公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇釜山国際映画祭 2014/10/2-11
  Busan International Film Festival

 

**受賞結果**
New Currents賞
End of Winter  
by Kim Daehwan / 韓国 13  
by Hooman Seyedi /イラン
KNN賞(*ニューカレンツ部門の観客賞)
Ghadi
by Amin Dora /レバノン
Busan Bank賞
(*Flash Forward部門の観客賞)
The Boss, Anatomy of a Crime
by Sebastian Schindel アルゼンチン/ベネズエラ
NETPAC賞
Socialphobia   
by Hong Seok-jae /韓国
国際批評家連盟賞 What’s The Time In Your World? 
by Safi Yazdanian /イラン
BIFF メセナ賞
(最優秀ドキュメンタリー)
The Storm Makers
by Guillaume Suon /カンボジア
Collapse
by Mun Jeonghyun, Lee Wonwoo /韓国
Sonje 賞(短編) Stairway
by Matt Wu  / 台湾 The Night 
by Choi Kiyun  /韓国 
Actor and Actress of the Year賞
(*新設)
男優:Choi Woo-shik(Woo-shik Choi),
女優:Cho Soohyang(Soohyang Cho)
Daemyung Culture Wave賞(*新設) The Liar
by Kim Dong-myung /韓国
CGV Movie Collage賞 A Matter of Interpretation  
by Lee Kwang-kuk /韓国
Asian Filmmaker of the Year賞 Ann Hui /香港
Korean Cinema 賞 Corinne Siegrist-Oboussier
(スイス「Filmpodium」のディレクター)
Asian Star賞 最優秀新人監督賞:杉野希妃

(『』内は英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**

映画祭一色の
『映画の殿堂』周辺 
 
子どもたちにも
親しまれている釜山映画祭
 

 台湾のニウ・チェンザー監督の『軍中楽園』で開幕した第19回釜山映画祭。一昨年より開会式の司会役を韓国人限定にしない(=アジア地域全体から選ぶ)ことで「アジア映画界の中の釜山映画祭」をアピールしてきた同映画祭はタン・ウェイ氏(中国)、アーロン・クオック氏(香港)に続き今年は、日本の渡辺謙氏を抜擢した。渡辺氏への2年越しのアプローチが実を結んだとのことである。もうひとりの司会者は韓国の女優、ムン・ソリ氏。イ・チャンドン監督の『ペパーミント・キャンディー』でデビュー、その後イ監督の『オアシス』で第59回ベネチア映画祭の新人俳優賞を受賞し、国際的にも知名度の高い女優で、今回の映画祭では『自由が丘にて』で加瀬亮氏と共演している。開会式ではさらにゲストとして、歌手の夏川りみ氏が韓国の古典楽器を伴奏に平和への祈りをモチーフとした「さとうきび畑」を歌うなど、日韓の文化による連帯を強く印象づけた。釜山映画祭幹部の中には、この開会式を含む映画祭が、現在の日本と韓国の政治的緊張関係を文化で解きほぐす一助となり、両国の友好に寄与できれば、との思いも少なからずあったとのことである。

 今年の開会式は昨年までと少々趣きを異にしていた。ここ数年、開会式のレッドカーペットにおいて女優たちが‘露出過剰’となっており、式そのものよりもその手の話題で持ちきりになるくらいであった。映画祭の品位の低下を憂慮した映画祭側が、今回は出演予定者に事前に「自粛通達」をしたところ、それなりに功を奏したようで、今回のレッドカーペットは落ち着いたエレガントな装いが大半を占めた。また映画祭とは直接関係のないK-POPスターなどが開会式に登場することもなかった。昨年まで海雲台ビーチにて催されていたスターとファンとの交流イベント、「ブルーカーペット」は廃止となった。スターを間近で拝みたい人々には貴重な機会であったかもしれないが、「映画祭」とは一線を画した催し物であった。その一方、観客が監督・俳優と接するイベントを増やした。今回の映画祭に出席したゲストのリストを見ても、昨年までのやや過剰なまでの華やかさの追求を止め、きちんと映画そのものに重点を置く姿勢に回帰した感が強い。実際、映画祭運営者たちは「映画ファンと共にする映画祭を作る」という映画祭開始当時の初心に戻ることを記者会見で述べており、開会式、及び閉会式に招待する来賓の数を大幅に縮小、対して一般観客席の割合をこれまでの3割から5割に拡大した。他にも上映会場付近やメイン会場「映画の殿堂」の内外に観客が寛げるような場所を拡充したり、シネ・キッズ部門を新設するなど、観客層の拡大、観覧サービスの向上を目指しての工夫も随所に垣間みられた。その結果(と言ってよいだろう)、来場者数は226,473人となり、歴代最多であった2012年の来場者数221,002人を抜いて過去最高を記録した。上映作品数は79ヶ国から計312本、そのうちワールドプレミアが96本、インターナショナルプレミアが36本であった。

 **セウォル号ドキュメンタリー**

 今年の釜山映画祭においておそらく最大の話題は、今年4月に起きたフェリー、セウォル号沈没事故を扱ったドキュメンタリー、『ダイビング・ベル』(ワイドアングル部門)の上映に関する一連の騒動であった。アン・ヘリョン監督とセウォル号惨事を報道してきた告発ニュースのイ・サンホ記者が共同演出を担当した同作について、複数個所より上映取り消しを求める要求があった。特に釜山市長が中止を申し入れたことが政治的介入として物議を醸した。この中止申し入れに対し数々の抗議行動が起こり、「映画の殿堂」前で配布されていた声明文(「徹底的な真相究明が保障されたセウォル号特別法を促す映画人1123人宣言」)には、韓国の有名無名映画人1123名が名を連ねていた。映画祭に参加していた監督たちが実際に配ったりもしており、かなりのインパクトであった。結果的に映画祭側は「映画祭は外圧に左右されない」として、同作は予定通り上映された。公式招待作品の上映中止要求が出たのは、釜山映画祭が始まって以来19回目にして初めての事態だったとのことである。ちなみに同作は韓国での一般公開も決定した。



**韓国映画振興**

観客がつどう場がさらに充実
 

 どんどん賞が増設されている。・・と思ったら、そのほとんどが韓国映画を支援する性質のものであった。韓国映画を振興しようという意気込みを持つ一般企業も少なからず存在している。純粋にうらやましい。まず今年新設の賞がふたつあり、ひとつはActor and Actress of the Year Award。ニュー・カレンツ部門とコリアン・シネマ・トゥデイ部門ヴィジョンの上映作品へ出演した新人俳優が対象で、受賞者には賞金 5,000,000 KRW が授与される。もうひとつはDaemyung Culture Wave賞(*Daemyung(テミョン)はスポンサー名)で、韓国のインディペンデント映画の上映機会の拡大を目的に創設された賞で、ニュー・カレンツ部門とコリアン・シネマ・トゥデイ部門ヴィジョンの作品が対象。20,000,000 KRW の賞金と配給サポートを受けられる。またCGV Movie Collage賞は韓国映画の発展とインディペンデント系映画、実験的かつ斬新な作品、低予算作品の配給をサポートする目的で2011年度に創設。コリアン・シネマ・トゥデイ部門ヴィジョンを審査対象としている。市民批評家賞も次回作の製作を支援する目的で、受賞作の監督に対し賞金も授与する。コリアン・シネマ・トゥデイ部門ヴィジョンへエントリーされた作品が審査対象。欲を言えば韓国以外の作品に対しての賞も増えて欲しいものだが・・・。

 

**「アジア映画」と日本人**

今年の出品作の監督たち
 

 今回の映画祭ではアジア諸国との合作が進み、合作映画に出演する日本人俳優の数も増え、かつ存在感も増していることが証明されていた。行定勲監督の『真夜中の五分前』は製作としては日中合作、主演は日本人俳優(三浦春馬氏)であるが、共演は中国人女優、台湾人俳優、そして舞台は上海、という‘アジア映画’である。韓国映画『ザ・テノール 真実の物語』に日本人俳優が重要な役どころで出演している(伊勢谷友介氏、北乃きい氏)。またホン・サンス監督による韓国映画『自由が丘で』の主演俳優は加瀬亮氏である。皆それぞれ釜山入りし、ともに作品をつくったスタッフ、キャストたちと和やかに談笑する姿をみるに、映画制作において国境の溶解が進んでいることを実感する。そして夜の宴などでもさまざまな国の人々と積極的に交流している日本人映画人をあちこちで散見した。日本人の参加者にとって、釜山は他の映画祭以上に気のおけない、馴染みやすい映画祭で、次作以降につながる出会いが多い映画祭であるそうだ。

 日本人のいわゆる「韓流ファン」はまだまだ健在である。メインホテルであり、数々のイベントが繰り広げられていた‘グランドホテル’のホテル前やロビーには韓国人俳優を待ちうける日本人女性のグループの姿がほぼ毎日見受けられた。ここ10年ぐらい一貫して変わらない光景である。その熱意には頭が下がる。韓国(及びその他の外国人)の人々の目にはかなり不思議な現象に映るらしい。確かに不思議には違いないが、なんにせよ映画祭が活気づくのは良いことである。たぶん。








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