公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇第76回ベルリン国際映画祭 2026/2/12-22
  Internationale Filmfestspiele Berlin

 

**受賞結果**
金熊賞 Yellow Letters Iker Catak
銀熊賞 審査員大賞 Salvation Emin Alper
審査員賞 Queen at Sea Lance Hammer
最優秀監督賞 Grant Gee (for ‘Everbody Digs Bill Evans’)
最優秀主演俳優賞 Sandra Huller (in ‘Rose’)
最優秀助演俳優賞 Anna Calder-Marshall&Tom Courtenary (in ‘Queen at Sea ’)
最優秀脚本賞 Gevevieve Dulude-de Celles (for ‘Nina Roza’)
芸術貢献賞 Anna Fitchm, Banker White (‘Love is Rebellious Bird’)
最優秀新人作品賞 Chronicles From the Siege Abdallah Alkhatib
最優秀ドキュメンタリー賞 If Pigeons Turned to Gold Pepa Lubojacki
短編部門 金熊賞 Someday a Child Marie-Rose Osta
ジェネレーション部門Kplus クリスタルベア賞 Sad Girls Fernalda Tovar
国際批評家
連盟賞
コンペ部門 Soumsoum, the Night of the Stars  Mahamat-Saleh Haroun
パースペクティブズ部部門 Animol   Ashley Walters
パノラマ部門 Narciso   Marcelo Martiness
フォーラム部門 チルド   岩崎裕介
Berlinale Camera
Max Richter
Honorary Golden Bear
(金熊名誉賞)
Michelle Yeoh

(英語題名) *日本からの出品作品と受賞結果はこちらから



**概観**





今年のメインビジュアル

今回のベルリンは政治の話題が主役になったと言っても過言ではない。正確には「映画と政治の関係」についてであろうか。審査委員長、ヴィム・ヴェンダース監督の開幕記者会見時の発言(「われわれ(映画製作者)は政治とは距離を取るべきだ」)に端を発し、ドイツ政府やベルリン映画祭のイスラエル・パレスチナ問題への向き合い方に対しての批判が業界紙やSNSを中心に広がり、収拾がつかない状態になった。トリシア・タトル映画祭ディレクターが火消しに回ったが解決には至らず。最も大きな批判は「ウクライナ問題では明確にウクライナ支持と連帯を表明したベルリン映画祭がなぜ今回は沈黙するのか」であり、ハビエル・バルデムやティルダ・スウィントンなど映画人80人以上が、ベルリン映画祭はこの点について意見を表明すべきとの書簡を公開した。そんな中でのクロージングセレモニーはパレスチナ擁護の発言が相次ぎ、信条表明の場のような様相も呈していた。映画祭終了後ほどなくして、ドイツ文化大臣の指令の下、ベルリン映画祭を運営する独政府系組織KBB GmbHが映画祭ディレクターのタトル氏と「今後の方向性」を話し合うとのことでミーティングを設けることが判明すると、事態を収められなかったディレクターの解任との憶測が世界中に広がり、タトル氏を支持する署名等の動きが広がった。それが影響したかどうかは定かではないが、タトル氏は留任している。映画そのものとは違ったものが話題となった今回の映画祭ではあるが、映画祭では80か国からの278作品が上映され、チケットの売り上げ枚数は350,000枚と絶好調(前年は340,000)であった。ベルリン市民の映画祭への関心は高いままであったといえる。今回の事態について地元の人々の意見を聞いてみたい思いに駆られる。



メインコンペティション部門はヴィム・ヴェンダース監督を審査員長とし、7名の審査員による審査員団で構成された。アジア人は4名。日本からはHIKARI監督が名を連ねた。HIKARI監督は2019年のベルリン映画祭パノラマ部門において長編デビュー作『37セカンズ』が上映され、観客賞を受賞しており、ハリウッドを拠点に活動している。コンペティション部門22作品の中には日本のアニメーション作品『花緑青が明ける日に』が入選した。自治体から取り壊しを言い渡されている地方の花火工場で、幻の花火を作ろうとする若者の物語。日本のアニメーションのコンペ選出は宮ア駿監督の『千と千尋の神隠し』(2001年)、新海誠監督の『すずめの戸締り』(2023年)以来3作目で、日本の長編初作品がベルリン映画祭のコンペ部門入りするのは坂東玉三郎監督の『夢の女』(1993年)以来とのことであった。




賑わう夜のメイン会場前

金熊賞に輝いたのはトルコのIlker Catak監督による『Yellow Letters』。トルコ・イスタンブールにて政治弾圧を受ける芸術家夫妻を描いた作品で、映画祭期間中評価がそれほど高いとはいえなかった同作の金熊賞受賞は驚きをもって受け止められた。銀熊賞審査員大賞の『Salvation』は土地をめぐる近隣との争いを描き、『Yellow Letters』同様、政治的色彩が強い。政治論議が吹き荒れた今回の映画祭の最後に審査員団が導いたのがこの結果というのは示唆に富んでいる。

映画界への長年の功績を讃える名誉金熊賞は俳優のミシェル・ヨー氏に授与された。ヨー氏は1999年にはベルリン映画祭の審査委員も務めており、『宋家の三姉妹』(メイベル・チャン監督)をはじめ、何度も出演作品が同映画祭で上映されている。1977年以来設けられている名誉金熊賞の中でアジア人女性の受賞は初とのことであった。香港アクション映画からキャリアをスタートさせ、その後ハリウッドへ移り、長年にわたり第一線で活動を続けているヨー氏の足跡はアジアの女優としての大成功例といえる。


今年から加わったフォーラム部門第二会場、
Maison de France前に集う人々




**日本映画**


『花緑青が明ける日に』公式上映後の挨拶
(左からベルリン映画祭ディレクター、トリシア・タトル氏 、
竹内文恵プロデューサー、四宮義俊監督、萩原莉久氏、入野自由氏)

今回の映画祭には久々に多くの日本映画が出品された。選出された作品の監督はいずれもベルリン初出品の人々で新鮮であった。コンペティション部門の『花緑青が明ける日に』は日本画家である四宮監督の水彩画を思わせる独特の映像美でベルリンの観客を魅了した。四宮監督は新海誠監督作品や片渕須直監督作品にも参加してきた経歴を持つ。

『映画 えんとつ町のプペル〜約束の時計台』
の上映に入ってゆく小学生の団体

ジェネレーション部門のうち、4歳以上を対象とするジェネレーション Kplus部門にアニメーション『映画 えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』が選出された。上映時には学校行事の一環として訪れたと思われる、引率の先生に連れられた10数人の子どもたちのグループが複数見受けられた。楽し気に行儀良く、そしてリアクション豊かに鑑賞していた。(ジェネレーション部門に限り、ひとりが20枚までチケットを購入できるシステムがあるそうだ)。パノラマ部門には内山拓也監督の自身の体験に基づいて作られたという『しびれ』が選出され、青年期を演じた北村匠海氏が監督とともに登壇した。超短時間の滞在にも関わらず積極的に行事に参加する北村氏の姿が印象的だった。フォーラム部門には二作品が選出され、ひとつは吉開菜央監督のやはり自身の体験がベースの『まさゆめ』。体調を崩して禅寺に入った個人的な経験を、独特のスタイルをもって普遍性のあるドキュメンタリーとして完成させた。吉開監督は昨年、『underground』(小田香監督)の出演者であり、二年続けてのフォーラム部門参加となった。もう一作品、岩崎裕介監督の長編初監督作品『チルド』は、日本のコンビニエンスストアを舞台に展開されるホラーコメディ。この作品は発売早々にチケットが売り切れたフォーラム部門期待の一作であったそうで、上映後の質疑応答も大いに盛り上がりをみせていた。そして観客のみならず批評家陣にも好評を博し、国際映画批評家連盟賞を受賞した。




『チルド』公式上映前の挨拶
(中央・岩崎裕介監督、右・ベルリン映画祭フォーラム部門ディレクター、 バーバラ・ヴルム氏 )

 映画祭併設のヨーロピアン・フィルム・マーケット(EFM)は映画祭と同日に初日を迎え、盛況のうちに18日に閉幕した。最近はベルリンに限ったことではないが、マーケットといっても作品の売買のみならず、さまざまなプログラムが催されている。国際共同製作の成立と資金調達を目指す「ベルリン・コ・プロダクション・マーケット」においては、川和田恵真監督の新作『Life is Yours』が35の長編映画プロジェクトのひとつとして公式選出された。



今回もメインのマーケット会場、マーティン・グロピウス内の「ジャパンブース」は日本映画関係者、または日本映画に関心を持つ人々で大いに賑わっていた。ユニジャパンが実施を請け負っている ‘フィルムフロンティア’の一期生、4人の新進監督が映画祭を訪れていた。‘フィルムフロンティア’は、文化庁の補助金により独立行政法人日本芸術文化振興会に設置された包括的な支援プログラム「クリエイターズ支援基金」の一環で、次代を担うクリエイターの海外展開を目的としている。『花緑青が明ける日に』は‘フィルムフロンティア’の支援作品である。良き展開がさらに続いてゆくことを期待したい。

 












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