公益財団法人川喜多記念映画文化財団
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映画祭レポート
◇第30回釜山国際映画祭 2025/09/17-26
Busan International Film Festival
| **受賞結果** | ||||
|---|---|---|---|---|
| The Asian Filmmaker of the Year | Jafar Panahi | |||
| Korean Film Award | CHUNG Jiyoung | |||
| Camelia Award | Sylvia Chang | |||
| BIFF Cinema Master Honorary Award | Marco Bellocchio | |||
| Busan Award | 作品賞 | Gloaming in Luomu Zhang Lu | ||
| 最優秀監督賞 | Shu Qi (for ‘Girl’) | |||
| 審査員特別賞 | Funki Freaky Freaks HAN Chang-lok | |||
| 最優秀俳優賞 | Lee Jiwon (in ‘En Route To’) 北村匠海、綾野剛、林裕太(in「愚か者の身分」) |
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| 最優秀芸術貢献賞 | LIU Qiang, TU Nan (for Resurrection) | |||
| New Currents Award 最優秀新人作品賞 |
En Route To Yoo Jaein | |||
| Kim Jiseok Award | Village Rockstars 2, Rima Das(インド、シンガポール) Yen and Ai-Lee Tom Lin Shu-yu(台湾) |
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| BIFF Mecenat Award (最優秀ドキュメンタリー) |
(韓国) Raining Dust Ju Romi, Kim Taeil (アジア)Singing Wings Hemen Khaledi |
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| Sonje Award | (韓国) It Sounds Louder on Rain Kim Sang-yun (アジア) Delay Wang Han-xuan |
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| KBS観客賞 | On Your Lap Rezo Rahadian | |||
| NETPAC賞 | Malika Natalia UVarova | |||
| 国際批評家連盟賞 | On Your Lap Rezo Rahadian | |||
| Vision of Jiseok Award | Kurak Erke Dzhumakmato | |||
**概観**
| 映画祭日刊紙の表紙を飾った 『旅と日々』三宅唱監督、 主演・シム・ウンギョン氏 |
30回目の釜山国際映画祭は大きく趣きを変えてきた。釜山映画祭のプレジデント、パク・クァンス氏が昨年の記者会見で「従来の映画祭フォーマットでの開催は今年が最後」と話していたことを思い出す。とりわけメインコンペティション「釜山アワード」部門の新設はインパクトが大きかった。「釜山アワード」部門は今年の出色のアジア映画を対象としており、すでに他の映画祭に出品歴のある作品も対象とした。創立当初から釜山映画祭のコンペティション部門といえば監督作品1,2作目までの新人監督のみを対象にした「ニューカレンツ」のみで、のちに映画祭の創設から関わり、その発展に大きく寄与した故キム・ジソク氏の名を冠した「ジソクアワード」が独自の賞を授与する部門として加わったが、いわゆるメインコンペティション部門は存在しなかった。また、釜山映画祭はここ数年、「映画祭ディレクター」が定まらない不安定な状況であったが、今回、晴れて新ディレクターとしてチョン・ハンソク氏が着任した。ハンソク氏は同映画祭のプログラマーとして在籍しており、内部からの昇進となった。初となる「釜山アワード」部門には14本(日本3本、韓国4本、台湾2本、中国2本、イラン、タジキスタン、スリランカ各1本)が選出された。『哭声/コクソン』で知られる韓国のナ・ホンジン監督が審査委員長を務めた審査員団は他に、香港の俳優レオン・カーフェイ氏、インドの映画監督・俳優ナンディタ・ダス氏、イランのマルズィエ・メシュキニ監督、韓国系アメリカ人映画作家コゴナダ、インドネシアの映画製作者、ユリア・エヴィナ・バラ氏、そして韓国の俳優ハン・ヒョジュ氏が名を連ねた。結果、中国のベテラン監督、チャン・リュルの『Gloaming in Luomu』が最優秀作品賞に輝き、台湾の俳優スー・チー氏が初監督作品『Girl』で監督賞を受賞した。
| 華麗にライトアップされた 夜の「映画の殿堂」前 |
記念すべき30回目の今回の映画祭は、オープニングからかなりの気合いが感じられた。地元韓国を代表する監督のひとりであるパク・チャヌク監督の『No Other Choice』がオープニングを飾り、主演のイ・ビョンホン氏をはじめ出演した韓国の著名な出演俳優たちが記者会見に臨んだ。同作は米国アカデミー賞国際長編部門の韓国代表にも選ばれている。イ・ビョンホン氏はオープニングの司会も務め、自身の俳優としてのキャリアと映画祭の歩みとのリンクを語るシーンをみられた。釜山映画祭の歩みは韓国映画が飛躍的な発展と共にあったことを思い起こさせる場面でもあったといえる。オープニングのレッドカーペットには韓国の名だたるスターたちをはじめ、日本を含む海外からのゲストも大勢姿を見せ、例年以上に華々しい開幕となった。今年の映画祭においては64カ国・地域の241本が上映された。市民向け上映を含めた上映本数は328本で、観客数は17万5,889人と昨年より約2万人増加した。メイン会場は変わらず海雲台地区の「映画の殿堂」(釜山シネマセンター)。各種イベントや市民向け上映を含めた合計の動員数は23万8,697人であった。近年、明らかに大衆化路線に進んでいる映画祭、動員数は好調であるといえる。メイン会場前広場は常に賑わっており、特にグッズ売り場は連日大盛況で、グッズ店の白い紙袋を持った人が大勢行き交っていた。今回の映画祭開催は9月半ばであったが、これは今回限りの措置で来年は従来の10月開催に戻るとのことである。
| 『国宝』のバナー
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**日本映画**
| 『秒速5センチメートル』 屋外上映に集った人々 |
例年以上に華やかであったオープニングセレモニーにはドレスアップした日本の映画人も多数姿を見せた。オープニング以降も作品上映に合わせて日本の俳優の来訪も相次ぎ、出演俳優の晴れの場を見るべく日本から訪れるファンの姿も目立った。『8番出口』の主演俳優、二宮和也氏は日本人俳優として初めて「アクターズハウス」に登壇し、入念なリサーチぶりが光った司会者との充実したトークを行い、観客からの質疑応答にも積極的に参加していた。
映画祭併設マーケットのACFM(Asian Contents & Film Market)では、マーケット部門の新ディレクター、エレン・キム氏の指揮のもと、主にプロデューサー同士の交流を推進するプログラム「プロデューサー・ハブ」がスタートした。日本からも多くの監督やプロデューサーが参加し、韓国をはじめアジアの国々との合作に向けたミーティングやネットワーキングに励んでいた。ACFMの目玉ともいうべき企画マーケット、「Asian Project Market(APM)」は質の高い企画が選出され、その中でも優れた企画には複数の賞が授与されることで知られている。今回APMが選出した30企画の中に日本からは三作品が入り、三作品とも受賞に至った。外山文治監督の『Life Redo List』がONE COOL AWARD、中川俊監督の『90 Meters』が、ARRIアワード(ARRI機材を提供される)、松永大司監督の台湾との合作作品『Until That Day』(仮題)は「TAICCAアワード」を受賞した。
| 『秒速5センチメートル』 観客に手を振る主演・松村北斗氏(右)。 奥山由之監督(左) |
今年も各部門に満遍なく日本映画が出品され、抜群の存在感をみせた。メインコンペション「釜山アワード」部門には3本の日本作品が入り、『愚か者の身分』に主演した3人の俳優(綾野剛氏、北村匠海氏、林裕太氏)が最優秀俳優賞を受賞した。『ルノワール』『災』『恋愛裁判』といった、欧州の映画祭ですでに話題をよんだ作品のアジアプレミア上映、『秒速5センチメートル』『兄を持ち運べるサイズに』等、屋外上映の作品も比較的好天に恵まれ続けたこともありほぼ満員であった。日本国内での記録的大ヒット作品、『国宝』はガラ上映部門に選出され、釜山映画祭の常連でもある李相日監督、そして主演の吉沢亮氏と黒川想矢氏が来場し、オープントークを展開し盛り上がりを見せた。
日本貿易振興機構(ジェトロ)はメイン会場‘映画の殿堂’前のBIFF広場において「ジャパンパビリオン」を出店し、過去に韓国で上映された日本映画の歩みを紹介し、日本映画の現在と未来に焦点を当てた。4,530人が訪れたとのことである。業界関係者のみが入場できるマーケット会場ACFM(Asian Contents & Film Market)内ではなく、多くの一般の観客・市民が立ち寄れる場所に設置したのは良き判断であったと思われる。特に、是枝裕和監督、岩井俊二監督からの韓国ファンへのメッセージやサインの展示への反応は熱く、来場者から数多くの応援メッセージなどが寄せられたとのことである。
| ジェトロの運営した「ジャパンパビリオン」。来場者から多くのメッセージが寄せられた。
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映画祭併設のマーケットACFMには54カ国から約3,000人の映画関係者が参加した。日本からも多くの映画会社が個別ブースを構えて参加したほか、監督、プロデューサーたちがミーティングやネットワーキングに励む姿がみられた。毎年注目度の高い企画マーケット、「Asian Project Market(APM)」は多くの応募の中から30企画が選出され、その中でも優れた企画には複数の賞が授与される仕組みである。今回APMが選出した30企画の中に日本からは3作品が入り、藤田直哉監督の『The Funeral March』がONE COOL AWARDを受賞した。