日本映画出品作品
 Tiger Awards 
 (コンペティション部門)
 『カクト』 監督:伊勢谷友介
 Main Programme Feature   『浅草キッド』 監督:篠崎誠
 『Dolls』 監督:北野武
 『ばかのハコ船』 監督:山下敦弘 
 『烈火』 監督:三池崇史
 Critics' Choice  『Home』 監督:小林貴裕
 『水の女』 監督:杉森秀則
 [based upon]
 TRUE STORIES
 『少年の匂い』 監督:荒牧亮子
 『団地酒』 監督:大野聡司
 『追憶のダンス』 監督:河瀬直美
 CINEMA REGAINED   『キアロスタミとの一週間』
       監督:茂原雄二

* その他、短編、実験映画、ビデオ作品多数出品


 今年で32回目を迎える、ロッテルダム国際映画祭。主に若手監督やインディペンデント映画に焦点をあてることで、新しい才能の発掘の場として今やすっかり定着している。また、映画監督・製作者らが企画を持ち込むCine Martも合わせて設けられており、新しいものに挑戦しようとする意欲に溢れる人々で賑わう映画祭だ。

〔概観〕
 30カ国以上から長編、短編、ビデオ作品等、600本以上もの作品が集められ、6会場・計18スクリーンで11日間に渡って上映された。

 映画祭事務局とメインのチケット売場が置かれたDe Dolenは、本来はコンサートホールとして使用されている建物であるが、このときばかりは映画祭の観客・ゲストたちで溢れかえる。ここでは当日券を目当てに、発売開始の朝9時前から多くの人が列を作って並ぶ。雪も舞う寒空の中、外で待つのである。(ポットで温かいコーヒーを売る、ちゃっかり者が現れた日も…。)ただ、この列にはあまり秩序が無く、ドアが開いた途端に人々が殺到し、小競り合いが起こることもあった。こういう場にも警備員を配置するべきだろう。

 上映会場はすべて徒歩圏内にあり、移動は比較的便利である。チケットを買うために朝から並ぶのだから、入場するのにも長い列ができるのだろうと思っていたところ、上映開始直前まで席は埋まらない。オランダの人々は、席取りには情熱を傾けないのかもしれない。
 劇場に入場する際、入り口で5点満点の採点表を配られる。観客はその点数の部分をちぎり、あとは帰りに係員に手渡すだけなので、とても気軽に参加することができる。この集計結果は、翌日には会場内の掲示板や、毎日発行される"DAILY TIGER"の紙面で発表される。この"DAILY TIGER"では上位25〜30位くらいまでの作品しか掲載されないのだが、掲示板ではすべての集計結果が発表されるので、そのシビアともいえる観客の採点を眺めるのはなかなか興味深い。
 *今年の観客賞は"Whale Rider"(監督:ニキ・カロ、ニュージーランド/ドイツ)が受賞。
(写真:De Dolenの入口)

〔部門と作品の傾向〕
 このロッテルダム映画祭の特色のひとつは、数多くのアジア映画を紹介していることであろう。映画祭ディレクターは毎年、作品選定のために日本を訪れており、日本映画も今年は長編作品が11本、その他にも短編作品などが多数上映された。オランダの人々は寛容に、興味を持ってアジア映画を受け入れている印象を受けた。 

 コンペティション部門であるタイガー・アワードには、14作品がエントリーされた。このタイガー・アワードは、監督第1作、もしくは第2作目を対象としており、若手監督の発掘の場となっている。この中から毎年3作品にタイガー・アワードが贈られる。
  日本からは伊勢谷友介監督の「カクト」が出品された。惜しくも受賞には至らなかったが、伊勢谷監督が積極的に、そして楽しそうに映画祭に参加している様子は、とても印象的だった。この部門は、世界中から集まった映画関係者と交流を深める機会が多くあるという面においても、若手監督たちにとって貴重な経験となるに違いない。

 また、フーベルト・バルズ・ファンド(Hubert Bals Fund)という、途上国が制作した映画に対する助成金の制度も併設されている。上記のタイガー・アワードを受賞した作品のひとつ、"Strange"(アルゼンチン)もこの助成金を得ている。ロッテルダム映画祭は、新しい才能を発掘するだけでなく、映画を作るチャンスを与える場でもあるのだ。これは大変意義深いことである。
(写真:会場のひとつ、Patheの中)


 観客の年齢層が思っていたよりも高かったせいもあり、全体的に落ち着いた雰囲気の映画祭であるという印象を受けた。これは、盛り上がっていない、という意味ではない。ホスピタリティも行き届き、上映施設もとても充実している。そして何より、観客・ゲストたちが映画祭を楽しんでいるのがよく伝わってきた。おそらくこの落ち着きは、32年という歴史の中で独自性を打ち出し、また、映画祭を愛する市民によって支えられてきたことにより、映画祭として、ひとつのスタイルが完成されたことの表れではないのだろうか。

 ロッテルダム映画祭が、その基盤を確固たるものにしつつ、新しい試みを行なっていくことを、今後も楽しみにしたい。


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