公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇パリシネマ映画祭 2010/7/3-13
  Festival Paris Cinema


受賞結果
Jury Prize
(審査員賞)
 Dooman River  by Zhang Lu (韓国・フランス)
udience Prize
(観客賞)
  Cleveland vs Wall Street 
 by Jean-Stephane Bron (スイス・フランス)
Student Prize
(学生審査員賞)
 Dooman River  by Zhang Lu
Blogger Prize
(ブロガー賞)
 The Runner  by Benjamin Heisenberg  (ドイツ・オーストリア)

■日本からの出品作品■

Inedits du Japon
/New Cinema From Japan
  「怪奇十三夜 第6回 おんな怨霊舟」(1971) 石井輝男監督
  「怪奇十三夜 第9回 怪猫美女屋敷」(1971) 石川義寛監督
  「ツィゴイネルワイゼン」(1980) 鈴木清順監督
  「魚影の群れ』(1983)、「台風クラブ」(1985) 相米慎二監督
  「痴漢主婦の白い指先」(1994) サトウトシキ監督
  「2/デュオ」(1997) 諏訪敦彦監督
  「マインド・ゲーム」(2004) 湯浅政明監督
  「花井さちこの華麗な生涯」(2005) 女池充監督
  「楳図かずお恐怖劇場 蟲たちの家」(2005) 黒沢清監督
  「ざくろ屋敷 バルザック『人間椅子』より」(2006) 深田晃司監督
  「花よりもなほ」(2006) 是枝裕和監督
  「劇場版 空の境界」(2007) あおきえい監督
  「遭難フリーター」(2007) 岩淵弘樹監督
  「片腕マシンガール」(2007) 井口昇監督
  「サッドヴァケイション」(2007) 青山真治監督
  「ぐるりのこと。」(2008) 橋口亮輔監督
  「東京人間喜劇」(2008) 深田晃司監督
  「ライブテープ」(2009) 松江哲明監督
  「しんぼる」(2009) 松本人志監督
  「君と歩こう」(2009) 石井裕也監督
  「アジアの純真」(2009) 片嶋一貴監督
  「おとうと」(2010) 山田洋次監督
  「永遠に君を愛す」(2010) 濱口竜介監督
  「ピュ〜ぴる 2001-2008」(2010) 松永大司監督
  「ソラニン」(2010) 三木孝浩監督
  「鉄男 THE BULLET MAN」(2010) 塚本晋也監督
若松孝二特集   6本の監督作品の上映とマスタークラスの開講、
  および、2本の参考作品の上映

  「壁の中の秘事」(1965) 「胎児が密猟する時」(1966) 
  「犯された白衣」 (1967) 「ゆけゆけ二度目の処女」(1969)
  「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)」(2007)
  「キャタピラー」(2010) 若松孝二監督  
  「愛のコリーダ」(1976) 大島渚監督
  “Il etait une fois… L’Empire des sens”(2010) 
                   David Thompson監督
寺島しのぶ特集   「ヴァイブレータ」(2003) 廣木隆一監督
  「キャタピラー」(2010) 若松孝二監督
菊地凛子特集   「空の穴」(2001/日) 熊切和嘉監督
  「バベル」(2006/米) アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督
  「ブラザーズ・ブルーム」(2008/米) ライアン・ジョンソン監督
  「マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トウキョー」(2009/西) 
                        イザベル・コイシェ監督
山中貞雄特集   「丹下左膳余話 百萬両の壺」(1935) 「河内山宗俊」(1936) 
  「人情紙風船」(1937)
    「パラパラ漫画アニメ」
黒澤明生誕
100周年記念特集
  「續姿三四郎」(1945) 「野良犬」(1949) 「醜聞」(1950) 「羅生門」(1950)
  「生きる」(1952) 「七人の侍」(1954)  「隠し砦の三悪人」(1958)
  「用心棒」(1961) 「椿三十郎」(1962) 「天国と地獄」(1963) 「赤ひげ」(1965)
  「どですかでん」(1970)  「影武者」(1980) 「八月の狂詩曲」(1991)

  「荒野の七人」(1960) ジョン・スタージェス監督
  「対談 北野武 VS 黒澤明」(1993)
「外国人監督が見た日本」特集   「ハラキリ」(1919/独) フリッツ・ラング監督
  「東京・竹の家」(1955/米) サミュエル・フラー監督
  「忘れえぬ慕情」(1957/仏・日) イヴ・シャンピ監督
  「二十四時間の情事」(1959/仏・日) アラン・レネ監督
  “Rififi a Tokyo”(1963/仏・伊) Jacques Deray監督
  「不思議なクミコ」(1966/仏) クリス・マルケル監督
  “Kashima Paradise”(1973/仏) 監督/Benie Deswarte、Yann Le Masson
  「東京画」(1985/西独・米) ヴィム・ヴェンダース監督
  「書かれた顔」(1995/スイス・日) ダニエル・シュミット監督
  「TOKYO EYES」(1998/仏・日) ジャン=ピエール・リモザン監督
  “Fish Never Sleep”(2002/英) Gaelle Denis監督
  「珈琲時光」(2003/日) 候孝賢監督
  「ロスト・イン・トランスレーション」(2003/米) ソフィア・コッポラ監督
  “Papillon d’amour”(2003/ベルギー)  Nicolas Provost監督
  「畏れ慄いて」(2003/仏・日) アラン・コルノー監督
  「血と骨」(2004/日) 崔洋一監督
  「KAMATAKI-窯焚-」(2005/カナダ・日) クロード・ガニオン監督
  「パッセンジャー」(2005/仏・カナダ・日) Francois Rotger監督
  「太陽」(2005/ロシア・伊・スイス・仏) アレクサンドル・ソクーロフ監督
  「硫黄島からの手紙」(2006/米) クリント・イーストウッド監督
  “Young Yakuza”(2007/仏・米) ジャン=ピエール・リモザン監督
  「日本の時」(2008/仏) ジャン=シャルル・フィトゥーシ監督
  「TOKYO!」(2008/仏・日・独・韓)
     監督/レオス・カラックス、ミシェル・ゴンドリー、ポン・ジュノ
  “L’Autre Cote”(2009/仏) Yann Dedet監督 
  “Retour a l’Hijigawa”(2009/仏) Yann Dedet監督
  “Six”(2009/日・仏) 監督/Guillaume Giovanetti、Cagla Zencirci
  “Je suis japonais”(2010/仏) Mathias Gokalp監督
  “Films des operateurs Lumiere au Japon”(2010?/仏)
     監督/Constant Girel、Tsunekichi Shibata、Gabriel Veyre
ジャパニーズ・
ゴースト・ストーリー
  「回路」(2000) 黒沢清監督
  「仄暗い水の底から」(2001) 中田秀夫監督
  「着信アリ」(2004) 三池崇史監督
児童映画上映   4本の長編映画の上映と折り紙教室
  「大怪獣ガメラ」(1965) 湯浅憲明監督
  「コドモのコドモ」(2008) 萩生田宏治監督
  「マイマイ新子と千年の魔法」(2009) 片渕須直監督
  「こまねこのクリスマス〜迷子になったプレゼント〜」とその他の短編
     監督/合田経郎、山村浩二
短編映画特集   「彼女と彼女の猫」(1999) 新海誠監督
  「MAMI」(2000) 大山慶監督
  「京マチコの夜」(2005) 冨永昌敬監督
   “Wish you were here”(2005) 青山真治監督
  「ゆきちゃん」(2006) 大山慶監督
  「秒速5センチメートル」(2007) 新海誠監督
  「HAND SOAP」(2008) 大山慶監督
  「つみきのいえ」(2008) 加藤久仁生監督
  「地獄先生」(2009) 冨永昌敬監督
  「DOWN」(2010) 青山真治監督
  「Shikasha」(2010) 平林勇監督
ONE PIECE ナイト   「ONE PIECE呪われた聖剣」(2004) 竹之内和久監督
  「ONE PIECEオマツリ男爵と秘密の島」(2005) 細田守監督
  「ONE PIECEカラクリ城のメカ巨兵」(2006) 宇田綱之介監督
  「ONE PIECE エピソードオブアラバスタ
     砂漠の王女と海賊たち」(2007) 今村隆寛監督
  「ONE PIECEエピソードオブチョッパー
     +冬に咲く、奇跡の桜」(2008) 清水淳児監督
(『』内は英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

◆概観◆

メイン会場のMK2ビブリオテーク

 もともと文化的イベントが溢れている首都での映画祭開催は難しい。多くの映画館・文化施設を擁し、毎日がミニ映画祭の様相を呈している映画の都・パリであればなおさらである。そんな中、映画祭・パリシネマはパリ市の全面的な協力の下、今年で8回目を迎え、パリの夏の映画イベントとして定着したと言ってよい。飾らない雰囲気のもと、良作をパリ市民に提供することを目的としており、カンヌやベルリン等、他の映画祭ですでに上映された作品も積極的に紹介している。メイン会場は13区にあるお洒落で最新式上映施設を完備したシネマコンプレックス、MK2ビブリオテーク(以下、MK2と表記)。建物前の広々とした空間も解放感溢れ、気持ちが良い上にDVDショップやカフェ、レストランも充実している。映画祭主催のパーティはほとんどMK2内のレストランもしくはカフェで行われた。その他、市内12箇所の映画館も会場として使用された。MK2のある地域はパリ市中心部とは言い難いが、国立図書館に隣接し、シネマテーク・フランセーズからは徒歩圏内という文化的な環境に位置し、市中心部からのアクセスも良好。落ち着いてゆっくりと映画を鑑賞する気分になれる。1作品5ユーロ、パス(見放題)は30ユーロという価格も映画鑑賞代が高騰するパリにあって良心的だとのことである。

 国際コンペティション部門を設けているが、フレキシブルな選定のため、各地の映画祭で好評を博した作品も少なくはなかった。いわゆる国際審査員と並んで、学生や‘ブロガー’審査員による賞をそれぞれ設けているのも新鮮である。実務レベルでの責任者とは別に、映画祭の代表を女優シャーロット・ランプリング(イギリス人だが、フランス在住、フランス映画においても活躍中)が務め、映画祭の主だったシーンに登場。貫禄の存在感と落ち着きの中にも華のある「映画祭の顔」としての役割をしっかりとこなしていた。毎回、豪華ゲストが多数来訪するのもパリシネマの特徴とのことである。今回はコンペティション部門の審査員・エリア・スレイマン、特集上映も組まれたジェーン・フォンダ、M・ナイト・シャマラン、ルイ・ガレル(俳優。フィリップ・ガレル監督の息子)、そしてウッディ・アレン、ティルダ・スウィントン、イザベル・ユペール等の参加が話題となった。また市民をターゲットにしている映画祭だけあって、市民が楽しんで参加できる企画も盛り沢山。市中心部のフォーラム・デ・イマージュにて行われた週末のオールナイト上映、MK2前広場でのフリーマーケット(ポスターや古い映画雑誌など、映画関係アイテムを売買する)や、市内ツアー、クロージング日のカラオケイベントなど、魅力的な内容で‘市民目線の映画祭’を印象づけていた。


◆日本映画大特集◆

日本映画特集記念レセプションにて
 
MK2内のブックショップに並ぶ
日本映画関連書籍

 今年のパリシネマにおいて特筆すべきはなんといっても日本映画の大特集である。パリシネマではここ数年にわたって、毎年ひとつの国にフォーカスを当てた特集上映を組んできたが(*過去の‘特集国’はブラジル、レバノン、フィリピン、トルコ)、今回が最も規模の大きいものであったとのことである。古典から最新のアニメーションまで非常に多岐にわたるジャンルで構成されたプログラム(ちなみに‘特集国が「日本」’であって、必ずしも「日本映画」ではないので「外国人監督が見た日本」も特集の一角を成しており、なかなか面白いアクセントとなっていた)となっており、本数にして100本以上。特集に関わったパリシネマの人々が日本映画の多様性を再認識した、と語っていたのも納得である。シネマテーク・フランセーズやパリ日本文化会館とのコラボレーションも効を奏し、前者での黒澤明監督生誕100周年記念特集上映と連携、後者では山中貞夫特集を識者の解説付きで上映、日本のクラシック作品を堪能したい層に向けてアピール。また同時に若者層をターゲットにアニメーションにも力を入れ、特にフランスでも絶大な支持を受けている『ワンピース』のオールナイト上映は大成功をおさめた。
 この日本特集に伴い多数の日本からのゲストが参加し、作品の紹介、質疑応答、フランスのメディアのインタビュー等に積極的に応じた。なかでもインディペンデント系の若手監督の参加が多く、宿泊ホテルもほぼ皆一緒だったことから親しげに交流する姿が見られた。日本映画特集を記念したレセプションではパリシネマ側の代表者、日仏の映画関係者及びフランス在住の日本人などで賑わい、日本酒の樽開きも行われた。ちなみにメイン会場MK2内に併設されているCD/DVD/ブックショップにはこの日本特集に呼応したのであろうか、日本映画のDVD等が目立つ場所に位置していた。
 そして今回、特集上映も組まれた若松孝二監督の存在感は圧倒的であった。同監督の監督作品・プロデュース作品のオールナイト上映、トークイベント、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』上映後に行われた質疑応答、すべて大盛況であったという。また同監督と主演女優・寺島しのぶ氏を迎えての『キャタピラー』上映及び質疑応答は特別の雰囲気の中で繰り広げられ、『キャタピラー』のフランス公開(*すでに決定)に向けても絶好のプロモーションとなったといえる。今後もフランスでは若松監督関係の特集企画があると伝え聞いており、フランスにおける‘若松熱’は高まり続けている。
 日本人俳優としては寺島しのぶ氏、菊池凛子氏の特集プログラムが設けられた。どちらも国際的な活躍が期待できる実力派で、フランス(及び海外)の映画関係者からの注目も高い。この特集がパリの市民の人々にもその魅力と実力を知らしめる機会となったことを望みたい。


◆パリ・プロジェクト◆

 パリシネマを特徴づけているのが企画プロジェクト・マーケット、「パリ・プロジェクト」である。香港のHAF、ロッテルダムのシネマート、カンヌのシネフォンダシオン等、各地の新人育成・制作助成団体と密接な連携を築き、インディペンデント映画の製作支援に積極的に取り組んでいる。今回はパリ・プロジェクト・ミーティング(制作中の作品に関するミーティング)、パリ・プロジェクト・スクリーニング(ポスト・プロダクション中の作品の上映会)、韓国のKOFICと提携した韓国プロデューサー・イン・パリを柱にMK2及び国立図書館において7月5日から7日の3日間にわたって繰り広げられた。識者を招いてのセミナー、パネルディスカッション等の企画も充実の内容。企画に興味を示す出資者等との個別ミーティングがセッティングされるパリ・プロジェクト・ミーティングでは14のプロジェクトが選出された中で、日本関係は一本。過去のパリ・プロジェクト参加作品と同様に、世界にはばたく作品となってくれることを期待したい。





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