公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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パノラマ

続・シナリオを書いてみませんか? その5  2012年10月31日掲載

 
 

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●感動を呼ぶシナリオ(1)



「信・望・愛」の精神は、
シナリオ作りの基礎となります。

 20枚シナリオでも読む人に感動を与えることは出来ます。というより感動を与えられなければ、書く意味がありません。では、どうしたら感動を与えられるようなシナリオが書けるのでしょう。

 田園調布のカトリック教会の天井には、「信・望・愛」という言葉が刻まれています。この三つの感情が人々の心に響き、キリスト教が育ってきたのです。その意味は、神を信じ、神に希望を持ち、神を愛しましょうということです。しかし、シナリオを書く場合には、他人を信じ、希望を持ち、他人を愛そうと置き換えたいのです。ドラマは宗教行事の一つとして発達してきたのですから、そのことを思うと、この三つの感情はドラマの基礎となるシナリオ作りの上でも、充分役に立つものと考えます。自分がどんなに危害を加えられても、その相手を信じる。自分が描いた夢を求めて、希望を捨てずに頑張る。自分の犠牲を払っても他人を愛し助ける。主人公がそんな姿をみせると、観客は感動します。その反対の不信、絶望、嫌悪もシナリオの材料としては役に立ちます。「あべこべ」の論理からすると、不信、絶望、嫌悪の感情を持った主人公が、最後に信、望、愛の精神に立ち返れば、感動のシナリオになるのです。

 昭和40年代、私は6本の「青春学園ドラマ」を、東宝の名監督千葉泰樹氏に監修をお願いして制作しました。千葉監督は私のシナリオ作りの先生です。その千葉監督が、シナリオ作りに際して、常に言っておられたことが、「無償の行為」と言う言葉でした。人々は損得勘定をして、利益にならないことは一切したがらないという世の中で、一銭にもならないことに全力を尽くす人の姿は美しく、感動を呼ぶというのです。このような行為を「無償の行為」と呼んで、監督や脚本家に説いておられました。この考え方も、前述の「信・望・愛」の考え方と通じるものがあります。 (次のページへ)


 

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