公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇釜山国際映画祭 2015/10/1-10
  Busan International Film Festival

 

**受賞結果**
New Currents賞
Immortal   Hadi MOHAGHEGH (イラン)
Walnut Tree  Yerlan NURMUKHAMBETOV (カザフスタン)
Busan Bank
(*Flash Forward部門の観客賞)
Highway to Hellas  Aron LEHMANN (ドイツ)
NETPAC賞
Communication & Lies  LEE Seung-won (韓国)
国際批評家連盟賞
Immortal  Hadi MOHAGHEGH (イラン)
BIFF メセナ賞
(最優秀ドキュメンタリー)
Boys Run  KANG Seokpil (韓国)  
Look Love   YE Yun (中国)
Sonje 賞(短編) Shame Diary  LEE Eunjeong (韓国)
Nia’s Door  LAU Kek Huat (台湾)
KNN観客賞
(*ニューカレンツ部門観客賞)
Radio SetHari VISWANATH (インド)  
Asian Filmmaker of the Year賞 スタジオジブリ
Korean Cinema 賞 Wieland Speck
(ベルリン映画祭・パノラマ部門のディレクター)

(映画タイトルは英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**

質・量ともに充実した
映画祭グッズ・関連書籍売場。 
 

 第20回釜山国際映画祭は10月1日から10日までの10日間、海雲台地区を中心に盛大に開催された。昨年は派手さを極力抑えて落ち着いた雰囲気で行なわれたが、20周年という節目の年である今回は、オープニングセレモニーのレッドカーペットに俳優たちが華やかにドレスアップして大集結。韓国のスターたちのほかにもハーヴェイ・カイテルやニュー・カレンツ部門の審査員を務めるナスターシャ・キンスキーなど、錚々たる顔ぶれが登場した。オープニング当日の釜山は、朝から台風の影響による強風警報が出るほどの悪天候。飛行機の欠航や遅延が相次ぎ、日本からのフライトの多くが大幅に遅れての到着となり、オープニングセレモニーに間に合わないゲストが続出した。釜山映画祭は何年かに一度、台風に見舞われる。今年はそれがオープニング日にあたってしまったが、初日以降は好天に恵まれた。

 オープニングセレモニーの司会は、韓国を代表する演技派俳優ソン・ガンホと、アフガニスタンの女優マリナ・ゴフバハーリが務め、オペラ歌手スミ・ジョーのパフォーマンスなどで幕を開けた。セレモニーでは、アジアを代表する映画製作者に贈られる「アジアン・フィルムメイカー・オブ・ジ・イヤー」としてスタジオジブリが表彰された。同プロダクションの鈴木敏夫プロデューサーが代表して賞を受け取るにあたり、「日韓国交正常化50周年という記念の年に選ばれたことに感謝します」と語ると、大きな拍手がわき上がった。
オープニング作品はインドの独立系映画界で注目を集めるMozez Singh監督のデビュー作『Zubaan』、クロージング作品は中国の楊子(Larry Yang)監督の『喊山(Mountain Cry) 』。オープニングとクロージング作品はアジアで、という方針を貫いている。

  釜山映画祭は昨年、釜山市長からの上映中止要請を振り切り、セウォル号沈没事件を告発するドキュメンタリー映画『ダイビング・ベル』を上映したことから釜山市との関係が悪化。市長がイ・ヨングァン映画祭ディレクターの辞任をはじめ、いくつかの厳しい要求したりと混乱を極めた。おそらくその騒動の影響も手伝って、政府機関であるKOFICからの釜山映画祭の助成金が大幅に削減されるなど、非常に厳しい局面に立たされた釜山映画祭が、記念すべき20年目をどう展開するのか大いに注目されていた。そんな中、映画祭側はイ・ディレクターの共同ディレクターとして、ベテラン女優カン・スヨン氏を迎えたことで市側との緊張関係が緩和した。ベネチア、モスクワをはじめ多くの映画祭で女優賞に輝くカン・スヨン氏は「映画祭は今後も政治的独立性を維持する」と宣言して、映画人からの共感を得ているという。今回の映画祭の来場者数は227,337人(そのうち、公式のゲストは9,685名 / プレスは2,325名)、75ヶ国から計302本の作品を上映。302本の作品のうち、ワールドプレミアが94本、インターナショナルプレミアが31本であった。どの数字も昨年とほぼ同数。映画祭を取り巻いていた厳しい状況を考慮するに大健闘といえる。
釜山市民、及び韓国人の観客にとっての大きな魅力は海辺に設けられたBIFF広場における「オープントーク」や「Talk to Talk」等、スターたちの姿を間近で見、場合によっては交流もできることであろう。会場付近は常に黒山の人だかり、活況を呈していた。アジア映画を中心に据える釜山映画祭ではあるが、今回は韓国とフランスの国交樹立130周年を記念した特集「My Favorite French Film」が設けられ、クロード・ルルーシュ、レオス・カラックス、ソフィー・マルソーらフランス人映画人が多数集結。ヨーロッパの華やぎを加えていた。



**20周年**

映画祭会場付近のバナー。
「20th」と明記されている。 

 1996年の開始から20回目を数えた釜山映画祭。それを記念して、いくつかの特別企画が設けられた。まず、アジア最高の映画100作品を選び出す「アジア映画100」。この中でベスト10入りした作品を映画祭期間中に上映した。作品によってはスクリーンでの鑑賞が非常に貴重な機会であるため、この特集のためだけに来韓した人もいたという。モフセン・マフマルバフ、ポン・ジュノ、アピチャポン・ウィーラセクタンといったアジアを代表する現役監督や、トニー・レインズ氏、蓮實重彦氏などの著名な評論家、国際映画祭のディレクター・プログラマーなど73人の専門家たちによって選出されたもので、新旧のアジア映画を積極的に紹介し続けている釜山映画祭にふさわしい企画といえる。ベスト10のうち、日本からは1位に『東京物語』(小津安二郎監督)、2位『羅生門』、7位に『七人の侍』(ともに黒澤明監督)が選ばれた。また同様に選出された「アジアの映画監督TOP10」には日本からは1位に小津監督、4位に黒澤監督、そして8位に溝口健二監督がランクインした。
「Memories 20’」と題した写真展も特別企画のひとつであった。この20年の間に釜山映画祭を訪れた韓国内外の映画人たちの写真の数々をメイン会場‘映画の殿堂’にて展示。‘映画の殿堂’1Fの、パスを持たない人も自由に行き来できるスペースでの開催であったため、多くの人々が足を止めて見入っていた。

過去に釜山映画祭を訪れた映画人たちの写真展。
20周年記念イベントのひとつ。 

山田洋次監督と是枝裕和監督を追ったドキュメンタリー『The Two Directors: A Flame in Silence』(海南友子監督)は、やはり20周年の記念に、釜山国際映画祭が韓国最大のテレビ局KBSと共同で企画したプロジェクト“POWER OF ASIAN CINEMA”の中の一作品である。“POWER OF ASIAN CINEMA”はアジア10カ国の映画監督が、それぞれの国の映画産業や映画に関する歴史などを自由な視点で描くという企画。海南監督は『ビューティフルアイランズ』(09)で釜山国際映画祭ACF(=アジアン・シネマファンド)賞受賞歴をもつ。

質疑応答に臨む海南監督(左端)
是枝監督(左から二人目) 

話題作『母と暮せば』の制作中の山田監督や、カンヌ映画祭期間中の是枝監督に密着した貴重な映像やインタビューで構成されている。今作では83歳にして精力的に新作を発表し続ける巨匠・山田監督と、国際的評価が高く、内外からの注目を集めている是枝監督を追い、二人の姿を通して日本映画界の現状と底力を考察した。『海街diary』の上映に合わせて釜山入りしていた是枝監督もスペシャルゲストとして上映に立ち会い、質疑応答にも答え、より充実の上映となった。
 





**Industry部門**


今年も3日間、
BEXCO内の会場にて開催された。 
 

  釜山映画祭はアジアン・フィルムマーケット(AFM)、アジアン・プロジェクトマーケット(APM)、アジアン・シネマファンド(ACF)、アジアン・フィルムアカデミー、アジアン・シネマフォーラムなどの様々なマーケットやイベント等を併設することで、映画産業のビジネス面をサポートする重要な役割を果たしている。残念ながらAFMがこのところ停滞気味な状況を鑑みてということなのか、人材育成や企画開発により注力している様子が見て取れる。
今回の大きな話題のひとつはスケールアップした「アジア・キャスティング・マーケット」であった。前年のアジア・キャスティング・フォーラムとスターラインナップを発展させたイベントで、韓国芸能マネジメント協会及び数々の芸能事務所が大々的に協力したことにより規模や存在感がグレードアップした。国際共同制作を活性化させる試みの一環として、アジアを代表する俳優と世界の映画産業関係者を繋げることを目的としている。アジアン・フィルムマーケット期間である10月3日から6日までの間に開催された。今回は日本、韓国、台湾、中国の若手かつ実績のある俳優たちが選出され、出席した(*キム・ウビン、キム・ゴウン<ともに韓国>、マーク・チャオ<台湾>、チャン・ロンロン<中国>、佐藤健、長澤まさみ<ともに日本>)。また、若手俳優に光を当てるだけでなく、世界的な名声及び韓国内外の市場で興行力を誇るベテラン俳優を一人選定し、トリビュートを設ける「カーテンコール」も創設。初年度の今年は『スノーピアサー』『弁護人』『渇き』などに出演、多数の受賞歴を誇り、韓国内外で高い評価を得ている韓国のソン・ガンホが選定された。納得の受賞である。
釜山国際映画祭アジアン・シネマファンド(ACF)の脚本開発部門で、富名哲也監督の長編劇映画企画『Smoke on the Water (スモーク・オン・ザ・ウォーター) 』が選出された。2007年にスタートした同ファンドの脚本開発部門において、日本人が選出されたのは初めて。『Smoke on the Water』はACF の支援作品に選ばれた上に、さらにアジアン・プロジェクトマーケット(APM)にも選出されるという快挙を果たし、富名哲也は今回のAPMに参加。積極的にミーティング等をこなしていた。他の日本人監督にも続いて欲しい事例である。










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