公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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パノラマ

シナリオを書いてみませんか? その5  2012年9月19日掲載

 
 

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●あなたの書きたいことはなんですか?(1)



「伝えたいもの」がシナリオを
面白くもつまらなくもします。

 シナリオを書く前に、自分は何を書きたいのかを考えて3行位の文章にまとめてみる必要があります。私が番組を作っているとき、よく若い脚本家からシナリオを持ち込まれました。「Aさんの過去はこうこうで、Bさんの過去はこうこう、そのAさんとBさんがどうしてこうして・・・」とややこしいストーリーだけを書いてくる人がいました。プロデューサーとして、これではとても採用できません。「あなたは、このストーリーを通じて何が言いたいのですか?」と問いかけました。それがなくては視聴者を感動させることはできないからです。その書きたいことを表現するのに、何もセリフでくどくど書く必要はありません。ただ全体で何かを感じさせるものがあればいいのです。ストーリーなどは、私どもプロデューサーでも幾らでも考えつきます。しかし、このシナリオで何を伝えたいかは脚本家本人にしか書けません。そして、この「伝えたいもの」こそがシナリオを面白くもつまらなくもするのです。

 シナリオは自分の描きたいことを読む人に正確に分からせ、意外性とか、感動をもって受け入れてもらわなければなりません。私は「シナリオは幾何学と同じだ」と考えています。幾何学を学ぶと、初歩の段階で「正三角形の面積を求める」という命題を学びます。学校では、面積を求められた三角形を二つ重ねた形の矩形を作り、その面積を出して、それを再び2で割れば求められた三角形の面積になると教えられました。この「正三角形の面積を求める」というのが「書きたいこと」であり、「三角形を二つ重ねて矩形にして計算する」という解決への過程を書くのがシナリオの文面なのです。

 20枚シナリオにも、何かひとつ、今まで誰も考えつかなかった新しい命題を提示しなければなりません。そして、その命題をシナリオという形で証明するのです。とはいえ、そんな素晴らしい命題やその解決方法がそうすぐに見つかるはずはありません。そこにはカンニングに等しいテクニックが必要になります。それは既にだれかが考え出した命題解決の方法を逆さまにして構築し直すのです。そうすると全く新しい作品に仕上がります。主人公を男から女に変えるとか、成功した恋を失恋話にするとか、主人公の性格をがらりと変えるとか、立場を変えればまた新しい作品になるものです。「太陽にほえろ!」で次々に主役の若手刑事を替えていきましたが、すると同じような事件をあつかっても、全く違う作品となりました。 (次のページへ)


 

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