公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇第63回 サン・セバスチャン国際映画祭 2015/9/18-26
  Donostia Zinemaldia Festival de San Sebastian
   International Film Festival

 

**受賞結果**
GOLDEN SHELL
(金の貝殻賞=最優秀作品賞)
Sparrows by Runar Runarsson (Iceland, Denmark, Croatia)
SPECIALJury Awards
(審査員賞)
Evolution  by Lucile Hadzihalilovic(France)
SILVER SHELL
(銀の貝殻賞:最優秀監督賞)
Joachim Lafosse (‘The White Nights’, Belgium, France)
SILVER SHELL
(銀の貝殻賞:最優秀女優賞)
Yordanka Ariosa (“The King of Havana,” Spain, Dominican Republic)
SILVER SHELL
(銀の貝殻賞:最優秀男優賞)
Ricardo Darin, Javier Camara (“Truman,” Spain)
最優秀撮影賞 Manu Dacosse (Lucile Hadzihalilovic, France)
最優秀脚本賞 Jean Marie Larrieu, Arnaud Larrieu (“21 Nights with Pattie,” France )
KUTXA NEW DIRECTORS’ AWARD(最優秀新人監督賞) The New Kid by Rudi Rosenberg(France)
観客賞 海街diary by 是枝裕和(日本)
観客賞(ヨーロッパ映画) 山河故人  by Jia Zhang-ke (日本・中国・フランス)
国際批評家連盟賞 The Apostate  by Federico Veiroj (Spain, Uruguay, France)
東京ごはん映画祭賞 Noma, My Perfect Storm  by Pierre Deschamps (UK, Denmark)
IRIZAR Basque Film AWARD(最優秀バスク映画賞) Grandma  by Asier Altuna (Spain)
Donastia Award(功労賞) Emily Watson

 *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**

サン・セバスチャン映画祭はスペイン北部バスク地方、サン・セバスチャン市にて毎年9月に開催される。貝のように広がるラ・コンチャ湾で知られるサン・セバスチャン市は、ヨーロッパ有数の風光明媚なリゾート地。「コンチャ」とはバスク語で‘貝殻’を意味し、映画祭の賞の名称はここに由来する。映画祭のシンボルマークもこの湾から着想を得ている。映画祭は1953年にスタートし、紆余曲折を経ながら今年63回を数えた。創設当初より華やかな映画祭であったが、お国柄なのかどこか素朴さを残しており、親しみを感じる、という常連ゲストの声をよく耳にする。実際、リピーターとなる参加者が後を絶たない。
スペインはもちろんのこと、スペイン語圏で最大の映画祭とあって、スペイン語を母国語とする中南米からの出品作、参加者が非常に多い。「オリンテス・ラティーノ」部門をはじめ、さまざまな部門にスペイン語圏の作品が選出されている。また、近年は「インダストリー・クラブ」の充実ぶりが顕著である。
「インダストリー・クラブ」ではラテンアメリカとヨーロッパとの共同制作や、海外セールス推進のための多様な機会を提供している。目下、ラテンアメリカ映画への関心はヨーロッパを中心に非常に高く、同クラブへの参加者は今年は約1,500人にのぼったとのことである。

 
映画祭のみならず、
各種の文化イベントに使用される。 

映画祭のメイン会場はサン・セバスチャン市の誇る文化複合施設、クルサール。著名なスペイン人建築家、ホセ・ラファエル・モネオにより設計され1999年に完成、それ以後同映画祭のメイン会場となっている。クルサールは町を流れるウルメア川とラ・コンチャ湾が合流する海岸近くに位置し、夜にはクルサールから発せられる光が海に反射し、幻想的な夜景を作り出す。通常の映画上映はもちろんのこと、開会式・閉会式もここで執り行われ、プレスセンター、記者会見場、映画祭公式グッズショップも内包している。レッドカーペットもクルサール前の道路に設けられており、沿道のファンとの距離が近く、サインや撮影を求める人々に気軽に応じるスターも少なくない。クルサールから徒歩数分の場所に位置する壮麗なビクトリア・エウヘニア劇場では主に「パールズ」部門の上映が行われる。他に市内のミニシアターも使用しており、そのほとんどがクルサールから徒歩圏内。各会場や道沿い、お店などに映画祭のメインポスターや、各部門のポスターが飾られ(*各部門ごとにそれぞれのポスターをつくっている)、町中が映画祭モードに包まれている。

各部門がそれぞれポスターをつくっている。
(写真は「Japanese new independent films
2000-2015」と「Zabaltegi」部門のポスター)
  
 ホテル・マリアクリスティーナの前で、スターや
監督の‘入り待ち’をする人々
  

著名な監督や俳優などは名門ホテル・マリア・クリスティーナに宿泊することが多いため、同ホテル入り口付近は映画祭期間中、「入り待ち」の人々が詰めかけている。映画祭が毎日、その日の到着者を公開しており、ホテルもそれに応じて人員を配したりと、良き協力関係が結ばれているようだ。
サン・セバスチャン市は映画祭のみならず多様な文化イベントを擁する街としても知られており、2016年は欧州文化都市のひとつにも選定されている(*もう一か所はポーランドのヴロツワフ)。次回の映画祭にどのような波及効果があるのか、要注目である。

クロージングセレモニー。
壇上に並ぶ受賞者たち。

日本からサン・セバスチャンへはバスク地方最大の都市・ビルバオ、もしくはフランス南西部の都市、ビアリッツから陸路でサン・セバスチャン入りするのが一般的である。が、フランス・ビアリッツからの方が実は格段に近い。よく耳にすることではあるが、スペインの人は「スペインに」、というよりも地元への帰属意識が非常に強固であることを実感した。過去に激しい独立運動があったことで知られるバスクは、その中でも突出しているのかもしれない。人々の中に「バスク人」であるとの意識がそこかしこに垣間みられる。映画祭では公式ウェブサイトをはじめ、カタログや会場での表示等、すべてにおいてバスク語とスペイン語が表記され、そこに英語が加わる。クロージングセレモニーでの各賞の発表にあたっては、‘最優秀バスク賞’が最も大きな拍手喝采に包まれた。映画祭の名称そのものも常に『ドノスティア・サンセバスチャン』と表記されており不思議に思っていたが、‘ドノスティア’とはバスク語で‘サン・セバスチャン’を意味するそうである。



**料理映画**

サン・セバスチャンを擁するバスク地方は世界でも名高い「美食エリア」である。気軽に小皿料理‘ピンチョス(タパス)’を楽しめる庶民派バルが旧市街を中心に充実している一方で、洗練された一流店も郊外にひしめいている。ミシュランの星付きレストランが世界で一番密集しているエリアともいわれている。この特色を生かし、2011年に現ディレクターが就任した際にCulinary Zinema(キュリナリー映画部門)が設けられ、今ではすっかり映画祭の一大人気部門となっている。今年は17作品が選出され、それぞれに対して作品からインスパイアされた料理を著名なシェフが供するという、イベント感溢れる上映は大好評。チケット発売が始まると瞬く間に売り切れてしまうという。同様に料理部門を設けているベルリン映画祭とは提携関係にあり、2月のベルリン映画祭で上映された作品がサン・セバスチャンでも選ばれることも多い(『リトルフォレスト 冬・春』もそのひとつである)。日本映画には飲食に関連した秀作が多いこともあり、日本からはコンスタントに出品作がある。2014年には‘東京ごはん映画祭’とも提携関係を結んでおり、同映画祭による‘東京ごはん賞’も設けられている。今回の受賞作品『NOMA, MY PERFECT STORM 』は、10月末〜11月初旬に開催される‘東京ごはん映画祭’での上映が決まっている。



**日本映画**

コンペティション部門には細田守監督作の『バケモノの子』が出品された。サン・セバスチャン映画祭のコンペ部門にアニメーション作品が初めて選出されたということでも注目を浴びた。記者会見では興味深い質問が多数出て、細田作品の認知度の高さ、日本のアニメーションへの関心の高さがうかがえた。

記者会見に臨む細田監督
  
野外に掲げられた『バケモノの子』の大ポスター
  

他の映画祭にすでに出品済みながら、プログラマーが‘サン・セバスチャンでもぜひ’と選んだ作品が集う「パールズ部門」には是枝裕和監督作『海街diary』が入り、観客賞を受賞した。是枝監督作品の同賞受賞は一昨年の『そして父になる』に続き、二度目の快挙。また、是枝監督は過去には『ワンダフルライフ』で国際批評家連盟賞、『奇跡』で脚本賞も受賞している。同映画祭への参加は今回で七度目という是枝監督、サン・セバスチャンの常連として、地元の観客にも親しまれ、敬意をもって受け入れられている。

観客賞の投票結果は毎日更新、各上映会場などで公表される。
(この段階でも『海街diary』がトップ) 


サン・セバスチャン映画祭では日本映画の特集上映を積極的に行っている。(新しいところでは2008年『日本のフィルム・ノワール』と2013年の『大島渚特集』。)今回は『Japanese new independent films 2000-2015』と題し、2000年から2015年にかけて日本で製作されたインディペンデント作品の特集が設けられた。上記の期間に制作された独立系作品35本がセレクトされ、『六月の蛇』の塚本晋也監督、『SHARING』の篠崎誠監督が映画祭を訪れ、この部門のキュレーターを務めた市山尚三氏とともに記者会見にのぞみ、日本の独立映画の現状、問題点などを語った。スペイン語圏、そして欧米の作品がどうしても多い同映画祭の中で、日本映画はまずまずの存在感をみせている。通常の映画祭カタログとは別に、この特集独自の冊子も刊行され、見応えのある内容となっていた。





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