公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇モントリオール世界映画祭 2015/8/27-9/7
  Festival des Films du Monde

 

**受賞結果**
メイン
コンペティション部門
グランプリ(Grand Prize of the Ameicas) Mad Love by Philippe Ramos(France)
審査員特別グランプリ The Visitor by Mehmet Eryilmaz (Turkey)
最優秀監督賞 Mikko Kuparinen <for ‘2 nights till morning>
Gerogi Balabanov <for ‘Dosieto Petrov’>
最優秀女優賞 Malin Buska <for ‘The Girl King’>
最優秀男優賞 Wolfram Berger <for ‘Rider Jack’>
最優秀賞脚本賞 Summer Solstice Michal Rogalsk <Poland/Germany>
最優秀芸術貢献賞 Seven Days by Xing Jian <China>
イノベーションアワード Havana Moment  by Guillermo Ivan Duenas<USA/Cuba/Mexico/Colombia>
新人
コンペティション部門
金賞 The Funeral by Qi Wang (China)
銀賞 To My Beloved by Ali Muritiba (Brazil)
銅賞 The Thin Yellow Line by Celso Garcia (Mexico)
観客賞 The Girl King  by Mika Kaurismaki
<Canada,Finland,Germany>

 *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**

第39回モントリオール世界映画祭
の公式ポスター

今年は公的助成金が皆無の状態での開催になったという。かつてはTelefilm Canada(国立の映画振興機関)、 SODEC(ケベック州文化産業促進公社)、モントリオール市という3つの公的機関から助成金が下りていたのだが・・。必然的に映画祭の運営が困難をきわめているのは随所にみてとれた。スタッフも少なく、しかも慣れていない。あちこちで不手際がみられたのはある意味仕方がないとはいえ、やはり残念であった。インフォメーション・デスク、プレスセンター、記者会見会場などメインホテル、ハイアット・リージェンシー内にほとんどの映画祭機能が集まっており、あらゆる問い合わせに対応する体制は整っていた。かつてはショッピングモールの人が行き交う会場で衆人環視のもとで行われていた記者会見もホテル内で行われるようになっていた。かつての様子を覚えていると、少々物足りなさも感じたが、便利といえば便利である。


メイン会場、「インペリアル」
  
屋外上映を待つ人々
  

上映会場は歴史ある映画館「インペリアル」と、活気ある学生街のシネマコンプレックス、「シネプレックス・カルチェラタン」。オープニング、クロージングも「インペリアル」で行われた。また、ハイアット・リージェンシーの向かい側に位置する「プラース・デザール」と称される文化施設群の脇の広場においては、期間中の毎晩、一作品の屋外上映が行われていた。今回の映画祭期間中は例外的に暑く、好天が続いたことも手伝って、詰めかける市民で毎夜賑わいをみせていた。
海外からのゲストも多いとはいえず、この点でも全体的に寂しさは否めなかった。上映作品数自体は400本以上(短編含む)、80か国以上から収集、と昨年とほぼ同数。上映作品の多くは難解ではなく、観やすい観客フレンドリーな作品。上映にあたってのトラブルの類は耳にすることもなく、概ねつつがなく行われた様子であった。非常にリラックスモードの映画祭なため、監督や関係者に気軽に話しかけられる雰囲気があり、監督たちの方も交流には積極的で、質疑応答中に時間切れでこなしきれなかった質問にも場外で答えたり、写真撮影に応じたり、といった具合に観客たちのニーズに応えていた。出品作品の関係者の多くが映画祭入りしていたが、映画祭側からの ‘招聘枠’はかなり狭まってしまい、自費での参加者がほとんど。また質疑応答の通訳の確保などは目に見えて手薄になってしまっていた。

映画祭参加者の交流の場となった
「ハッピーアワー」 

とはいえ、映画祭側はそんな中でも期間中、映画祭を最大限盛り上げるべく、さまざまな工夫を凝らしている様子が感じられた。毎日午後5-7時はハッピー・アワーとして、ハイアット・リージェンシーの屋外の一角を開放し、ビールとソフトドリンクを提供。毎日参加者が積極的に集い、和気藹々とした交流の場として十分機能していた。また‘China meets the West’と銘打った業界関係者向けのイベントが二日間にわたって行われた。中国からプロデューサーたち10名ほどの代表団が訪れ、共同制作者や出資者を募ったり、現在の中国の映画市場についてのパネルディスカッションを行ったりといった内容で、盛り上がりをみせた。ロジーク氏の長年にわたって築き上げてきた中国映画界との友好関係をもとに実現した企画といえるだろう。


現地のメディアを何かと騒がせた今年の映画祭、オープニング作品も論議の的となっていた。今回のオープニング作品は、過去にモントリオール映画祭にて、最高賞グランプリの三度の獲得歴(*『運動靴と赤い金魚』、『太陽は、ぼくの瞳』、『少女の髪どめ』)を持つイランの巨匠マジッド・マジディ監督による大作、『Muhammad』。預言者ムハンマドの生涯を描いた、171分の一大叙事詩であるが、預言者の描き方について多大な問題があるとして上映会場・インペリアルの周りに抗議する人々が押し寄せ、物議を醸した。

日本映画にとっても作品のお披露目の場として長年重要なポジションにあるモントリオール映画祭。モントリオール市にて催される数多くの文化イベントの中でも、市民に非常に高い評価を受けているという。実際、映画祭パスをさげて楽しそうに会場を行き来している市民と思われる人を多数見かけた。が、映画祭を継続させるにあたって、問題が山積しているのは明らか。同映画祭の創設者であり、現在に至るまで実務面でも代表を務め、映画祭を指揮しているセルジュ・ロジーク氏であるが、公的助成金なしでこれだけの規模の映画祭を何年も運営できるものではない。来年40回に向けて、何らかの抜本的対策が求められている。映画祭のオープニングに出席したモントリオール市長は、「映画祭終了後にロジーク氏と今後の映画祭のあり方について話し合いたい」と報道陣を前に宣言した。現地の新聞によるとその「話し合い」においては映画祭運営メンバーの刷新も俎上に挙がる見込みで、実際立候補を申し出ている企業家も存在するとのこと。関係が相当こじれてしまっているSODECとの和解も急務であろう。同映画祭をめぐる今後の動きに要注目である。



**日本映画**

『At Home』上映後、
観客の質問に答える
蝶野博監督、三宅はるえプロデューサー 

メインコンペティション部門をはじめ、今年も各部門へ多種多様の日本映画が出品を果たした。ほぼ毎年といって良いくらい、賞に絡んでいることからもうかがえるように、モントリオール映画祭において日本映画は固定ファンをしっかり獲得している。近年はかなりの確率で日本作品が何らかの主要な賞を受賞していたが、今回は残念ながら無冠に終わった。「メインコンペ部門」には『合葬』が、第一作目の監督作品を集めた「ファーストフィルムコンペ」部門には日本からは4作品がエントリーを果たした。いずれもフレッシュで、良質なインディペンデント作品で、観客の反応も軒並み上々であった。今回の出品者の人々からは作品への招待状が早々に届いたところまでは良かったが、その後の具体的なやり取りにあたっては、上映日程をはじめ返答が映画祭側から得られず、なかなか出発の準備に取り掛かれなかった、との声が続出していた。このあたりは映画祭としての基本中の基本で、担当者の人数を増やすなり、具体的な改善が最も望まれる部分である。モントリオールを訪れた日本作品の監督たちは皆、積極的に質疑応答やハッピーアワーに参加していた。多くの監督が一様に日本での反応との違いに驚いていた。「シリアスな作品中で、‘ここで?’というような意外な箇所で笑いが起こる」。日本人の映画の観方はきわめて「真面目」で、コメディ作品以外では笑うことは不謹慎である、と無意識のうちに思っているのだろうか、というある監督のコメントが印象的であった。





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