel Mouret
Best Artistic Contribution  TATANKA by Giuseppe Gagliardi
Innovation Award  「アントキノイノチ」 瀬々敬久監督
SHORT FILMS
1st prize
 DANS LE CADRE (IN THE FRAME) by Philippe Lasry
Jury Award  NADIE TIENE LA CULPA (IT'S NOBODY'S FAULT)
   by Esteban Crespo

Golden Zenith for the Best First Fiction Feature Films

 IN OUR NAME by Brian Welsh
Silver Zenith for the First Fiction Feature Film  NORDZEE, TEXAS by Bavo Defurne
Bronze Zenith for the First Fiction Feature Film  AQUI ENTRE NOS (BETWEEN US)
   by Patricia Martinez de Velasco
Special mention of the First Feature Film Jury  UN BAISER PAPILLON (A BUTTERFLY KISS)
   by Karine Silla Perez
*日本からの出品作品はこちらから



イノベージョンアワード受賞の瀬々監督


受賞者たち。右端に原田遊人と樹木希林。

“Japon!” 828日、モントリオール世界映画祭のクロージングセレモニーが開かれていたメゾヌーブ劇場では、2度「日本だ!」という声が客席に響いた。
コンペティション部門に出品された2つの日本映画が両方とも受賞したのだ。
さだまさしの小説を原作に瀬々敬久監督がメガホンをとった『アントキノイノチ』が受賞したイノベーションアワードは、2003年から設置された比較的新しい賞で、革新的で質の高い作品に贈られる。(過去には日本映画では『風音』(東陽一監督, 2004年)が受賞。)『アントキノイノチ』は遺品整理業という仕事を通して出会った若い男女が自分を見つめ直して心の傷を乗り越えるさまを描いた作品。なお、ベネチア国際映画祭で新人俳優賞のマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した染谷将太もこの作品で主人公に大きな影響を与える友人役を演じている。
グランプリに次ぐ「審査員特別グランプリ」を受賞した『わが母の記』は原田眞人監督が井上靖の自伝的小説を丹念に、そしてオリジナリティを加えて映画化した作品。年老いた母と向かい合う初老の小説家を通して、家族や老い、人生について見る者に強く訴えかける作品だ。京都でこの映画の関連ドラマを撮影中の原田監督に代わって映画祭に参加した長男の原田遊人(記録を担当)と主演の樹木希林がトロフィーを受け取った。
そして今年のコンペ部門には、日本に関連した作品がもうひとつ選ばれていた。ブラジル映画Dirty Hearts (原題:CORACOES SUJOS, ヴィセンテ・アモリン監督)だ。第二次大戦終戦直後のブラジルを舞台に、敗戦を受け入れられなかった日系移民が引き起こす悲劇を描いた作品で、史実をもとに書かれ2003年にブラジルでベストセラーになった小説が原作。ブラジル政府に協力する者や日本の敗戦を認める日系人を裏切り者=「国賊」として処刑する役目を負わされる男を伊原剛志が演じ、彼に殺人を命じる軍人に奥田瑛二が扮している。モントリオール世界映画祭では最終日に観客数を指針に好評だった作品が再上映されるが、日本関連作の中では、映画祭前半に上映が終了したこのDirty Heartsと『アントキノイノチ』が選ばれた。その他にも、短編のコンペ部門にアニメーション『マイブリッジの糸』(山村浩二監督, 日本カナダ合作)が、ドキュメンタリー部門に戸塚ヨットスクールを題材にした『平成ジレンマ』、そしてフォーカス部門では 板尾創路監督第2作目の『月光ノ仮面』、実話をもとにひとつの愛の形を描いた『死にゆく妻との旅路』(塙幸成監督)、『CRAZY-ISM クレイジズム』(窪田将治監督)が上映された。


モントリオール世界映画祭は、コンペ部門のある国際映画製作者連盟公認の映画祭として北米で最大級の規模を誇る。今年で35回目を迎えた。北米フランス語文化圏ケベックの中心都市であるモントリオールは、フランス映画と非常に深いつながりを持っている。今年はカトリーヌ・ドヌーブがクロージングセレモニーに華を添え、「マスタークラス」はクロード・ルルーシュだった。彼の新作2作品も上映された。
地元カナダの作品とフランス、ベルギーなどフランス語作品、ドイツやイタリアの作品も多数出品されており、計72カ国の映画がモントリオールに集まった。


右奥にメゾヌーブ、手前が野外スクリーン。
向う側に画像が映し出される。


『わが母の記』上映の開場を待つ観客。

野外上映会場として、メゾヌーブのある建物と美術館や劇場(ミュージカル『ライオンキング』を上映中)に囲まれている広場には特設の大スクリーンが置かれ、夜には星空の下での映画館となる。無料で映画を見られることもあり、多くの人が楽しんでいた。今年は’Bollywood, Hollywood’と題したインド映画と洋画のプログラムで、ドヌーブの『シェルブールの雨傘』も上映されていた。

そのメゾヌーブや広場と、通りをはさんで向かい側にあるのが、ショッピングモールやホテルが収まった複合施設で、映画祭期間中は、この建物の中にゲストの対応をする受付やプレスルーム、ゲスト同士の交流スペースやビデオライブラリーが設けられる。ゲストのほとんどがこの施設の上層階にあるホテルに泊まるので、非常に効率的だ。プレスコンファレンスも同じ施設内で行われ、報道関係者やIDパス所有者に限らず、誰でも自由に会見に参加することができる。ショッピングモールの地上階の吹き抜け部分を利用して会見をする年もあるが、今年は6Fのプレスルームの隣室が会見場になっていた。27日に行われた『わが母の記』の会見では、地元カナダに滞在中と思われる日本人も多数来場して、席はほぼ満員。大学に留学中の学生やワーキングホリデーを利用して滞在している日本人もいるのか、若い世代も見うけられた。地元ケベック人で長年映画祭に参加している方の話では、世界各国から集まっている移民や滞在者は自分たちの国の映画を心待ちにしていて、毎年この時期は文字通り映画を通してのお祭りになるのだそうだ。そして今年は特に、日本映画に日系の観客が集まったとのこと。
記者会見が一般の映画ファンにも開かれていることは、この映画祭のオープンな特色だ。映画を見た観客が「観客賞」に投票できるのは他の映画祭でも行われていることだが、ここモントリオールではコンペ部門の審査員の内ひとりが、公募によって選ばれた観客代表である。

映画祭会場となっているこの地区を文化地域として再開発する工事が数年前から行われており、メゾヌーブの表玄関が増築され、建物前の聖カトリーヌ通りが歩行者天国に変わっていた。ここより東側の隣のブロック(上映会場であるシネコン、カルチェラタンの手前の地域)はsexshopの建ち並ぶダウンタウンだが、劇場がいくつか工事中で、完成後はかなり街並みが変化すると思う。

夏の間は、ジャズフェスティバルやモントリオールのもうひとつの映画祭であるファンタジア、舞台劇やコンサートなどいろいろな文化的イベントが行われ、人々は夏を存分に楽しむ。クラシック音楽のコンサートやバレエも頻繁に開催されるが、その中でも様々な国々の映画を楽しめる映画祭は市民からとても愛されている。朝、上映会場がオープンすると、上映回数券を手にして1日分の席を確保する映画ファンを何人も見た。また、市民だけでなくモントリオール近郊やアメリカからも映画好きの観客が集まっている。観客の年齢層が比較的高い所為か、映画を落ち着いて受け止め、理解している観客が多いように感じた。日本との時差が13時間の、昼夜が逆転している国にいる、ということを忘れるほどだった。上映後のQ&Aでの率直な質問、Q&Aが終了すると監督や出演者に握手を求め、上映を祝福する、そんな光景を滞在中ずっと目にした。映画祭上映は、映画の作り手と観客が映画完成後ほぼ初めて出会う場であり、制作者・出演者と見る側がお互いに生の声を聞く貴重な機会だと思う。モントリオールの観客に接して、映画祭本来の大切な意味を再認識した。







      
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