公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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パノラマ

シナリオを書いてみませんか? その4  2012年9月11日掲載

 
 

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●「セリフ」について(1)



初めてシナリオを書く場合には
共通のルールに従いましょう!

 シナリオは、それだけで完結するものでなく、監督をはじめ多くのスタッフに読んでもらい、理解してもらう必要があるので、ある程度の共通のルールを守らなければなりません。最近はそんなルールは意味がないという人もいますが、初めてシナリオを書く場合には、このルールに従って欲しいと思います。先ず、誰のセリフかを示すために、男性の場合は苗字を書き、女性の場合は名前で書きます。また、ト書きは少し行の頭を下げて書きますが、セリフは行の頭から名前を書き、続いてセリフを括弧で囲むことになっています。一つ一つのセリフはどんなに短くても終わったら行を代えます。相手に何か言われて、それに言葉を発することなく対応する場合も、「・・・」と言う形で表現します。これだけのルールは守ってもらいたいのです。

 セリフは日常会話で使われるものを使って欲しいと思います。説明的であったり、文字に書かれた文章のようなものではいけません。脚本家で、自分の書いたセリフを役者になったつもりで、大きな声を出して読み上げてみる人もいます。そうすることによって生きたセリフかどうかを判断するのです。

 セリフは単に意思を伝えるだけでなく、その意思の裏にどういう感情が潜んでいるかも分からせなければなりません。同じことを言うのにも、怒って言う場合、笑いながら言う場合では違ったセリフになります。若い人と老人とでも、一つの出来事に対する反応の速度や理解力が違うのですから、当然セリフも違ってきます。くたびれているとき、元気なとき、相手に対して特殊な感情をもっているとき、それぞれ違ったセリフになるはずです。逆に、その違いを明確にすれば、親子であったり、兄弟であったり、恋人であったりする設定をト書きなどに書かずに、セリフで分からせることもできます。ある有名な脚本家から「俺のセリフには二つ以上の意味を持たせてあるからよく読んでくれ」と言われたことがあります。確かに、一つ一つのセリフに違う意味合いを持たせると、そのセリフがドラマの中で輝きを放ちます。

 私は、シナリオの良し悪しを決めるのはストーリーではなく、登場人物が本物の人間であるかどうかであると思っています。そのためには、どういうセリフを喋らせて、その人物のキャラクターを表現するかが重要なポイントとなってくるのです。「太陽にほえろ!」を制作していたとき、刑事が聞き込みに行くシーンで、どうしてもシナリオで設定されている刑事のスケジュールが合わないときがありました。そのとき、メインライターの小川英氏は、そのシーンを全部書き直してくれました。聞き込みに行く刑事が代われば、その刑事のキャラクターによって、当然その聞き方も、聞きに往く場所も変わると言うのです。これほどの神経を使って書かれたシナリオだから、番組もヒットしたのでしょう。 (次のページへ)


 

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