公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇モントリオール世界映画祭 2014/8/21-9/1
  Festival des Films du Monde

 

**受賞結果**
グランプリ
(Grand prix des Americas)
OBEDIENCIA PERFECTA (PERFECT OBEDIENCE)
by Luiz Urquiza Mondragon (Mexico)
審査員特別グランプリ
(Special Grand Prix of the jury)
『ふしぎな岬の物語』
成島出監督
エキュメニカル審査員賞 『ふしぎな岬の物語』
成島出監督
最優秀監督賞 『そこのみにて光輝く』
呉美保監督
最優秀女優賞 RACHAEL BLAKE and LUCIE DEBAY (MELODY )
by Bernard Bellefroid (Belgium-France-Luxembourg)
最優秀男優賞 YAO ANLIAN (DA GONG LAO BAN (FACTORY BOSS))
by Zhang Wei (China)
最優秀賞脚本賞 UN RAGAZZO D’ORO by Pupi Avati,
screenplay by Pupi Avati (Italy)
最優秀芸術貢献賞 DAS ZIMMERMADCHEN LYNN (THE CHAMBERMAID LYNN)
by Ingo Haeb (Germany)
イノベーションアワード TRAVELATOR by Dusan Milic (Serbia-Montenegro)
新人コンペティション部門:長編フィクション第一作コンペ
金賞 GONZALEZ by Christian Diaz Pardo (Mexico)
銀賞 L’ANNEE PROCHAINE (NEXT YEAR) by Vania Leturcq (Belgium-France)
銅賞 A BERNI KOVET (THE AMBASSADOR TO BERN) by Attila Szasz (Hungary)

(『』内は英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**

上映前、会場の
シネマ・インペリアル入口で
 

 「すばらしい作品だったわ。」観客席の通路を上がってきた老婦人が私に向かって話しかけてきた。薄暗い中でもブルーの瞳がにこやかに見える。日本人だとわかって声をかけてきたようだ。『ふしぎな岬の物語』上映後のシネマインペリアルでのことだった。上映前には吉永小百合さんの淀みないフランス語のスピーチに大きな拍手が贈られていた。流れるように、しかし一言一言力強く語られる言葉に、吉永さんがどれだけこの映画を大切にしているかが強く伝わってきた。

 
『ふしぎな岬の物語』上映前。
長い列が、右手奥の劇場から左側の
ビルの角を曲がったところまで続いている
 
 
 
上映後、Q&Aが行われた
 
 
 

 第38回モントリオール世界映画祭(FFM)は『ふしぎな岬の物語』が最高賞に次ぐ審査員特別賞グランプリとエキュメニカル審査員賞のダブル受賞、『そこのみにて光輝く』は最優秀監督賞(呉美保監督)受賞という、日本映画にとってコンペ部門に入った両作品受賞という快挙で幕を閉じた。

 クロード・ルルーシュ、故アラン・レネ、フォルティッシモのマイケル・J・ワーナーに特別名誉賞が授与された今回、ルルーシュ監督のSalaud, on t’aime (I Love You, You Bastard)が映画祭のオープニングを飾り、他の二人についてはオマージュ上映が企画されたが、フォルティッシモが関わった作品が上映された中に『トウキョウソナタ』(黒沢清監督)と『ノルウェイの森』(トラン・アン・ユン監督)が含まれていた。この2作を含めれば日本映画は長編短編合わせ17作品で、カナダ、フランス、ドイツ、アメリカに次ぐ作品数だった。今回の作品をみると、「家族」がテーマに関わる作品、あるいはもっと広義の、「コミュニティ」を扱う作品が多かったように思う。

 
21時過ぎ。夜の上映回前に賑わう
シネマ・カルチェ・ラタン
 

 コンペ部門以外の作品は、インペリアルとは別会場のシネマ・カルチェ・ラタンで上映され、満席になる上映も多数見受けられた。滞在中上映された作品のうち、上映回すべて満員となった『花宵道中』のQ&Aでは、江戸時代の文化風俗への観客の関心の高さが窺われた。また77歳での婚活を描く『燦燦』の上映はほぼ同世代の観客で連日満席となり、上映後「素晴らしかった」「私も恋人を探してみる!」と監督にひとこと言おうと人々が列を作るほどだった。「お年寄りへの応援歌としてこの映画を作った」という監督のメッセージが国を超えて観客に届いたのだと感じた。

 

**Canadian Student Film Festival: 青木義乃さんスペシャルメンション授与**

 
青木義乃さん
 

 45回目を迎えたCanadian Student Film Festivalでは、昨年同じ部門でMaple Syrupが上映されたモントリオール在住日本人アニメーション作家青木義乃さんの新作Unordinary Journey in An Ordinary Dayが今年も連続して上映作品に選ばれ、カナダ学生コンペティションのスペシャルメンション授与という栄誉を得た。ニュートンの絶対的時間と空間から着想した3分のアニメーションで、あるおばあさんのごく普通の日常に起こった時空を超えた“奇跡”を描いている。アニメーションならではの様々なアイディアが盛り込まれたこの作品は、青木さんのコンコルディア大フィルム・アニメーション学科卒業制作で、いわば大学で学んだ集大成。この受賞は今後の大きなはげみになったことと思う。Unordinary Journey in An Ordinary Dayは、9月のオタワ国際アニメーション映画祭のカナダ学生コンペ部門、そして10月にはロシアの映画祭でも上映が決定している。  
 



**<映画を通して世界を知る>**

 
『燦燦』上映に並ぶ人々
 

 映画祭の発表によると今回の上映作品は74ヶ国350作品(長編は160本。51本の第一作監督長編を含む)、ワールドまたはインターナショナルプレミア上映は100作品と北アメリカプレミア上映32作品とのこと。今年上映本数が減ったのはケベック州の公的文化機関Societe de developpement des enterprises culturelles (SODEC)が財政的支援をカットしたことが影響しているだろう。規模の縮小を余儀なくされた面もあったろうと思う。毎年コンペのソワレ上映やオープニング、クロージングセレモニーが行われるメゾヌーブ劇場は改装中ということもあり今年は使用されなかった。一時は開催を心配する声もあったことも事実だが、映画祭がスタートしてからは「映画祭前半からこんなに観客が入っているのは例年にないくらい」との話を聞いた。観客層の中心を成すのは高年齢層だ。上映パスを首からかけ何本も観る熱心な観客が多い。FFMはシネフィルが集うタイプの映画祭ではない。映画を通して世界各国を知ること、それがこの映画祭の観客が欲していることであり、映画祭が観客に提供し続けてきたことなのだと思う。その意味で今年の上映作品は充実しており、成功したと言えるだろう。
 

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 映画祭をサポートするため、会場の一角で有志による一種の署名(正確には名前を記入するのではなく、映画祭ボードの前で写真を撮られる)活動が行われていた。ニュースレターを発行予定で、メールアドレスを提出すると”FFM’s Friends”から情報が送られてくるそうだ。
 
 今年2月、映画祭ジェネラルディレクターのダニエル・コシャールさんが、今回をもって勇退することを発表していた。彼女は映画祭創設者であるセルジュ・ロジークさんの許で長年モントリオール世界映画祭を支えてきた。どれだけの数の日本映画をはじめ世界各国の映画が、彼女の助けを借りてモントリオールで紹介されてきたことだろう。大きな功績に、ここに心からの敬意と感謝を表したいと思います。
 




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