公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇ロカルノ国際映画祭 2010/2/11-21
  Festival Internazionale del film Locarno


受賞結果
金豹賞  HAN JIA (Winter Vacation) by LI Hongqi, China
審査員賞  MORGEN by Marian Crisan, France/Romania/Hungary
最優秀監督賞  Denis Cote for CURLING, Canada
最優秀女優賞  Jasna Duricic in White White World
        by Oleg Novkovic, Serbia/Germany/Sweden
最優秀男優賞  Emmanuel Bilodeau in CURLING by Denis Cote, Canada
新進監督コンペ部門
CONCORSO CINEASTI DEL
PRESENTE
 [審査員賞] FOREIGN PARTS
    by Verena Paravel and JP Sniadecki, USA/France
短編部門
PARDI DI DOMANI
 [最優秀短編賞] A HISTORY OF MUTUAL RESPECT
      by Gabriel Abrantes and Daniel Schmidt, Portugal
観客賞  THE HUMAN RESOURCES MANAGER by Eran Riklis,
                   Israel/Germany/France
新人監督賞  FOREIGN PARTS by Verena Paravel and JP Sniadecki
,                    USA/France
VARIETYピアッツァ・グランデ賞  RARE EXPORTS: A CHRISTMAS TALE
   by Jalmari Helander, Finnland/Norway/France/Sweden
顕彰  [生涯功労賞] Francesco Rosi (監督)
 [ベスト・インディペンデントプロデューサー賞] Menahem Golan
 [名誉金豹賞] JIA Zhang-ke  Alain Tanner (ともに監督)
 [Excellence Award Moet & Chandon] Chiara Mastroianni
(『』内は英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

◆概観◆

たくさんの人々で賑わうメイン会場前

 第63回ロカルノ映画祭は新ディレクターを迎えての開催となった。今回から同映画祭の指揮を取るのはカンヌ映画祭・監督週間部門で昨年まで6年間ディレクターを務めたオリヴィエ・ペール氏。長い歴史を誇るロカルノ映画祭で初のフランス人ディレクターである(ペール氏は祖母がイタリア人ということもあり、ロカルノで使用される言語、イタリア語にも堪能とのこと)。
 ロカルノに限らないがディレクターが変わるとどうしてもその映画祭がどう変化するかに期待(と一抹の不安?)が集まる。今回の場合、まず上映作品総数が昨年の397本から290本に激減したのが目に見えた変化のひとつ。1本1本の作品への注目度を確保したい、というペール氏の明確な方針によるものである。作品選考に関してはペール氏を含む6人の専門家からなる委員会で構成されており、ペール氏が最終決定権を持つ仕組み。選考委員会のメンバーのうち昨年からの継続はひとりのみで、それ以外の委員は今回新たに抜擢された(日本を含むアジア地域の担当はシンガポール人のフィリップ・チアー氏)。彼らによるプログラミングは全体的に若手作家中心のかなりエッジイなものとなっており、監督週間で斬新な選定をし続けてきたペール氏のカラーが表れていると言える内容。批評家等からは概ね好意的な評価を得ていた。ただ、暴力と性的表現がいたずらに多い‘LA.Zombie ‘や‘Homme au bain‘がメインのコンペティション部門に選ばれたことに違和感を示す観客や関係者も少なくはなかった。日本からの出品作品は新進監督コンペティション部門(CINEASTI DEL PRESENTE)に一作品のみ。最高賞に輝いたのはLI Hongqi,監督の’HAN JIA(WINTER VACATION)」(昨年のOpen Door参加作でもある)で、昨年に引き続き中国人監督による作品であった。日本のみならずアジア映画が全体として非常に少なかった中、確固とした存在感を示した。
 ピアッツァ・グランデでの上映作品に関してはどちらかというと否定的な意見の方を目にすることが多かった。この8000人以上収容の会場はヨーロッパでも有数の規模を誇り、ロカルノ映画祭の象徴的存在でもある。作品の良し悪しはさておいても今年は悪天候により4回の中止を余儀なくされ、総観客数に影響を与えた(昨年58,100人から52,300人に微減)。
 ロカルノ恒例のレトロスペクティブはエルンスト・ルビッチ監督の大特集。ルビッチ監督のドイツ時代の作品ももれなく上映され、欧米のルビッチ研究家によるレクチャーも交えての秀逸なプログラムが組まれ、連日盛況。特に知名度の高い『ニノチカ』(1939)等は満員御礼。この後、シネマテーク・スイスやシネマテーク・フランセーズを巡回予定とのことであるが、日本でもどこかで上映できないかと思わせられる特集であった。
 ハード面での変化も顕著であった。公式HPが明らかに見やすくなり、また内容も充実。映画祭情報・周辺の情報を明確に記載した‘インフォメーション帳‘が登場。日報’Pardo News’は格段に品質が向上した。そしてなんといってもカタログである。これまでは4ヶ国語で記載され、相当な大きさと重さのロカルノ映画祭のカタログはほとんど持ち歩き不可能であったが、今年は一気に2ヶ国語表記での縮小版に様変わりし、参加者からはほぼもれなく歓迎された。ちなみにこのカタログは2バージョンあり、@英語・フランス語版 Aドイツ語・イタリア語版での発行で、結果的に4ヶ国語を使用している。

アート心溢れる分別ゴミ箱

<‘エコ・フレンドリー’な映画祭へ>
 今回からロカルノ映画祭は環境問題に配慮する、‘エコ・フレンドリー’な映画祭を標榜し始めた。たとえば映画祭で使用されるエネルギーはロカルノ市のあるティチーノ州の太陽エネルギーを使用し、今年のオフィシャルバッグの素材はペットボトルのリサイクル。また紙の使用の削減に力を入れている。その一環として20年間同じデザインだったカタログを前述のとおり軽くコンパクトにしたことにより、カタログだけでも紙の使用量は従来より5割減となったとのことである。映画祭ゲストの送迎等に使用されるオフィシャルカーもその7割はトヨタのハイブリッド車。アート心溢れる分別ゴミ箱も映画祭の主な会場に設置されていた。もっとも昨年までゴミ箱の存在感がまったくと言ってよいほどなかったので、今回の導入は環境に配慮しているのであろうが、実際に便利でもあった。


◆新しい試み◆

 1)インダストリー・デイズ

ミーティングする人々

 通常、バイヤーは映画祭開催中の3日間前後ほどしか滞在しない。映画祭はその後も10日くらい続くが映画祭の規約等が制約となって、公式上映前にはバイヤー等にも作品を見せられない場合も多々あり、バイヤー、セラー、どちらにとっても好ましからぬ状況が続いていた。そんな様子を長年観続けてきた、インダストリー部門のNadia Dresti氏の発案で始まった業者向けイベントがこの‘インダスリー・デイズ’である。三日間に及ぶインダスリー・デイズではメインと新進の両コンペティション、ピアッツァ・グランデ、その他ロカルノ映画祭でプレミア上映される作品の業者向け特別スクリーニング、それにワークショップや共同制作に関わるセミナー等を加えて構成された。この試みへの関心も手伝ってか、今年度のインダストリー登録者は900名(そのうち242名がバイヤー)、最高記録を更新した。ロカルノ映画祭が作家性の強い作品の制作及びセールスを促進する役割を果たせるようになれば、との高いモティベーションをもって設けられたイベントでもある。商談が今回のロカルノで成立した数そのものは必ずしも多いとはいえないかもしれないが、参加者の反応は非常に好意的で成功とみてよいであろう、とのロカルノ側の談話が発表されている。

 2)ロカルノ・サマー・アカデミー

 映画を学んでいる、もしくは映画界でのキャリアをスタートさせたばかりの若者向けの次世代育成プログラム。映画に携わる5名の専門家(映画監督、プロデューサー、キャスティング・ディレクターなど)のそれぞれのレクチャーと、いくつかのワークショップで構成。今回の参加者は50名で、スイスをはじめヨーロッパ人が主だが、アメリカ人の姿もみられた。年齢は22-35歳。講義はすべて英語で行われた。専門家との交流の中で実践的なアドバイスやヒントを得、刺激を受けるだけでなく、参加者同士のネットワークも築けた、との参加者のコメントが多数寄せられているという。次世代育成プログラムはベルリンのタレントキャンパスをはじめ、他のいくつかの映画祭ではすでに始まっているが、ロカルノのアカデミーが今後どのように展開してゆくか期待したい。

これもアート心溢れた、
映画祭グッズに身を包んだ
男の子のマネキン
 

◆余談◆

 ロカルノ映画祭を訪れた関係者は一様にそのリゾート感漂う、快適で開放的な雰囲気に魅了される。今回初めてロカルノ市の隣町・アスコナのホテル滞在となったが、町としてはむしろこちらの方が魅力的なのではというほど、のどかで品の良い湖畔の町であった。シャトルバス、もしくは公営バスで乗ってしまえば10分ほどの距離ではある。がしかし。映画祭に通うことを考えるとやはり不便と言わざるをえない。シャトルバスの巡回(15分間隔というが、実際にはあてにならない)は午後8時半頃には終わってしまい、それ以降は公営のバスもしくはタクシー頼りとなる。ちなみにタクシーは日本とほぼ変わらない価格、つまり高い。簡単にはホテルに戻れないから、その日に必要と思われる荷物と気候の変化に備えて羽織り物や折り畳み傘も持ってゆかなくてはならない。それらに加えて大量の資料を持ち、スーツケースでロカルノを廻っていた人もいるという話。アスコナ宿泊者はかなりの数にのぼる今、荷物の一時預かり所かロッカーの設置を提案したいものである。




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