公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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パノラマ

続・シナリオを書いてみませんか? その2  2012年10月10日掲載

 
 

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●シナリオ構成(2)



いらない箇所を捨てることにより
シナリオの密度が高まります

 また、シナリオを書く場合、常に頭の中に入れておいて欲しいことが二つあります。まず、書いている事実を観客は知っているが、登場人物は知らない、あるいはその反対で、観客は知らないが、登場人物は知っている、この区別をはっきりと自覚することです。シナリオ直しの段階で、しばしばこの議論は交わされました。「刑事コロンボ」は、この前者のシチュエーションを利用したものです。後者は使い方が難しいです。へたな探偵小説でもよくありますが、著者が次々と新しい出来事を書き加え、それを「なぞ」として観客を引っ張っていくケースです。しかし、これは少し卑怯な気がします。観客にすべてを教えて、少なくともヒントを与えておいて、その中で「なぞ」を作っていく、むずかしいですが、これを成し遂げたとき、はじめて面白いシナリオが完成するのだと思います。

 もう一つの忠告は、20枚シナリオでも、最初から20枚にこだわらず、書けるだけ書いてしまうことです。そして、後からいらない部分、前後の関係で重複する部分を切り落としていくのです。こうすることによって、シナリオの密度は高まります。シナリオに限らず、すべての創作物に言えることだと思いますが、「捨てる」ということはつらいことですが、必要なことなのです。とくに苦心して書いたシーンやセリフを削ることは辛いことです。そのシーン、セリフが気に入っていると尚更です。しかし、シナリオは全体で評価されるもので、部分的な輝きも映像になると死んでしまいます。「太陽にほえろ!」では、若い脚本家が第一稿を書き、それをベテランの脚本家が手を入れるというシステムを採りましたが、自分の書いたものでないと、不必要なものを冷静に捨てることが出来ます。第一稿を書いた脚本家にはかなり不満があったようですが、これが「太陽にほえろ!」を成功させた一番の要因だったと思っています。余分なものを捨てることで、結果として的確な構成の作品になるのです。直された脚本家もその時は不満に思っても、映像が出来上がると、ベテラン脚本家の技術に舌をまいていました。

<その3へつづく>   

執筆者紹介 岡田晋吉

 1935年、「鎌倉」生まれ、慶応義塾大学文学部仏文学科1957年卒業。
 石原裕次郎とは慶応義塾大学の同期である。 1957年、日本テレビ放送網株式会社に入社。アメリカ製テレビ映画の吹き替え担当を経て、1964年から日本製テレビ映画のプロデューサーとなる。 作品は、アメリカ製テレビ映画:「世にも不思議な物語」「幌馬車隊」など、テレビ映画としては、「青春とはなんだ!」「飛び出せ青春」「太陽にほえろ!」「傷だらけの天使」「俺たちの旅」「俺たちの朝」「あぶない刑事」「いろはの“い”」「俺たちは天使だ!」「忠臣蔵」「白虎隊」「警視K」など多数。 竜雷太を初めとして、松田優作、中村雅俊、勝野洋などを育てた。
 現在は「公益財団法人川喜多記念映画文化財団」の業務執行理事。

 

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