公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流
 

映画祭レポート


◇釜山国際映画祭 2022/10/5-14
  Busan International Film Festival

 

**受賞結果**
New Currents Award
(最優秀新人作品賞)
A Wild Roomer  LEE Jeong-hong
Shivamma   Jaishankar ARYAR
Kim Jiseok Award
Scent of Wind   Hadi MOHAGHEGH
Alteration  Yalkin TUYCHIEV
BIFF メセナ賞
(最優秀ドキュメンタリー)
韓国: A Table for Two  KIM Boram
Asia: The Football Aficionado  Sharmin MOJTAHEDZADEH, Paliz KHOSHDEL
Sonje 賞(短編)
韓国: I’m Here   JEONG Eunuk
Asia: Southern Afternoon LAN Tian
Special Mention: Other Life ROH Dohyeon
KB観客賞
(*ニューカレンツ部門観客賞)
The Winter Within    Aamir BASHIR
Flash Forward部門観客賞
Riceboy Sleep  Anthony SHIM
CGV Art House 賞 LUCKY CHAN-SIL KIM Cho-hee
NETPAC 賞 Moving On | YOON Danbi
国際批評家連盟賞 千夜、一夜    久保田 直

(映画タイトルは英語題名) *日本からの出品作品はこちらから



**概観**


「映画の殿堂」脇に並んだ
上映作品ポスター

 第27回釜山国際映画祭が例年通り釜山市・海雲台地区を中心に開催された。釜山映画祭は昨年もリアル開催が実施されたことはされたが、入国制限が厳しく、外国人の姿がほぼ皆無でほぼ韓国の人のみだったという。コロナ禍において日本から韓国入りするには何らかのビザが必要(韓国から日本も同様)、かつ韓国入国後には入国者全員にPCR検査が義務づけられるという状態が続いていたが、8月以降ビザなしでの渡航が可能になり、10月からはワクチン接種3回以上完了の人々はPCR検査も不要になった。おそらくそのおかげもあって、日本からの映画祭来訪者もかなりの数に上った。日本のみならず、アジア及び欧米からも多くの海外ゲストが詰めかけており、人々が「リアル」に集える素晴らしさを実感していたように思えた。



 上映作品は71か国から242本を数えた。釜山市は面積的にもかなり広く、海雲台地区はその一部にすぎない。他の地域でも上映を求める声が上がっており、映画祭としてはそれに応えるべく努めているとのことで他の地区での上映も行っている。観客とゲストをつなぐ、さまざまな形・場所での’トークイベント’が多数設けられているのも観客にとっては魅力であろう。業界関係者に向けても、ほぼ毎晩なんらかの集いがあり、「映画祭に行ったのになかなか人に会えない」という問題は釜山映画祭においては皆無である。釜山映画祭関係者によると予算的には厳しい回であったとのことだが、おそらく上手に工夫をしていたのだと思われ、以前どおりの華やかさを演出していた。強いていえば空港〜海雲台間の送迎バスの廃止や、かつては頻繁に市内の映画祭関連施設を循環していたシャトルバスが激減したことくらいであろうか。また、ホテルもかつてのメインホテル、「グランドホテル」がホテルとしての営業を中止し他形態に変わったため、招聘ゲストの宿泊地確保も難題だったようだ。

「映画の殿堂」中庭、くつろぎスペース。
憩いの場となっていた。

 毎年のように映画祭期間中に一度は襲ってくる台風も今回は鳴りを潜め、期間中好天に恵まれた。オープニングセレモニーはメイン会場である「映画の殿堂」(=釜山シネマセンター)にて、チョン・ウソン、イ・ニハという韓国人俳優の司会によって執り行われ、韓国内外のスターたちや出品作品関係者が次々と登壇、レッドカーペットを彩った。いろいろな受賞式も映画祭を盛り上げた。釜山映画祭はアジアの映画産業や文化の発展に大きく寄与してきた映画関係者に‘アジア映画人賞’を毎回贈賞しており、今回の受賞者は香港映画のアイコンともいうべき、俳優トニー・レオン。それに伴うウォン・カーウァイ監督作品を中心とした、「トニー・レオン特集」に心躍った映画人・観客も数多かったにちがいない。




 かつてはAFM(Asian Film Market)と呼んでいた釜山のフィルムマーケットは、2020年よりアジアン・コンテンツ・フィルム・マーケット(ACFM:Asian Contents & Film Market)と改称されている。フィルムマーケットは、2006年の初開催以来、過去最多の参加者数記録を更新したとのことである。ACFMでは今回、「Busan Story Market」が新設され、映像コンテンツの「原作」となる小説・漫画や脚本などの売買も行われた。ACFM のイベントとしてアジア地域の独創的で優れたテレビ、オンラインコンテンツや俳優に贈られる賞、アジアン・コンテンツアワードも今年も華やかに開催された。2019年に初開催され、開始で今回で4回目。日本からは『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』での演技が評価され、主演男優賞を受賞した鈴木亮平氏が出席し、英語での流暢なスピーチを披露した(他に横浜流星氏がニューカマー賞を受賞)。この受賞式の模様は韓国内外の多くのメディアで取り上げられた。

若者が圧倒的に多い

 韓国の映画祭は総じて観客層が若い。釜山映画祭もその傾向が顕著である。そして20年前からこの傾向は変わらっていない。20年前の10−20代は現在は40代ぐらいだが、映画祭で40代以上と思われる観客を見かけることは非常に少ない。やはり諸事情から足が遠のいてしまうのだろうか、との思いに駆られた。






**日本映画**


 日本映画の選出は特別に多いとは言えないが、まずまずの本数であった。なかでも注目はクロージング作品に石川慶監督の『ある男』が選ばれたことであろう。石川監督とメインキャスト三人が来訪し、5000人の観客を前に思いを語った。ニューカレンツ部門審査員を俳優の加瀬亮氏、Sonju賞審査員を早川千絵監督が務めた。釜山映画祭側は日本人の審査員の招聘を常に希望しているものの調整が難航しがちであるが、今回は晴れてふたりの日本映画人が務めるに至った。

 Discovering New Japanese Cinemaと銘打った、日本のインディペンデント映画特集が組まれたことも喜ばしい。2010年以降にデビューした日本人監督の作品の中から、メディアや評論家、国際映画祭等から高く評価された10作品が上映された。濱口竜介監督、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三氏、大阪アジアン映画祭プログラミング・ディレクターの暉峻創三氏、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭プログラミング・ディレクターの長谷川敏行氏が最終的な作品選考にあたったという。昨年招待されていたもののコロナ禍によって渡航が叶わず、この機会にあらためて釜山を訪れ、観客と触れ合えたと手応えを語る監督もいた。

賑わうAPMオープニングパーティー

  
APM受賞パーティー

  



 企画マーケット「Asian Project Market(APM)2022」は質の高い企画が選出されることで知られているマーケットの一つである。世界40カ国288企画の中からAPMが正式に選出した14カ国29企画の中に、今回は日本からは奥山大史監督の長編第二作目の『MY SUNSHINE』、森達也監督の長編劇映画としては第一作になる『福田村事件』(仮題)の二作品が選出された。選出されるとAPM開催期間中に、世界中から招待された出資者、映画祭担当者、プロデューサーなどを相手に、ピッチングセッション(英語)を実施する。そして最終日に各賞が発表され、『MY SUNSHINE』が、ARRIアワード(ARRI機材を提供される)、『福田村事件』(仮題)は「今後の展開が最も期待される作品に贈られる」という「NUTRILITEアワード」を受賞した。


受賞式にて。
『My Sunshine』の(左から)
西ヶ谷寿一プロデューサー、奥山大史監督、通訳・増渕愛子氏











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