公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇トロント国際映画祭 2014/9/4-14
  Toronto International Film Festival

 

**受賞結果**
観客賞
The Imitation Game
by Morten Tyldum(UK/USA)
次点
Learning to Drive
by Isabel Coixet (USA)
St.Vincent
by Theodore Melfi(USA)
ドキュメンタリー作品 観客賞
Beats of the Antonov
by Hajooj Kuka (Sudan,South America)
ミッドナイト・マッドネス部門
観客賞
What Do We Do in the Shadows
by Taika Waititi, Jemaine Clement (New Zeland /USA)
国際映画批評家連盟賞 Time Out of Mind
by Oren Moverman(USA)
NETPAC Award
for Best Asian Film
Margarita, with a Straw
by Shonali Bose (India)

(『』内は英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**

 
 
映画祭の中心
TIFFベルライトボックス
 

 今回、9年ぶりに訪れたトロント映画祭。当時から都市型の映画祭としては世界でも一、二を争う規模と内容の充実度を誇っていたが、評判に違わずさらに飛躍を遂げていた。観客動員数は40万人近くにのぼり、まさに街を挙げての大イベントと化している。国際審査員による数々の賞を設けていない非コンペティティブ長編映画祭のため、日本での知名度は一般的にはそれほど高くはないが、アカデミー賞で注目される作品が多数プレミア上映され、世界各国メディアや映画関係者が多数集まる北米最大級の映画祭である。主にハリウッドやヨーロッパから連日いわゆるセレブリティが訪れ、上映会場周辺は出待ちの人々で賑わっている。地元紙をはじめ、テレビでのメディアの取り上げ方も大々的、毎日「今日やってくるゲスト」や「今日の注目作品」について詳細な情報を流している。言うまでもなくこの時期に照準を合わせて遠方から訪ねてくるファンも多いとのことである。

 映画祭のメイン会場及び事務局となっているのがTIFF・ベル・ライトボックスで、2010年以来、トロント映画祭の象徴的存在となっている。最新の上映環境を備えた5スクリーン、レストランやミュージアムショップ、図書館も擁する近代的で快適な建物である。かつて「シネマテーク・オンタリオ」と称したTIFFシネマテークも同ビル内にあり、年間を通して常に各種の上映が行われている。同館ではトロント映画祭の他、子ども映画祭、新世代映画祭なども催されており、まさにトロントの映画産業の中心となっているとのことである。トロント映画祭はこのライトボックスを中心に、ダウンタウン内の数か所の映画館(趣きのある上映館も多い)で繰り広げられる。映画祭会期中の最初の週末4−7日は、同館前の通り、キングストリート・ウエストは歩行者天国となり、各種のイベントが繰り広げられ、深夜まで大勢の人が行き交い、祝祭感がより高まっていた。この週末歩行者天国は今年が初めての試みだったとのことであるが、そのたいへんな盛り上がりをみるに、次回以降も続行は確実と思われる。



**市民と映画祭**

開場を待つ人々
 
歩行者天国になった
キング・ストリートウエスト
 

 トロント映画祭では観客の投票によって決定する「The People’s Choice Award」(観客賞)を設けており、近年は同賞に輝いた作品の多くが翌年のアカデミー賞受賞作品となっている。これが同映画祭が‘アカデミー賞の前哨戦’といわれるゆえんである。カナダ映画部門に関してのみは正規の審査員を設けており、また国際批評家連盟賞など外部団体の賞も存在する。が、最高賞は「観客賞」。トロント映画祭は創設時から一貫して観客重視の姿勢を貫いてきた。地元の映画ファンのコミュニティを築き、地元の映画業界の活性化に寄与することを目的とし、あくまでも「観客」の方を向いて運営されてきた。その志はしっかり市民に届いており、決して安いとはいえないチケット代にも関わらず(*大人1枚24カナダドル;複数枚の購入の場合や学生、シニア等には割引あり)上映館は常に楽しげな市民でごった返している。ボランティアスタッフも大勢、きびきびと楽しそうに働いていた。ボランティアは希望者多数のため、けっこうシビアな選抜が行われるとのことである。なかでもシニア世代のボランティアの方がかなり多いのには驚きを禁じ得なかった。どこの映画祭でもほぼ若者で占められているのが常だが、このあたりにも街の成熟度を垣間見た気がした。

 
 
 
 
 
 
 
 
 


**ビジネス**

会場周辺では
さまざまなイベントが
行われていた
 

 地元の観客と並んで、トロント映画祭が重要視しているのがビジネスの場としての機能である。同映画祭においてはいわゆる「フィルムマーケット」こそ併設してないものの、業界関係者の注目度は非常に高く、商談成立件数も多い。映画祭期間にプロデューサーや配給会社などの業界関係者が大挙して押し寄せる。今年は日本からは100人以上が参加、過去最高数を記録した。そのほとんどがバイヤーとのことである。同映画祭では公式部門に選出された作品に関して業界関係者用のプログラムが別に組まれているため、それらの作品は「マーケット試写」の必要がない。(*通常、カンヌやベルリン等での「マーケット試写」は有料)業界関係者プログラムで多くの配給会社やジャーナリストに見てもらえる上、通常の映画祭上映では北米の観客の反応もうかがい知ることができるというメリットは大きい。特に観客賞を狙えるような作品の市場での評価を占う上で、同映画祭でのお披露目はとても有益とのことである。





**アジア映画・日本映画**

さまざまな年齢層から
成るボランティアの人々。
皆、親切で笑顔。
 
レッドカーペットが
敷かれる会場のひとつ。
ロイ・トンプソンホール前。
CNタワーを背に。
 

 欧米のスターの出演する華やかな‘ガラ部門’の作品が注目をさらってゆくので、アジア映画の存在感はどうしても薄くなってしまうのは事実。とはいえ、一般ニュースとして報じられることは少ないものの、トロントに数多存在するアジア人移民コミュニティを中心にアジア映画への関心は保たれている。今年は‘City to City’としてソウルが取り上げられ、選りすぐりの韓国映画の数々が上映され、韓国からの監督・俳優が多数来訪を遂げた。

 「アジアと欧米の架け橋となること」を目的に2012年に創設された‘アジアン・フィルム・サミット’も今年で3回目を数えた。映画産業のこの分野における国際的なエキスパートを招き、様々なプログラムを提供。一日掛かりのイベントで、パネル・ディスカッション、昼食会、ワーキング・セッションで構成され、参加者の面々が各自ネットワークづくりに励んでいた。

 トロント映画祭において日本映画の出品は例年安定した数を保っている。今年は長編8本、短編1本で例年よりやや多め。定期的に招聘されている監督にはすでに固定ファンがしっかりついている感がある。特に「ミッドナイト・マッドネス部門」の常連である園子温監督は今回で5年連続して同映画祭への正式出品という快挙を果たした。また昨年、一昨年は園監督作品が同部門での観客賞を連続して受賞している。そして今回は最新作『TOKYO TRIBE』が同部門のオープニングを飾り、園監督の来場のもと、真夜中にも拘わらず盛り上がりを見せた。『かぐや姫の物語』は北米プレミアとして出品され、上映に合わせて高畑勲監督も来訪。スタジオジブリの姿を描いた砂田麻美監督作『夢と狂気の王国』とともに、ジブリ関連の二作品が登場した形であった。ディズニーの本場・北米においても、ジブリ製アニメーションの人気は絶大とのことである。宮崎駿監督作品もその多くが上映されてきた。大島渚監督のデジタルリマスター版『青春残酷物語』は‘TIFFシネマテーク’部門での上映であったが、同部門はどの作品も無料上映。前身の「シネマテーク・オンタリオ」時代から、日本映画の紹介に積極的であってくれたシネマテーク、映画祭期間以外のプログラムにも日本映画の上映は多いとのことである。また国際交流基金トロント文化センターとユニジャパンが共催する‘ジャパン・フィルムナイト’は日本からの参加者、海外の映画関係者の場として長年続いており、今年も日本人監督らをはじめ、約150名の来場者で賑わった。






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