公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流
 

映画祭レポート


◇釜山国際映画祭 2019/10/3-12
  Busan International Film Festival

 

**受賞結果**
New Currents Award
(最優秀新人作品賞)
Rom TRAN THANH Huy (Vietnam)
Haifa Street Mohanad HAYA (Iraq)
Kim Jiseok Award
Circus of Life  Sarmad Sultan KHOOSAT (Pakistan)
Market Pradip KURBAH (India)
BIFF メセナ賞
(最優秀ドキュメンタリー)
韓国: Underground KIM Jeong-keun (Korea)
Asia: Noodle Kid HUO Ning (China)
Sonje 賞(短編)
韓国: Hello JIN Seong-moon(Korea)
Asia: Dragon's Tail Saeed KESHAVARZ (Iran)
KNN観客賞
(*ニューカレンツ部門観客賞)
An Old Lady LIM Sun-ae (Korea)
Busan Bank 賞
<*Flash Forward部門の観客賞>
Fabulous Mélanie CHARBONNEAU (Canada)
CGV Art House 賞 LUCKY CHAN-SIL KIM Cho-hee (Korea)
NETPAC 賞 Moving On YOON Danbi (Korea)
国際批評家連盟賞 Running to the Sky Mirlan ABDYKALYKOV (Kyrgyzstan)
Asian Filmmaker of the Year賞 是枝裕和(日本)

(映画タイトルは英語題名) *日本からの出品作品はこちらから



**概観**


夜のメイン会場、「映画の殿堂」

 第24回釜山国際映画祭は今年も台風により前夜祭は中止になってしまったものの、オープニングまでに天候は回復し、セレモニーも予定通り行われた。オープニングセレモニーはメイン会場である「映画の殿堂」(=釜山シネマセンター)にて、チョン・ウソン、イ・ニハというどちらも韓国人俳優の司会によって執り行われ、韓国内外のスターたちや出品作品関係者が華々しくレッドカーペットを彩った。表面的には昨年とほとんど変わらぬ釜山映画祭に安堵しつつも、内部スタッフは例によってというべきか、昨年と今年ではかなり入れ替わっている。なかなか落ち着かない。しかしチェアマンであるイ・ヨングァン氏によればこの変化も「来年の25周年に向けて体制強化」の一環とのことであり、ポジティブな改革であれば歓迎すべきことである。オープニング、クロージング作品はどちらも過去に釜山映画祭にて(新人監督によるコンペ部門である)ニューカレント賞を受賞した監督の新作であった。これまで釜山映画祭が新人監督を発掘に力を入れてきたことの成果と言えなくもない。オープニングはカザフスタン出身のエルラン・ヌルムハンベトフ監督の『馬泥棒たち、時間の道(日本語題名:オルジャスの白い馬)』、日本とカザフスタンの共同製作作品で、日本が製作にかかわった作品がオープニング上映となったのは2003年以来とのことである。共同監督は日本の竹葉監督。竹葉監督と主演の森山未來氏は上映に立ち合い場を盛り上げた。クロージングはイム・デヒョン監督の『ユニへ(日本語題名:満月)』であった。


大人気のVR

  
野外上映を待つ人たち

  

 土日を中心に映画祭エリアは多くの市民と思われる観客で賑わっており、非常に活気があった。友達同士、もしくは家族連れの姿も目立っており、「市民の」映画祭としてすっかり定着している感がある。メイン会場の広場には「フードカー」が複数出店し、韓国のファストフードのようなものを売っていた。ベルリン映画祭の「ストリートフードコーナー」を思い出す光景であった(あちらは主にソーセージ系だが)。釜山映画祭の現在の中心は「映画の殿堂」を擁するセンタムエリアと国内外からのゲストが多数滞在する海雲台エリアであるが、映画祭発祥の地である下町、南浦洞(ナンポドン)でも今も一部開催され続けている。南浦洞も盛り上げるべく、今年からはCommunity BIFFと銘打って数々のイベントを催した。センタム/海雲台エリアからはかなり離れているためなかなか行けないが、あの下町エリアでの映画祭体験も捨てがたいものがある

各種イベントは
「映画の殿堂」内で
行われることになった。

 映画祭の明らかな変化として、‘ペーパーレス化’の一環なのだろうか、従来の紙のカタログが今年から廃止になったことが挙げられる。たしかに映画祭期間中に熟読することはまずなく、けっこうな重量感で持ち運びにはまったく適さないものではあったが、それだけ情報量も満載で、保存目的には役立っていただけに、「軽量化・簡略化」した版で残して欲しかった気がしてならない。また、これまでは海雲台ビーチで行われていた、ゲストを招いてのマスタークラス、ハンドプリンティング、オープントークといった各種イベントは今年からセンタムシティの「映画の殿堂」(=釜山シネマセンター)で行われることになった。それらのイベントは主に映画の殿堂内の屋外部分で行われるとはいえ、屋根があるおかげて天候の影響を受けにくくなった。映画祭のプログラムに関しては、‘Icon’というすでに巨匠(及びそれに準じる)監督の作品を紹介する部門が新設された。そして今年は韓国映画100周年にあたることから、韓国映画史100年を振り返る回顧展が企画された。




 今回の映画祭への来場者数は189,116人、昨年と比べ6000名下回ったが、上映作品数も減っているので、実際はそこまでの減少でもないのかもしれない。スター、特に韓国の有名俳優たちの来訪が従来より少なかったことが要因に上げられているようだが、どうなのであろう。今回は85 ヶ国から計299本(昨年は320本余り)。6会場37スクリーンにての上映で、近年、肥大化傾向にあることから、あえて微縮小したとのことである。映画祭に併設して開催されているアジアン・フィルムマーケット(AFM)も56か国から983社、2,188人の参加者を数え、前年比22%増であった。今回、アジアン・フィルムマーケットは、映画を超えてドラマ、出版、ウェブコミックなどまでも含む映像コンテンツマーケットへの転換を図ったのが功を奏したとの見方が強い。特にヨーロッパへの版権販売は史上最高であったとのことである。

活気づくアジアン・フィルムマーケット会場。





**日本映画**


 釜山映画祭はアジアの映画産業や文化の発展に大きく寄与してきた映画関係者に‘アジア映画人賞’を毎回贈賞している。今回の受賞者は是枝裕和監督で、昨年の坂本龍一氏に続き、二年続けての日本の映画人の受賞となった。是枝監督への贈賞理由として「アジア映画界で影響力、インパクトがあり、支持されている映画監督。アジア映画界全体の発展と促進に大きな貢献をしていると同時に、映画監督としてのすばらしい技術を評価したい」とのコメントを発表している。デビュー作『幻の光』以来、是枝監督の作品はコンスタントに釜山映画祭にて上映されてきた。監督本人も自身の映画監督としてのキャリアとほぼ同じ長さの釜山映画祭にとても親しみを感じている、と語っており、釜山の観客からも大きな支持を得ている。是枝監督はいろいろな機会で「ホウ・シャウシェン監督、イ・チャンドン監督らを追いかけて、ジャ・ジャンクー、ポン・ジュノ監督らと切磋琢磨してきた自らを‘アジアの監督’として位置付けている」旨の発言をしており、その点でもこの賞に相応しい。受賞式翌日には、是枝監督のトークセミナーが催され、映画を学ぶ学生や映画人で大盛況であった。モデレーターは日本ともつながりの強いヤン・イクチュン監督が務めた。

満員御礼の是枝監督のトークセミナー。
モデレーター、ヤン・イクチュン氏(左)、是枝監督(右)

 総上映本数の減少とともに、日本映画の上映作品も減少した。別に日韓関係悪化の影響というわけではまったくない。とはいえ、俳優陣の来訪は明らかに少なく、少々寂しいものはあった。が、招待された作品の監督はほぼ皆訪れ、併設のアジアン・フィルムマーケットへの日本からの参加者数はほとんど変わらなかった。日本映画の上映の入りも総じて良好であった。そしてもう10数年以上にわたり、ホテルで(おそらく韓流スターの)「出待ち」をしている日本人女性たちは今年も健在であった。最近はホテルロビーではなく、エレベーター前で待機している人が増えた。同じ人たちなのか、代替わりしているのか・・。












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