金豹賞
 PRIVATE by Saverio Costanzo (Italy)
審査員特別賞
 「トニー滝谷」 市川準監督
銀豹賞
 EN GARDE by Ayse Polat (Germany)
 新人監督賞
  
DASTAN NATAMAM (STORY UNDONE)
   by Hassan Yektapanah (Iran, Ireland, Singapore)
 最優秀女優賞
  
Maria Kwiatws “Pianr Erincin” (EN GARDE)
 最優秀男優賞
   
Mohammad Bakri “PRIVATE”
国際批評家連盟賞
 「トニー滝谷」 市川準監督
NETPAC賞
 OKHOTNIK (ハンター)
  by Sedrik Aprymov (Khazakhstan・日本)

*日本からの出品作品はこちらから


概観
 
ミラノ・マルペンサ空港から車で約1時間半(この間国境を越えるため、チェックポイントでのパスポートチェックがある)、山と湖の町ロカルノ。マッジョーレ湖には遊覧船が行き交い、ヴァカンス客が湖畔をのんびりした歩調で散歩する姿があちらこちらで見られる。この落ち着いた山あいの避暑地での国際映画祭も57回目を迎えるのかと思うに改めて軽い驚きを覚える。

 普段はあくまでも静かで、ゆっくりとしたリズムで時が流れているであろうこの街も、映画祭の2週間は様々な国の人々で活気づく。が、そうはいってもやはり参加者の多数を占めるのは近隣のヨーロッパ諸国(フランス、イタリア、イギリス、ドイツなど)からの人々。公式カタログがイタリア語、フランス語、ドイツ語、そして英語の4ヶ国語で書かれていることからも推測できるように、とても「ヨーロッパ」なのである。(ただしユーロはほとんどの店で使えないが)イタリア色が最も強く、スイスの他の地域に較べてこのあたりはジェラートのおいしさは格別だという。
(写真左:黄色いカウンターはゲスト向けの窓口。この広場ではさまざまな情報を入手することができる。)

 典型的な山の天気であるため、突然の雨に見舞われることもたびたびで、すっきり晴れていても鞄に傘をしのばせて正解だというのは、ロカルノ映画祭の常連たちの間では常識である。特に今年のピアッツア・グランデでの上映は受難続きだった。7000人収容のこの野外上映はロカルノ映画祭の名物で25スイスフラン(2250円〜2300円)という決して安くはない入場料にもかかわらず、連日大盛況。心地良い涼しさを感じつつ、満天の星の下での映画鑑賞は夏の年中行事として楽しみにしている地元の人々も多いのであろう。前衛的な作品や社会問題を扱った硬派な作品が多数を占める同映画祭の中で、この部門だけは趣を異にする、というのが従来のイメージであった。くつろいで観られるラブストーリーやコメディ、視覚的にインパクトの強い作品(たとえば日本の「アップルシード」;クロージング作品でもあった)を敢えて選んでいるようで、今年もそれはそれとして踏襲されつつも、少々様子が異なっていた。アメリカの政治を扱った劇映画(「ALL THE PRESINDET’S MEN」)及びドキュメンタリー(「THE HUNTING OF PRESIDENT」)がこの大会場で上映されたのである。この例でも明らかなように、今回のロカルノ映画祭におけるアメリカ政治を題に取った作品の存在感は特筆すべきものがある。シネアスト・ド・プレザント部門の「UNCOVERED:THE WAR IN IRAQ」も政治的メッセージ色の色濃いドキュメンタリーであった。今回のこの傾向は目下ヨーロッパにとってもアメリカの政治状況は大変な注目をもって捉えられているということの表れとも言えるだろう。(5月のカンヌ映画祭でのマイケル・ムーア監督の「華氏911」のセンセーションにも顕著であったが)

 ロカルノの街のシンボル、豹をモチーフにした商品の多様さには相変わらず目を奪われる。(そしてしばらくすると食傷気味になったりもする)毎年映画祭のオフィシャル・ショップに足を運ぶとかなりの割合で新商品が出ているのに気づく。豹柄のライター。豹柄のバッグ。豹柄のスカーフ,ネクタイ、メモ帳、キーホルダー・・。好みかどうかはさておき、ここまで徹底されると見事。

 ロカルノ映画祭を訪れて毎回感じるのは観客のマナーの良さ、上映作品に対する温かい視線とまっすぐな批評精神である。上映が始まると私語はまず止む。席取りのためにカーディガンなり荷物なりを置いて離席しても安心していられる映画祭は世界中にもそうそうはない。オーガニゼーションに関しては毎度の不満がなかなか解消されないのが残念。これも文化の違いなのだろうか・・・。


OPEN DOOR
  映画製作支援を目的にしたワークショップが、OPEN DOORと銘打って今年も催された。諸般の事情から映画製作資金の調達に困難をきたし、かつ国際的な十分なネットワークをもたない諸国・地域の製作者が今後の足がかりとなるような人脈づくりに寄与しようというものである。昨年のキューバから始まったこの催しの今年の対象国は、地理的・文化的に共通するところの多いメコン川沿いの3か国、カンボジア・ヴェトナム・ラオス。この3か国の映画製作者が各プロジェクトごとにプレゼンテーションを行い、活発な意見交換がなされる。また同地域の映画を上映。近隣のタイの映画産業がここ数年飛躍的な発展を遂げているのに対し、国際的にまだまだ影の薄いこの地域へ人々の関心を呼び込む意義深い試みであった。

出品作品
 今年のコンペティション部門には18作品が選出された。そのうち8本が初監督作品、5本が第2作目だとのことである。新たな才能の発見をテーマのひとつに掲げ続けていたロカルノ映画祭の姿勢を強く炙り出していると言えそうだ。その18作品の製作国も17カ国にのぼり、また作品の傾向も以前に較べてヴァラエティに富んだものになっているように思えた。その中で最高賞にあたる金豹賞を受賞したのはSaverio Costanzo監督の「PRIVATE」、(初監督作品)イスラエル占領下に暮らすパレスチナ人家族が直面する不条理を題材にしたドキュ・フィクション。イスラエル・パレスチナ双方の俳優が同作品中で‘共演’しているのも要注目であった。

 Human rights, News Frontといったセクションは社会性、政治的論議を呼びそうな作品が多くを占め、In Progres,Video Competition中には実験精神に富んだ前衛アートと呼べる作品が目立ち、斬新さに満ちている。それらの作品群のどれをとってもいわゆる娯楽映画とは一線を画している。

 映画祭の常連ゲストたちに毎年好評を博しているレトロスペクティブ部門は今年はNEW FRONTと題して(定義が難しいが・・新聞を賑わせた事件を扱ったような作品:ex.「ドレフュス事件」メリウス、「欲望」アントニオーニ、「市民ケーン」オーソン・ウェルズ等々)見応えのある名画プログラムが組まれ、レトロスペクティブ上映館REXは連日多くの名画ファンで賑わっていた。

日本からの出品作品
  市川準監督の「トニー滝谷」がコンペ部門に出品された。村上春樹原作の短編小説の映画化で、75分という尺の中で見事に村上ワールドを体現、プレススクリーニングの時点でもたいへんな好評を博していた。結果、2等賞に相当する審査員特別賞、それに国際批評家連盟賞、ヤングシネマ賞といった3つの賞を獲得。昨年の「女理髪師の恋」(小林政広監督:スペシャルメンション受賞)に続き、日本映画が連続して受賞に絡んだことになる。またシネアスト・ド・プレゼンツ部門に出品された「SURVIVE STYLE5+」の監督・関口現氏、脚本の多田琢氏が映画祭に参加。数多のCM制作で培った鮮烈なビジュアルイメージ、台詞の面白さなどが若者たちで埋め尽くされた会場を大いに沸かせた。作品中に挿入された日本の古いアニメに関する質問なども出て、監督を驚かせた一面もあった。また、NHKが共同制作したカザフスタン映画「ハンター」(監督セリック・アプリモフ)も出品。カザフの大自然を背景に、狩人とオオカミ、人間と動物の世界を一人の少年の成長を通じて描き、NETPAC賞(最も優れたアジア映画に与えられる)を受賞した。
(写真右:前列中央が「SURVIVE STYLE5+」の関口現監督、後列中央は脚本の多田琢氏。映画スタッフ、映画祭スタッフと共に。)



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